本編

第1話 ん?転生しました…

僕は今なにかと全国で話題になっている。

中村颯27歳。京都の国立大学を卒業後、財務省に入省。その後とある田舎の人口10万人にも満たない地方都市の市長に全国最年少で当選し、次々と改革を進め、就任から2年で財政健全化、子供の医療費無料など次々と改革を成し遂げた。

今では次期衆院選に出馬するのではないかと騒がれている。これはマスコミが話題作りのために勝手に騒いでいるだけで自分にはそんな気さらさらない。全く迷惑な話である。市政運営で忙しいからそんな気が起きるはずもない。

僕は今日も市民のために精一杯働く。


今はちょうど議会で次年度の予算案の審議中である。

議会の開会前は予算案を通すため、議員への根回しや関係機関との打ち合わせに奔走していた。

しかしそんなことは露知らず、議会開会中居眠りをする議員が多くいる。市民の代表としてこの場にいるはずなのに、その役割を果たしていない。見ていて腹が立つ。

そんな中、議会の壇上では高齢の議員がボソボソとした声で質問を読み上げている。

正直何を言ってるか分からない。質問の趣旨はあやふやで、高齢のためか呂律も回っていない。だが聞かないわけにはいかない。彼は【市民に選ばれた代表者であるからだ。


そうこうしてるうちに議員の質問が終わる。


「それでは中村市長。答弁をお願いします。」


議長に指名をされる。

議員が言っていたことは何も分からない。しかし僕は質問に答えることができる。事前通告制度があるからだ。

この制度は良い点もあれば悪い点もある。正直事前に内容を知っているのであれば書面で回答してら別の議題を話したいところである。

だが今はそうはいかない。


「はい、」



僕は形だけの返事をし、壇上に上がるため市長席を立とうとした。

しかしその時突然目の前が真っ暗になり、僕はその場に倒れた。


「「「市長!市長!」」」


周りから多くの声が聞こえてくる。皆が心配して周りに駆け寄っているようだ。

だがその声もだんだん薄れていく。

なぜ突然倒れたのか僕には見当がついた。

過労である。市長に就任してから休まず、駆け抜けてきた。少しでも市民の生活が良くなるよう一生懸命であった。しかしそのツケがここできたのだろう。

(ここで終わってしまうのか…)

僕はそんなことを考えていると次第に意識は薄くなりこの世界での生涯を終えるのであった。


______________________________


鳥のさえずりが聞こえる。

太陽の温かさも感じる。僕は目を開ける。

どうやらベッドで寝ていたようだ。

僕は体を起こして辺りを見回すとその景色に驚いた。


「えっ、ここどこ!?」


思わず大きな声を出してしまった。

僕の目には華やかな部屋、その部屋の窓からは手入れされた庭園が広がっていた。まるで貴族の屋敷である。

部屋には骨董品や絵画などが置かれ煌びやかである。

僕はこの部屋のことが気になり、ベッドから出る。

部屋を散策すると鏡が置かれているのに気づいた。

そして鏡を覗き込む。しかしその鏡に映った自分の姿を見て、僕は衝撃を受けた。


「えっ、これ誰!?」


鏡に映ったのは年齢で言うと15歳くらいの青年である。髪の色は銀色、色白で顔はとても整っている。イケメンだ。身長は170cmくらいだろうか、とてもすらっとしている。

僕は鏡を見ながら自分の顔を触ってみる。

すると鏡に映る青年は同じ動きをした。


「えっ、これが自分!」


僕はここで確信した。

どうやら前世で死んでしまい、転生したらしいと。


「これってもしかして転生ってやつかな…てか僕は一体誰に転生したの!?」


そう呟いていると突然頭痛が襲う。


「うっ…うっっ…」


あまりの痛さに僕は床にしゃがみ込む。

まるで金槌で殴られているようだ。

しかし、それと同時に頭になにか流れ込んでくる感覚がした。とても不思議な感覚だ。

そして痛みを我慢して1分程経った。すると先程の痛みが嘘のようにサッと引いていった。

そして冷静になると様々な情報が頭に入っていることに気づく。


「こ、この記憶ってこの世界での僕の記憶…」


それは15歳までの今の僕、リック・フォン・ネストの記憶であった。

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