第19話 サラの来訪
ロッドがダグリッド領に戻って、ひと月ほどが経った。ここネスト領の季節は秋といったところだ。朝晩は少し冷え込む。この世界では春夏秋冬といういいかたはしない。雨が多い時期は雨季、暖かい時期は暖季、寒い時期は寒季である。そして春と秋の季節は寒暖季である。
寒暖季のネストについに温泉街が完成をした。
僅かな期間でこれだけの大事業を終えることができたのは全て土木省のおかげである。
このひと月の間にリックはこの温泉街で働くことになる元鉱山職員や新たに雇った従業員に研修を行った。
宿泊施設を担当する従業員には接客マナーを飲食店で働く従業員には接客マナーに加えて各レシピの作り方などを伝授した。
これですぐにでも運営できるような状態にはなったが、ロッドと話し合った宿泊担当の運営責任者がまだいない状態であった。こればかりはロッドが適任者がいると自領に戻っているため待つしかない。
それが今の状態である。
リックはネストの屋敷で父サットに代わり、ネスト領の運営のため各部署から上がってくる書類を読んでいた。
すると来客をメイドが知らせに来た。
リックは応接室へと向かう。
そこにはロッドとなんと婚約者であるサラの姿があった。
「ロッド殿、戻られたのですね。…それにしてもサラ嬢もご一緒とは…」
リックがそういうとロッドが口を開く。
「リック殿、大変お待たせし申し訳ありません。無事、宿泊担当者を連れてきました。」
「いえいえ、大丈夫です。ところでその宿泊担当者というのは…」
「隣にいます、サラになります。」
「あー、サラ嬢が…えっ、!サラ嬢がですか!」
リックは驚きのあまり大声を出してしまった。
まさか適任者がサラ嬢とは思いもよらなかったからだ。
「驚くのも無理はありません。普通の反応だと思います。」
ロッドは冷静に言う。
「リック殿、サラはダグリット領の運営に携わっていました。今回の温泉街計画はネスト伯爵家の一大事業になります。そうなればネスト家との連携も欠かせません。そうなった時、領地の運営にも詳しいサラが宿泊担当者を務めることで何事も円滑に進むものと考えています。それに、リック殿とサラは婚約者です。早めに嫁入り先に滞在しても問題は無いかと…父も承知の上です。」
ロッドはさらに先のことまで考えているようだ。
リックはロッドの考えに感服した。
「なるほど、ロッド殿のお気遣い感謝致します。当家としてもサラ嬢の存在はありがたいです。」
「そう言っていただけるとありがたいです。…サラも改めてリック殿にご挨拶を…」
ロッドに促されサラも口を開いた。
「リック殿、兄からこのお話を聞いてすぐに行きたいと決心致しました。何卒宜しくお願い致します。」
サラは一礼する。
その顔はやる気にも満ちていた。
「サラ嬢、とても期待しています!」
リックは笑顔で応えた。
そして、話は今後の温泉街オープンまでのスケジュールの話となった。
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