さくらとぴあす

七瀬モカᕱ⑅ᕱ

 ︎︎

 二十歳の誕生日にピアスを開ける。そうずっと前から決めていた。何となく、ピアスを開けることは大人になった証のような気がしていた。


「やっぱり痛そうだなぁ」


 ネット記事なんかには『ピアスを開けるのは病院で』なんて書かれていたけれど、初めてのピアスは不器用でもいいから自分で開けたかった。

 二十歳というと、キラキラしたお姉さんのようなイメージが小さな時からあった。自分が実際迎えてみると、いつもと変わらない一日で少し期待していた分悲しくなる。


「よーーーし、やるぞーーー」


 誰も居ない部屋でわざと大きな声を出してみる。YouTubeなんかで、ピアッサーで自力で開けている動画を見ていると『少し痛いかも〜』と言っている人が多かった。私は痛みに弱いから、気合いを入れるために。


「持ち方むず...っ」


 ピアッサーを持つ手がぐらつく。こういう時に、不器用なことに泣きたくなる。


「せーのっ」


 かちっと音がしてピアッサーを離すと、薄い桃色のさくらの飾りがゆらゆら揺れる。部屋にある姿見の前でピアスが付いた自分を見る。


「うん、綺麗.....」


 思っていたよりは痛くはなくて、むしろ慣れていない位置にピアスが付いていることの方が不思議に感じる。私は伸びた髪を束ね、姿見にスマホを向けて写真を撮る。


「これで.....いいかな。加工とかは、あんまり得意じゃないし」


 適当に日付と、一言文章を添える。私のSNSアカウントは鍵垢で、投稿するのも気が向いた時だけ。数日に一度書く日記のような、そんな感覚で使っている。


「使い所あって、よかった。まじで一生使えないかと思った.....」


 このピアスを買ったのは十六の時で、イヤリングだと思い込んでいた。ピアスだと気がついたのは家に帰って封を切ってからで、長らくアクセサリーケースの中に眠っていた。ケースに眠っていた間に、何度か従姉妹のお姉ちゃん達もここに来たけれどこのピアスは見つからずに済んだ。


 もし見つかっていたら、アクセサリー交換の対象になっていたかもしれない。そんなことを付けた後になってから思う。


「ピアス開けちゃったし、この前貰った分は穴がふさがってからにしよっと」


 さっき撮った写真を従姉妹のお姉ちゃん達に送る。お姉ちゃん達は忙しいので、なかなか既読は付かないだろうけど自分が自慢したいだけだからあまり気にしない。


「今度これに合う服見に行くか!楽しみ」


 ピアスを付けただけで、一気に大人になる訳ではないことは分かっていた。でも何となく、今までの自分とはほんの少しだけ違う気がする。


「さくら、見に行こうかな」

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