局地戦郵便局

郵便局に行くことになった。

保険が満期になったから支払いを受けに。

葉書には身分証明書を持参せよと書いてある。

身分証明と言えば免許証。


さて郵便局は年末で忙しそうである。

ワシは保険証書と案内の葉書を差し出した。

局員は濁った目でジロリと私を見、「身分証明書」と言う。

こいつは近い親戚に爬虫類が居るに違いないと確信。

「お願いします」くらい言えないのかと思いつつ免許証を差し出すと「コレでは駄目、健康保険カード」と言う。

ワシの脳の血管がプツリと三本ほど切れた。

かすれた声で「どうしてだ」と聞くと「免許証では性別が確認できないから」と言う。

脳の血管がさらにブチリと二本切れた。

「俺が女に見えるんかい」とワシは局員にそっと囁くように言う。

局員は警戒して一歩半ほど後ずさりをしながら「いえ、そうなっていますから」と言う。

後ろに回した左手は警報ベルに掛かっているようだ。

「なんで満期の支払いに性別が要るんじゃい」とワシは懐のドスを握り締める。

開き直った奴は冷ややかに「それが決まりです」と言う。

奴の右手も内ポケットを探っている。

あの冷静さとポケットの膨らみから見てトカレフを持っているらしい。

後ろにいる女子局員もデスクの弾出しからジリジリとウージー機関銃を出しかけている。


一触即発の膠着状態。

後ろにいる舎弟のテツとジローがごくりと生唾を飲み込む。

郵便局長が防弾チョッキで着膨れた体を揺すりながら奥に駆け込んでいった。

しまった、武器庫だ。

ワシは戦闘を覚悟した。

「ジロー!手榴弾!」。

ジローが奥の武器庫に手榴弾を叩き込む。

爆発音と硝煙。

室内を舞う葉書と切手。

奥から局長らしき物体が転げて来る。

防弾チョッキも手榴弾には役に立たない。

目の前の局員がトカレフを打つ。

銃弾はオレの耳元を掠め、背後で年賀状に干支のスタンプを押していたハバァの背中を抉った。

ババァは弾かれたように倒れ、血しぶきが飛び散る。

ハバァはすっくと立ち上がってちょっと怒ったような顔をしたが、又スタンプを押しつづける。

年末なんで忙しいのだろう。


リトルジョン2等兵が持っているカール・グスタフで始末をつける時だ。

年末だから急いで方を付けよう。

発射、閃光、爆発音・・・・・

俺たちはブラッドレー装甲車に飛び乗り素早く撤収した。

年末だから忙しいのである。


アレ、何の話だったかな。

まぁ良い。

急いで保険証カードと印鑑を取ってこなくちゃ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る