愚者のたわごと

ランゲルハンス ハム右衛門

フナムシの夏

小さかった息子がある夏の日、フナムシを捕まえてきた。

ここは海辺の町と言っても海から2キロ以上離れている。

不思議に思い何処で捕まえたのか聞くと、家のすぐ裏だと言う。

自宅の裏に巾2メートル位のコンクリートの水路がある。

その水路にフナムシがいた。

何でこんな海から遠い所にフナムシが居るのだろうと思っていた。


気になって観察していたのだが、ある日その謎が解けた。

そこはスーパーの裏口にあたり、朝早く鮮魚トラックが来る。

フナムシは魚市場から来た車や魚箱で運ばれて来たのだろう。

そしてこの水路で成長し、夏が終わると滅びる。

そこで越冬繁殖はしていない。

それはフナムシが発生する年と発生しない年があるから。

繁殖するには塩分か何か必要な物が足りないのだろう。


傍観者である私は何がしかの哀れみを覚える。

しかし彼らは果たして不幸なのであろうか。

ここに来たフナムシは固体としての生存は出来ている。

故郷の海に暮らしていても冬になれば死ぬだろう。

同じ事ではないか、と思う。


フナムシの時間と人間の時間は違う。

一夏で滅びるからといってそれは不幸ではない。

百年生きるからといってそれは幸福ではない。


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