untitled

@rabbit090

第1話

 殴りたい、暴力的な衝動が、頭をかすめる。

 間違っていることは分かっている、けど僕は、君のことが嫌いだから。

 「退校、していただくことになります。」

 「…分かりました、申し訳ありません。」

 父は、ぶ然とした態度で、僕の顔色をうかがった。僕と父の関係は、そういうものだった。けど、不満なんかない、父に対して不満なんて、一ミリもないハズなのに、僕は学校で問題を起こし、今回に至っては、退校、だ。

 先が見えない、お先真っ暗だけど、でも仕方がない。

 「あの、いいですか?」

 元、担任になるであろう男に、僕は言った。

 「最後に、彼女に謝っても、いいですか?」

 「はあ?」

 「聞いてみてください。お願いします。」

 「………。」

 担任は、呆れて言葉も出ない、といった様子だった。けど、だからなんだ。とか、そんなことばかり思っているから、僕は成長しないのかもしれない。

 そして、

 「すみません、お願いします。」

 父が、僕の方をちろりとみて、そう、つけ足してくれた。

 それなら、といった風に担任は動き始め、僕は、彼女と、三咲みさきと会えることになった。

 

 「お前、ふざけんなよ。」

 と、鬼の形相で言われ、そして殴られた。僕は、そんな三咲を見たくなかった。いつから、女というのは、暴力を身につけるのだろう。

 きっと、現代は男より、ずっと女の方が凶暴、というパターンもあるのではないかと、睨んでいる。

 「いや、大人しかったのに、なんで。三咲が僕を殴った回数に比べれば、僕なんか、おこちゃまレベルじゃないか。」

 「うるせぇ。」

 そして、また。

 三咲とは、小学生の頃からの、知り合いだ。

 クラスが、たまたま同じだった。けど、その時の三咲は、信じられないくらい、何も喋らなかった。

 ふざけている、と思ってもいいくらい、なんにも。

 だから、そんな三咲が、高校生になって、ギャルになってしまった時には、正直笑ってしまった。

 何こいつ、イキがってんだって。

 「………。」

 けど、そんなのお構いなし。饒舌になり、人を殴るようになり、みんな、彼女と遠ざけた。

 何があったのかは分からない、でも、ある日急に暴力的になるなんて、おかしくないか。

 そう思っても、僕はよく、殴られていた。

 そして、我慢が、限界を、超えた。

 

 「はあ…。」

 「女の子殴るなんて、お前らしくないよな。」

 「まあ、色々あって。」

 「そうか。」

 帰り道、父は僕を責めなかった。

 確かに、やんちゃではあったけど、人を殴ったり、しない。なのに、僕は、馬鹿野郎だ。

 「三咲、あいつも学校辞めるって。」

 「ああ、その子?殴った子だろ。」

 「あのさ、三咲、おかしいんだ。人なんか殴るような感じじゃなかった。」

 「へぇ。でも、多分それがその子の本当、なのかもな。」

 「………。」

 僕は、反論できない。

 ただ一緒のクラスになっただけの女に、実質的には人生を壊されているのに、僕は、まだ、むしゃくしゃとしている。

 それは、三咲に対してではない、なんというか、僕は多分、三咲のことが好きだった。

 だって、あんなにおかしな女、この世にいないぜ?

 それに、よく見れば美人なんだ。

 だから。

 

 「気にすんな。気にしたら、終わりだからな。」

 父はそう言った。

 僕も、そう思うことにした。

 生きなくては、だから、そう思うことにした。

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