番外編 祝!創立70周年記念

 11月12日、この日は創立記念式典で、久々の土曜日登校だ。


「そっかあ、もう式典の日か」

 私はブレザーの襟に校章のバッジをつける。


「ウチらが69期生であったことを忘れそうになったね」

 栞菜は普段開けているブレザーのボタンを閉める。


 他のクラスメイトはいつも固まっているグループ同士でわいわい騒いでいた。



 9時、式典の時間が来た。

 全校生徒は用意された椅子に出席番号順に座って、静かに待機している。


 校長先生が舞台の上に登場し、私たちは姿勢を正す。

 それだけではなく、歴代の校長先生が舞台の上に上がる。


「いろんな校長先生がいたんだね」

 私は独り言を言った。


 現ミステリー高校の校長先生の挨拶が始まった。

「みなさん、今年は創立70周年、と言うことで盛大な拍手を!」


 多くの人は、普通はそんなこと言わないでしょ、と思いながら普通に拍手をする。


 中には、たった1人でヒューっと口笛を吹くやんちゃな人もいた。

 そいつは、私の天敵である平井ひらい あきらだった。


「これまで、体育祭や文化祭も、ミステリー高校の伝統を受け継いでくれてありがとう!」


 いやいや、ここは“記念すべき”と強調するべきだ。


「70年といった歴史を、80年になっても、100年になっても、受け継ぎたいと思う」


 受け継げるかどうかは、私たちの後輩の行動にかかっているんだけどね。


「最後に、みんな、式典に来てくれてありがとう!」

 校長先生はそう言って、舞台から降りていった。


 式典と言うのは、ミステリー高校在校生が全員参加すべき行事なのに、と思って、拍手どころか、ちょっとした笑いに包まれた。

 しかも、校長先生の挨拶が短すぎるという、このヘッポコTEACHER。



 次の部は、歴代の校長先生の紹介だ。

 紹介が終わると、70周年記念品贈呈が始まった。


「只今より、生徒会部から70周年記念Tシャツを贈呈します」

 この学校の生徒会長、小林こばやし 真依まいがマイクに向かって言った。私の去年の大親友だ。


 周りはざわざわし始めた。


 生徒会執行部員7名は通路の真ん中から、私たちに記念Tシャツを配る。

 Tシャツの色は全て紺色だが、プリントされている文字の色は、ピンク、水色、黄緑、黄色の4種類だ。


 私のところに記念Tシャツが回ってきた。私は4色の中で水色が1番好きなので、水色を手にした。

 と言ってもデザインは知らないが、1ヶ月前にTシャツプリントの文字の色のサンプルを見て決めたので、私たちはビニール袋に自分の名前が貼ってあるTシャツを手に取るのだ。


「続いて、PTAからスクール・フラワーである白ユリを贈呈します」

 教頭先生は生徒会部に1000本以上のユリを渡す。


 白ユリは、私たちが将来に向かって何一つも穢れることの無く成長するように、と言う意味が込められている。

 私たちは白ユリを受け取った。早速匂いを嗅いでみると、本当に良い香りがする。そこまで良い匂いがする花を手にしたのは初めてだ。


 これで、40分に渡る式典が終了した。



 2年8組の教室に戻ると、

「結構短かったよね」

 と栞菜は記念Tシャツを広げる。


「中学校の式典の方が2時間くらいあったし、しかも校長先生のノリがわからんかった」

 私も記念Tシャツを広げた。


 デザインは、表は校章が左胸に描かれており、校章の周りに小さな星がいくつか描かれている。

 裏は流れ星が星型になるように流れて、その中央には“WE LOVE MISTERY!”と横書きに書かれていた。


「中学校のTシャツのデザインとそっくりだなあ」

 私は苦笑いした。


「そうなん?ウチの中学校は式典なんて無かったよ。中学のときは47期生だったから」

 栞菜は驚く。


「私出身のベーカル中学の場合は、メンタリス中学校から分裂して出来たから、3年から順に1期生、2年は2期生……という感じだったんだけどね」

 私はTシャツのデザインをじっくり眺める。


「高校は入学試験で入学するから、入ってきた学年から1期生……という風になるんだよね」

 栞菜は記念Tシャツを綺麗にたたんでスクールバッグにしまう。


「それを知る前は、卒業後に式典があるのかと思って、ショックを受けたからな」

 私も記念Tシャツをスクールバッグに入れた。



 10時、終礼も終わって、放課後になった。

 私と栞菜は異次元研究室に向かった。


 私は研究室のドアを開けると、中には政と憧君がいた。


「おぉ、杉浦、プリントの文字の色は何色にした?」

 憧君は私に近づいた。


 私はあっさり水色と答えると、憧君は「俺と一緒にするなって」と笑いながら言った。


「何だよ、私と一緒になるのがそんなに嫌なのか?!」

 私はイラッと来てしまった。


「いや、別にそんな意味じゃなくて……」

 憧君は慌てて言う。


「なら良いけど、政は何色にした?」

 私は政に話しかける。


「僕は黄緑にしたよ。自然が好きだからね」

「ウチと一緒や!」

 栞菜は大興奮。


「何だかんだ言って、似た者同士が集まっているなあ。水色や黄緑など、みんな冷たい色が好きやん」

 私は8次元カプセルにもたれた。


「言われてみれば」

 政は目を丸くした。



 10分後。


「博士、いつ8次元に行くのですか?」

 私は巨大コンピューターをいじっている眞鍋博士を呼ぶ。


「そうだなあ、11月25日、2週間後かな」

 眞鍋博士は後ろに振り向く。


 8次元カプセルに入っている無色の還元型メチレンブルーの量が減っていっている。


「またギャラクシー・プリズムが何らかの悪さをしたな」

 私は8次元カプセルを睨みつける。


「再来週行って、12月に9次元に行ったら……異次元制覇じゃん!」

 栞菜は喜び始めた。


「確かに、そいつらともう闘いたくないしな」

 政は8次元カプセルを触る。


「じゃあ、また再来週の金曜日に来てね」

 眞鍋博士は8次元について調べている。


「はい」と私たちは気合を入れて返事した。



 10時20分、私、栞菜、政、憧君はそれぞれ帰り道が違うため、私は1人で帰っている。


 西側にある正門を出ようとした時に、

「やあ、杉浦、プリントの色は何色だね?」

 と式典で口笛を吹いていた平井が私を立ち止まらせる。


 平井の近くに私の中学時代の天敵があと3人いた。


「水色だけど」

「おい!オレにくれ!ピンク色と交換しようぜ」

「何でそんな色を選んだん?馬鹿じゃない?最初から水色を頼めばそれで良かったやん!」

 私は怒りに満ち溢れる。


「そんなこと言うでない!早く彰にお前の記念Tシャツを渡さぬか!」

 藤崎ふじさき 鈷都音ことねは腕を組んで私に襲いかかろうとする体勢になる。


「じゃあ、そう言う藤崎はどうなん?私に言う前に藤崎が平井に渡せば、それで良かったやろ?」

「いいや、何もわかっていないんだね。これはオイラたちおそろいのピンク。だから、交換したって一緒なんだぜ」

 高市たかいち 柚記ゆうきは両手を腰に当てる。


「ははあ、そう言うことか。つまり、オソロってわけか」

 私はニヤニヤする。


「そうだ、あらかじめ決めていた。何が悪い!?」

 平井は抵抗する。


「せっかくオソロにしたのに水色が良い、って仲間を裏切るつもり?しかも、普通は男女関係無く着れる黄緑や黄色を選ぶやろ」

 私は呆れた顔で平井を見る。


「じゃあ、誰がピンクが良いって言ったんよ!」

 黒川くろかわ 玲衣れいは平井をガン見する。



 ――Tシャツの文字色を決めた10月10日――


「ちょっと、記念Tシャツの文字色何にする?」

 黒川は2年6組の黒板の向かい側にある掲示板に近づいた。


「そうだなあ。あたしは水色が良いかな」

 藤崎は水色の文字色に見とれる。


「オイラは黄色やな。黒川は?」

 高市は腕を組む。


「アタイは黄緑派」

 黒川は高市の方を向く。


「じゃあ、彰は何色が良いねんやろうな」

 藤崎はボソッと呟く。


 そんな時に平井が黒川の隣に来て、

「オレはピンクが良い!」

 といかにも確定したかのように言い切る。


「ピンク?似合ってねぇなあ。他の無難な色にした方がお前にとって良いと思うけどな」

 高市は平井の断言に呆れる。


「何だと、オレの意見を否定するとでも言うのか?」

「否定はしないけど、アンタにとって気に入る色が良いと思うで」

 藤崎は掲示板にもたれる。


「だから、オレはマジでピンクがええねん!」

 平井は藤崎に反発する。


「いつか後悔するときが来ると思うけどな」

 黒川は冷静に言う。


「もう、みんな否定するやん。もういい、お前ら、全員ピンクな!」

 平井は3人を指す。


「何でオイラがピンク着ないとあかんねん。意味不明やし!」

 高市は平井にブチ切れする。


「良いか、オレの命令に背いたヤツは、わざと停学扱いになる悪さをさせるぞ!」

 藤崎と高市、黒川は平井の発言に恐れてしまった。


 と言うことで、平井たちはオソロのピンクになったのだ。



 そんなやり取りを思い出した平井は

「オレだけど……」

 と額から冷や汗が流れる。


「馬鹿!今さら水色が良いとかどう言うことよ⁉︎彰がピンクが良いと言って仕方なく賛成したのに何なん?」

 藤崎の怒りが爆発した。


「いや、気が変わった……」

「貴様は最低だ!最初から違う色にすれば良かったし!」

 高市は平井の学ランを乱暴に掴んで前後に揺さぶる。


 はあ、結局は裏切りでもめるのか、と思いながら私はこの場を去った。

 でも、私の記念Tシャツを取られなくて済んだと思うと、私は安心感に満たされて家へと向かった。



 帰り道、私の去年の大親友の小林 真依と合流した。


「水莱、あいつらに襲われなかった?」

「いや、大丈夫。私がはっきりと思ったことを言ったから」

「なら、安心した」

 私と真依は笑いながら駅へと向かった。

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