第39話 仮泥棒は元怪盗?
『——来月から都庁のプロジェクションマッピングで新たなキャンペーンが始まります。抽選で三十名様が十分間だけ使い放題になるとのことです。応募はすでに開始しており、受付は今月末までとなっております。詳しくは東京都の公式ホームページをご覧ください。以上、お昼のニュースでした。続いて午後の天気予報です。関東では——』
都庁のプロジェクションマッピングで新しいキャンペーンか……。
映画の宣伝だったり芸能関係者とのコラボがあったりするのは知っていたが、一般人も使えるようになるのは初めてじゃないかな? あまり詳しくは知らないからもしかしたらあるかもしれないけど。
常識の範囲内という条件はあるだろうけど、このキャンペーンは多くの人が応募するだろうね。
動画配信者が自分の動画を流したり、中小企業が広告に使ったり。使い方はいろいろと思い浮かぶ。もしかしたら公開プロポーズに使われるかもしれない。
これはなかなか面白そうだ。
昼休みにぼーっとしながらテレビを見ていると、
「
俺を呼ぶ声が目の前から聞こえた。
「おぉ、
「聞きました? 安黒金融の件」
「あー、うん。聞いたよ」
「まさかインドに潜伏してたとは……驚きでしたね」
「そうだねぇ」
林部くんが言う『安黒金融の件』というのは、六年ほど前に国外逃亡して行方をくらましていた重役たちが、昨日インドで身柄を拘束されたというものだ。
上からの報告では、元首相の頭に小型の発信機を取り付けた疑いがあるらしい。
連中は容疑を否認しているそうだが、計画書が見つかるわ、ドローンを操縦してる姿が防犯カメラに映っているわと、犯人である証拠がそろっているとのことだ。
まったく、馬鹿な連中だね。
ちなみに、日本政府の対応としてはインド当局に身柄の引き渡しを要請するらしいけど、条約を締結してるわけではないから、インド側には応じる義務はない。拘束された重役たちがどうなるかは、あちらさんが決めることなのだ。
事の大きさから考えると、残りの人生をインドの監獄で過ごす可能性もあるだろうねぇ。
国交に問題が生じないことを祈ろう。
「なんであんなことやったんですかね。自分が言うのもなんですけど、静かにしてれば捕まることはなかったでしょうし」
「そこが引っかかるところだよねぇ……」
「でも一番の驚きといえば、捕まる前に仮泥棒に依頼してたことですよ」
そう。それは俺も驚いた。ここ最近で一番と言っていいほどに。
「詳しい部分は口を割らなかったみたいですし、ほんとに謎が残りますよね」
仮泥棒とは腕試しをして以来だ。林部くんにとってはもう少し前か。
あれ、そういえば……。
「今思い出したんだけど、前に林部くんが身辺調査したあと、仮泥棒は簡単な協力ならすると言ったんだったよね?」
「あー、そういえばそうですね。確か、必要であればまた連絡してくれとも言ってました」
「なら今から連絡してくれないかい?」
「い、今からですか?」
「うん。連中がなんで依頼したのか、そのあと何が起きたのか。もしかしたら分かるかもしれないからさ」
「……分かりました」
林部くんはポケットからスマホを出し、電話をかけてスピーカーをオンにした。
その数秒後、仮泥棒の声が聞こえてきた。
「お電話ありがとうございます。仮泥棒のイフです」
「突然すみません。前に職質した警視庁の林部です」
「林部さまですか。お久しぶりです。ご用件を伺います」
さすがに理解が早いねぇ。
「実は少々聞きたいことがありまして」
「答えられる範囲であればお答えします」
「では単刀直入に聞きます。安黒金融の重役たちがインドで身柄を拘束される前にあなたに依頼していたという情報が入っているのですが、これは事実でしょうか?」
「はい」
「ちなみに、依頼で得た情報は案件終了時にすべて処分しているとは思いますが、彼らが依頼した理由はまだ覚えているでしょうか?」
「はい。記憶力には自信がありますので」
他にも当てはまるけど、データや紙媒体をすべて処分したところで、人の記憶に残っていたら完全に消したとは言えないんだよねぇ。これが約束事の盲点ってやつか。
「捜査の参考にしたいので教えていただけますか? それと、依頼のあと何が起こったのかも教えていただけると助かります」
「承知しました。ではまず——」
仮泥棒の話を簡潔にまとめると、連中はエニーを捕まえるためにいろいろ計画をしていたが、たまたま届いたメールからセキュリティを見直すことにしたそうだ。
ついでにドローンの動きを試そうとしたところ勝手に動き始めて、これまたたまたま近くにいた元首相の頭に発信機を付けてしまったとのこと。
そんな偶然が本当にあるもんかねぇ……。
ちなみにこのメールというのは、仮泥棒が特殊な方法を使って近くにあった受信できる機器に適当に送信したものだそうだ。
なかなか怪しいことをしているが、国外での行動に口出しはできない。
「そもそも大きな
「あぁ、確かにそうですね」
さっきも思ったが、とにかく馬鹿な連中だよ。
「確認したいことは以上でしょうか?」
俺は林部くんを見て
「はい。お忙しい中ありがとうございました」
「いえ」
「また何かありましたらよろしくお願いします」
「承知しました」
仮泥棒との久しぶりの接触はここで終わった。
今の話を思い返すと、仮泥棒のエニー説が濃厚になった気がする。これはまた調べるべきなのかもしれないねぇ。
*
それから数日経って、また別の情報が入った。
どうやら国際的テロ支援組織『ディアボリ・ソキウス』が解体したらしい。それも面白いことに、解体する少し前に仮泥棒に依頼していたのだ。
再び林部くんに頼んで仮泥棒に話を聞いてみたが、武器保管庫にあったすべての武器を元の持ち主である仕入れ先に返し、保管庫はおもちゃの武器でいっぱいにしたらしい。
機密情報に関しては手を出さなかったそうだが、やっていることは当時のエニーとほぼ一緒だ。
ふと思い立って仮泥棒のホームページを検索してみたが、少し前に更新されたようだった。
これはいよいよ怪しくなってきたねぇ……。
そうだ、俺もあのキャンペーンに応募してみようかね。
エニーだけが分かるような暗号を映し出せば、何かしらの反応が見られるかもしれない。
それこそ、プロジェクションマッピングをジャックして「今日から活動を再開します」なんて言いながらド派手な登場でもするかもねぇ……。
そしたら、世間の記憶も戻って化学反応が起きるだろうな。かなり忙しくなるだろうけどさ。
エニーからの反応が特になかったとしても、必ず仮泥棒の動向はチェックしよう。
このサイトが知らない間に更新されたり、違うかたちで事業を再開したりするかもしれないから。
あくまで当選したらの話だけど、そのときはまた身辺調査からやり直しだな。
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