第3話 復讐…?

 「あの外国人はどこですか?」

 体に感じている痛みがあの外国人の顔を思い出させる。

 目の前にいる救急隊員の人には声のトーンは自然と低くなるし、体がだらんと力の抜けた動かし方になる。

 「ど、どこかはわかりません。ただ、警察の方が今追跡中と…。」

 「おいバカ!!」

 命の危機を感じた若い隊員が口を滑らしてしまったのをベテランの隊員が咎める。

 大した情報ではないと思うが公務員というのはそういう点にも厳しいのだろう。

 しかし、目印となるものを聞けた点はありがたい。

 そのまま夜の闇に紛れるように姿を消していく。

 「せ、先輩。あれって…。」

 「あぁ。間違いない、だ。早く対策班に連絡するぞ!」

 取り残された隊員たちはどこかへ事の報告をしに、慌ててどこかへ向かう。


 「前の原付止まりなさい!!」

 赤いライトの点滅とサイレンの音を背中に受けながらシルバーの原付がチェイスを繰り広げている。

 いくつも小道を挟んで撒こうとするが最悪なことに相手は白バイ二台。さらにはここからでは見えないが外からぐるっと回るようにパトカーが一台走っている。

 「くそ、なんだって今日はこんなに警察が多いんだよ!!」

 逃亡犯はずっとついてくる警察にいら立ちを覚えながらハンドルをひねり続けている。

 わき道というわき道を駆け抜けていくと、目の前に何か黒い物体のようなものが降ってきた。

 「あぶねぇ!!」

 降ってきたを回避しようとハンドルを急に切ったことによって逃亡犯はバランスを崩し、地面に滑り落ちてしまう。

 投げ出されたバイクは車体が削れていく音を出しながら回転し、建物の壁に一回激突し、停止する。

 白バイも逃亡犯が転倒したことにより停止するが、そこで思わぬものを目にしてしまう。

 転倒したバイクのライトがスッポトライトの役割を果たし、を後ろから照らし出されたそれは人の形をした闇の塊。

 全身からはもやのような煙が噴出し、ライトで照らし出されてなければそれが人型であるということにさえ気づけないだろう。

 特徴として挙げられるのが白い仮面。

 ペストマスクのようなくちばしのある仮面が不気味にこちらを覗いている。

 「ミュ、ミュータント…!!!無線で言われていた対象か!!」

 「至急至急!!こちら…」

 隊員たちはすぐさまどこかにへと連絡を取り始める。


 「いてて…。さすがに最初から飛ばしすぎたか…。」

 影の力を借りたこの状態はすさまじい能力を発揮し、地上から信号機に飛び移れたり、そこからバッタのように信号機から次の信号機にへとなんなく移動することができたりと気分で言えばスーパーヒーローのようだった。

 しかし、いきなりこう言った力を手に入れてしまったためか加減の仕方が分からない。

 本当はこの路地を上から見れる建物の屋上に止まろうかと思ったのだが、想定以上に飛んでしまい、そのまま落っこちてしまうという情けない結果となった。

 ただ、この体は本当にすごく、地上数十メートルから落ちてきてもそこまで痛みがない。

 それはそれとして…。

 「よぉ、さっきぶりだな。くそ野郎。」

 「うぐっ…。お、お前は一体…?」

 転んだ衝撃で動けない逃走犯の前に立ち、その姿を見下ろす。

 本当は多少ばかり痛めつけたかった思いもあるが、こうなってしまっては追い打ちをかけるのも阻まれる。

 とはいっても、この胸の内にあるものをどうしたらよいものか…。

 「ミュータント、おとなしく手を上げるんだ!」

 その声に振り返ると、白バイ隊員の二人がバイクから降りており、拳銃をこちらに向けている。

 「おい、拳銃を向けられてるがさすがにまずくないか?」

 「ご心配なさらず、あの程度の銃であれば問題ありません。」

 「そうなのか?流石に…。」

  「だめだめ~そんな豆鉄砲じゃあミュータントは殺せないよぉ。後のことは私に任せて警察の面々はそこの人連れて離れてなよぉ。」

 上の方から女性の声が聞こえる。

 見上げると、建物の屋上からこちらを見下ろしている一つの影がそこにあり、「よっ。」という声と共に飛び降りてくる。

 降りてきたその影は小柄で背丈でいえば高校生ぐらいの大きさ。

 しかし、バイクのライトに照らされたその姿はそんなかわいいものではなかった。

 赤毛混じりの方までの長さの白髪。

 夏だというのに肩から袖口にかけて四本の白いストライプの入ったモスグリーンのスカジャンを前を開けた状態で羽織り、その下はヘソが丸見えな白のタンクトップ。

 ワイドのぶかっとしたジーンズを履き、靴は茶皮のブーツ。

 両腰には銃を収めていそうなホルスターがそれぞれ一個ずつついており、ベルトがへその下で交差している。

 ストリート系という言葉が真っ先に出てくるその見た目からくる凛とした顔に目を奪われる。

 耳にピアスを開けているが彫りの深い目に高い鼻。

 ピンクに彩られたぷくっとした唇とあわせるとそこには「かわいい」という言葉ではなく、「綺麗」とか「かっこいい」とかいう言葉が出る。

 それはさながら軍隊に咲く一輪の白薔薇のように魅惑ながらも力強くあり続けているようだ。

 「これは対策班の…!しかし、敵ミュータントの下にいるため確保がしづらく…。」

 「そう?じゃあ、どかすからあいつ連れて行ってて。」

 女性はそういうと腰のホルスターに手をかけ、何かを取り出す。

 それは片手で持てるサイズのサブマシンガン。

 T字型のようなそのフォルムの銃を両手に構えると、躊躇することなく発砲する。

 「うぉ!?まじで撃ってきた!?」

 女性の容赦のなさに驚きながら弾丸を避けるように影の身体能力を用いて素早く左右に体を動かし回避を試みる。

 しかし、想像通りにはなかなかいかず、連射された弾丸の全てを避け切るというわけにもいかず、数発体に被弾してしまう。

 ただ、影の言う通り体に当たっても感覚としては小石をぶつけられた程度の痛みであり、もちろん多少痛みはするが騒ぐほどではない。

 「この体すげぇ…。弾丸を受けてもちょっと痛いぐらいにしか感じない…!」

 「ちっ、能力向上型か?いや、それだとあの見た目の説明が…。あ~、べつにいーや。めんどくさーい、それよりも早くそこにのびてる彼を早く連れていって。」

 「は、はい!!」

 弾丸を回避するためにあの男から離れたのをいいことに警察官二人が両脇をかかえ、ここから運び出そうとする。

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。まだそいつには話が…。あだだだだだ!!!」

 運び出そうとするのを止めようと警察官のところへ行こうとすると再び体中に小石を投げつけられたかのような痛みが走る。

 みると、あの女性が再び発砲したようだが、あの銃どれだけ弾が入ってるんだ?

 再装填リロードしている素振りはなかったが…。

 「だめだめ~、あんたの相手は私なんだから他に浮気しちゃだめじゃない。」

 「かわいいこと言って案外やることえげつないな…あんた。」

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