第5話 7年目
そうして、男が慣れない子どもの世話に苦慮しているうちに、月日は流れ、赤ん坊は6歳の幼児になった。男が少年を見捨てなかったのは、もちろん、長く付き合っているうちに情が湧いてきたというのもあるが、それ以上に、この子どもの発達の遅れによるところが大きかった。
6歳といえば、平均的な育ち方をする子どもなら、話し言葉の基礎が完成し、おしゃべりが達者になっているような年頃だ。しかし、この少年の場合、言葉を発することがないばかりか、相変わらず何事にも無関心で、何もしようとせず、ただぐったりと横たわっているだけだった。男が彼の気を引こうとして、その目の前で玩具を行ったり来たりさせても、少年からは何の反応もない。彼はただ横になったまま、とろんとした目で男を見つめるだけで、おもちゃに手を伸ばすことさえしないのだ。
いくら悪気がなかったとはいえ、少年に発達上の問題が残ってしまったのは、男の過失によるところが大きかった。自分のせいで少年の成長が止まってしまったのだと思うと、元が真面目な性格の男は、こうなったからには自分が責任を持って、最後までこの子の世話をしなければならないのだと思いつめてしまうのだった。
だからこそ、男にとって、少年が自分の抱っこを嫌がるのはつらかった。普段ほとんど泣かない少年が珍しくぐずっていた時、男は、世の母親がするように、この子どもを抱き上げてあやそうとした。しかし少年が笑うことはなく、それどころか、彼の腕から逃れようと、かえって激しく泣くばかりだった。普通ならまだ甘えていたい年頃のはずなのに、どうしてこの子はふれあいを嫌がるのだろうと男は不思議に思い、同時に深く傷ついた。どうやら、自分でも気づかないうちに、この少年に対して愛着を持ってしまったようだった。
それにしても、少年は生まれてからこの日まで、ずっと赤ん坊のような振る舞いしか見せていないが、本当に、このような成長のほとんど見られない状態で、彼が自立した大人になる日は来るのだろうかと、男は不安になる。男が何をどんな働きかけをしても、少年からは何の反応も返ってこないので、ともすればこちらまで話すことや他者とのかかわり方を忘れてしまいそうだった。
そんなわけで、男にはもう、長年の悪癖であるため息をつく元気すら残っていなかった。ただでさえ「子育て」がうまくいかず落ち込んでいるというのに、まさかこれから、これよりもっと悪いことが起こるなんて、彼にどうして予想できただろうか。
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