THE・MUTANT

@Kida001

第1話 悲劇

 新人類ミュータント

 それは突如として現れ、人の顔形かおかたちをした怪物と揶揄されるほどに強力な存在。

 発生理由や時期などは一切不明。

 ただ、分かっていることはその人外的な強さ。有名な話で国一つがたった一人のミュータントによって崩壊しかけたといわれるほど。

 それはさながらアメコミに出てくるスーパーヒーローやヴィランとも言われ、炎を出す能力、強靭的な身体能力などその種類は多岐にわたる。

 ミュータントの割合は1万人に1人と言われ、生活に紛れ込み息をひそめているとされ、人々はいつ暴れだすかわからないミュータントの存在に日々恐れていた。

 そこで、日本を含めた各国は政治や軍事に介入させないことを絶対条件にミュータントによる対ミュータント組織を設立。

 これが想定以上の活躍を見せ、ミュータントによる犯罪活動はおろか全体的な犯罪数の減少にへと繋がり、多くの賞賛がかれらに与えられた。

 多くのミュータントたちは普通の人間として生きる道を選んでいった。

 しかし、忘れてはいけない。

 人の心の中には必ず影がある。

 それはどんなに聖人君子な好青年であってもその腹の中はどんな影が潜んでいるかわからない。

 多くの者がふつうの人間として生きることを選んだが、残りの少数派各々が手に入れた特殊能力を発揮できる機会を待ちわびている。

 そして、その影は些細なきっかけで表に出てくるのだ。


 「だぁ~、疲れた~。二年目だってのに仕事振りすぎなんだよ、無能上司が。」

 首元の青色のネクタイを緩めながらトボトボと家路につく。

 地方から都会にへと就職をきっかけに出てき、きらきらとした社会人生活を思い浮かべていたあの頃が懐かしい。

 今では営業の業務を先輩同伴で覚えながら様々なことをしているがあまりにも忙しすぎる。

 朝早く起きて、満員電車に揺られ、夜まで働き、寝るとまた働く。

 そんな生活を週5で行い、たった2日の休みで疲れを癒す。

 プライベートで楽しめることがめっきりとなくなり、ただ生きるために働いている生活に2年目にして嫌気がさしてきた。

 「給料もそんな高いわけじゃないし、転職でもしようかなぁ…。」

 左腕に抱えているスーツジャケットから煙草の箱を取り出し、中を確認する。

 「あ~、煙草切らしていたの忘れてた…。コンビニ寄らないと…。」

 タバコが切れてしまっていることにさえ人生がうまくいっていないと感じてしまう。

 また明日も働かなければいけない。そう考えるだけで両足におもりがついたかのように重くなる。

 そうしたことを考えているとコンビニを見つけ、光にたかる虫のように店にへと向かっていく。

 あともう少しでタバコが手に入る。しかし、そんなことも目に映った光景によって今日一日の疲れと共に一気に忘れ去ってしまう。

 「おいおい、まじかよ…。」

 それは、黒の目出し帽を付けた全身黒のスウェットを着た男らしき人物がナイフを女性の店員に向けていた。

 何を言っているのかはわからないが、何をさせているのかについてはすぐわかる。

 なんと、今まさに目の前のコンビニで強盗事件が発生していたのだ。

 ひとまず警察を呼ぼうとスマホを取り出し『110』に連絡した。

 「はいこちら110番です。事故ですか?事件ですか?」

 「じ、事件です!!丸山三丁目のコンビニで…強盗が起きて…!!えっと、今女性の店員さんにナイフを突きつけて脅してて…!!」

 自分でも驚くほどに言葉に詰まってしまう。

 それほどまでに目の前で起きていることに俺自身が動揺してしまっているのだろう。

 「落ち着いてください。すぐに近くの警察官を向かわせますので、安全な場所に避難してください。」

 電話先の警察官が冷静に端的にそう話すと、犯人の服装や背格好、持っている狂気について聞いてきたため俺は何とかして心を落ち着かせながら説明した。

 そして、最後に「絶対に犯人には近づかないようにしてください。」という言葉を最後に通話を終える。

 見ると女性店員が男に渡されたバックにレジの現金を詰めている最中であり、サイレン音が聞こえない現状で警察官の到着が間に合わないことが明らかであった。

 「くそ…どうすればいい…。どうすれば…。」

 スマホの画面から再び目を上げ、店内の様子を見ると強盗犯は強欲にももう一つあるレジの中身も要求していた。

 涙目で見るからにパニックに陥っている女性の店員を見た瞬間、今この場でおろおろとしている自分が情けなく感じてしまった。

 「だぁーーーもう!!仕方ねぇ!!!」

 正直に言うとやりたくはない…が、目の前にいる強盗犯を見過ごすことはできないという思いが勝り、俺は行動に移す。


 「早く入れろ!!サツが来るだろうが!!ぶっさされてぇのかこのアマ!!」

 「入れます!!入れますから命だけは…!!」

 カウンター越しにナイフを向けられながら金髪の若い女性は慌ててレジの金を無造作に詰め込んでいる。

 万札から小銭まですべてをぐちゃぐちゃに肩掛けバックに詰め込まされていると、自動ドアが開き、来店音が鳴る。

 「うおぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおお!!」

 それと同時に俺は戦いの火ぶたを切るような大声と共に脱いでいたスーツジャケットを強盗犯に覆いかぶさるように放り投げる。

 「な、なんだ!!??」

 突然視界を遮られた強盗犯は驚き、すぐさまジャケットをどかそうとするがそんなことはさせない。

 俺はジャケットの上から強盗犯の頭部らしき部分を抱え込むように押さえつけ、意地でも視界を戻させないようにする。

 「誰だ!!どけこの野郎…!!」

 「どいてたまるかぁ、犯罪者がぁ!!」

 相撲でも取っているかのように俺と強盗犯の攻防は続く。

 決着の尽きそうがない争いではあるが、俺の狙いとしてはこれでいい。

 こうして時間をどんどん稼いでいって警察が到着するまでの時間を稼げばいい。

 それだけでいい。変にこの男を俺一人で捕まえるなんで思わないほうがいい。

 少しばかり情けないが、これが俺なりに引き出した精いっぱいの勇気だ。

 なんとか強盗犯に振りほどかれないように耐えているとどこからかパトカーのサイレンの音が耳に入り、希望の光が見え始めた。

 しかし、同時に気づくべきだった。

 このサイレンの音が俺にとっては希望の音であると同時に、強盗犯にとってはその逆であるということを。

 「ふざけるなぁあぁぁぁ!!!」

 こういうとき『窮鼠猫を噛む』というのだろうか。

 最後のチャンスと言わんばかりに強盗犯は力を振り絞り、体を左右に振らし押さえつけている俺を振り払おうとする。

 ざくっ。

 そんな音が耳に聞こえたような気がした。いや、正しく言えばというべきか。

 腹部に強い痛みを覚え、顔を下に向けるとジャケットから包丁が突き破り、その刃は無情にも腹部にへと突き刺さっていた。

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 俺が反応するよりも先に女性の店員が腹に突き刺さっている包丁を見て、絶叫する。

 俺はというとあまりの衝撃に反応ができていないのか、目の前の現状を受け入れたくないのかもはやわからないぐらいに混乱し、包丁の刃を通して滴り落ちている血を見つめている。

 それを無情にも強盗犯は包丁を腹から抜き取り、覆いかぶさっていたジャケットを取ると

 「邪魔するからだ!!このボケ!!」

 その声と共に再び包丁を今度は胸にへと突き刺してくる。

 「がはっ…!?」

 「余計なことをしなけりゃよかったものを…。」

 体から力が抜けていく…。

 瞼がどんどん重くなっていく…。

 くそ…おとなしく警察が来るまで待っていればよかった…。

 今更ながらに後悔が体中に駆け巡る。

 こんな…こんな顔も知らない犯罪者に殺されるのか…。

 せめて、せめても…。

 俺は最後の力と振り絞り、右腕を強盗犯の顔を隠しているヘルメットにへと手を伸ばすと

 「なっ!?てめぇ、何しやがる。」

 顔を隠している真っ黒なバイザーを押し上げ、顔を確認する。

 せめて、この男の顔を見て恨みを残して死んでやる、そんな気持ちで渾身の力を込める。

 ヘルメットから見えた顔はアラブ系のやや細めの顔であり、青年らしき年齢ではあるが髭や少々出っ張った唇はやや老けて見える。

 強盗犯は慌ててヘルメットのバイザーを下ろし、仕返しと言わんばかりに俺のことをもう一度差してこようとしたが、どうやら外ではパトライトの赤い光が見えてきたようで、俺には何もせず、バックだけ店員から奪い取り、乗ってきたと思われる赤い原付に乗って、その場から逃亡する。

 (外国人かよ…!!こんな奴に殺されるなんて…ふざけるな…!!)

 声にならない怒りが血と共に体中から吹き出しているのが分かる。

 もはやそこには化けて恨むというよりこのまま維持でも生き延びて復讐してやるという気持ちが強かった。

 「そうですよねぇ。このまま死ぬなんて悔いしか残りませんよねぇ。」

 …?なんだ今の声。

 聞きなれない声を耳に俺は意識を失った。

 そして、何故か再び目が覚めたそこは赤い空に白い人影が多数往来しているスクランブル交差点だった。

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