転生ゲーム開発者のクソゲー異世界改変冒険譚~史上最強のチート能力を授かったが結局大切なのは「友情努力勝利」だった件~
北原黒愁
第1話 リセット&リスタート
「つまりはこういうことか? 女神でもどうにもできない、秩序崩壊!魔王大虐殺!な世紀末オープンワールドを、たった3発の即死魔法だけで攻略しろと……!?」
なんという鬼畜仕様。ゲームだったら到底許されないレベルデザインなのだが、
「そこはほら、あなたのゲーム知識を存分に活かしてなんとかしてくださーい!」
女神は投げやりにそう答えた。あんまりである。
俺は佐久間ケント。つい今しがた、長年勤めたゲーム会社をクビになった、しがない元ゲームクリエイターである。
世の不条理を儚み、今世に別れを告げようか、などと考えていたのだが、気が付けば女神と名乗る胡散臭い人物に、異世界転生して世界を救ってくれとせがまれている。しかもすっごいクソゲー臭のする設定で。
なんで、こんな展開になっているのかって?
それを語るには、1時間前に時間を遡らなければならないーーー
※
「ほんとロクでもない人生だったな……」
眼下に広がる美しい景色を見下ろしながら、ポツリとつぶやく。
俺、佐久磨ケントは、いままさに高層ビルの屋上から飛び降りようとしていた。
人生を締めくくる前に、俺のどうしようもない半生を振り返ってみる。
ガキの頃、幼馴染の親友に裏切られて人間不信に陥って引きこもりになり。
なんとか雇ってもらえたバイト先は超ブラックなゲーム開発会社。
深夜残業にお泊りが当たり前の過酷な環境でもめげずに働いて。
働いて働いて働いて、ようやく契約社員になれた。
あの時は本当に嬉しかったな……真っ暗だった人生にようやく光が差した気がした。
だというのに。
つい1時間ほど前、俺は8年務めたそのゲーム会社を、クビになった。
原因はわかってる。俺が上司であるディレクターに何度も反抗したからだ。
「俺は間違ってない。サービスを継続するために面白さを犠牲にして重課金施策を入れるなんて、本末転倒だ」
だがディレクターはそうは思わなかった。俺は繰り返し訴えたが聞き入れられず、結局……
「ユーザ離れが進んで、むなしくサービス終了、だ。ほらみろ、全部俺が言った通りになったじゃねえか」
MMO RPG『エターナル クルセイド オンライン』。通称『EKO』。
俺がレベルデザイナーとして携わったそのゲームは、かつて一世を風靡した大ヒットタイトルだったが時が経つにつれ、ユーザ数は減少。
本日をもって8年の歴史に幕を閉じることとなった。
……ついでに俺の幕も一緒に。
俺にとって『EKO』は8年苦楽を共にした相棒であり、手塩にかけて育てた子供であり、つまり俺にとっての全てだった。たかがゲームと簡単に割り切れるものではない。
何もかも失った絶望と、何もかもうまくいかない失望で。
俺は衝動的に全てを終わらせたくなったのだ。
地上約180mの高層ビルから見下ろす景色は、全てがミニチュアサイズで、俺という存在のちっぽけさをひしひしと感じた。
よし飛び降りよう。この世に未練はない。あの世で『EKO』と楽しく暮らすんだ。
もし心残りがあるとすれば、国民的人気ゲーム『ドラクリ』の最新作を遊べなかったことか。
あ、それに国民的人気ゲーム『ファイナリー ストーリー』のリメイク版最新作も積んだままだ。
あ! なんなら世界的人気ゲーム『バルダリーズの門』の最新作もキャラメイクで終わってる!
なんと、俺はここにきて遊びたかった未プレイのゲームがたくさんあることを思い出した。
だってしょうがない、仕事が忙しくてやる時間がとれなかったんだ。最近のゲームは時間泥棒なやつ多いから!
「てことは待てよ、職を失ったいま、俺はこれらのゲームを遊びたい放題なのでは……!?」
失業保険をもらいながら、己の欲望のままに遊んで暮らせるのでは!?
……なんということだろう、真っ暗だった人生に光が差した。
うん、やっぱやめよう、飛び降りるのは。周りにも迷惑かけるし。
スマン『EKO』。俺はすぐにはそちらにいけない。でもいつか必ずいくから! 半年後? いや10年後……? とにかくいつかはいくから! 俺がやりたいゲームがなくなったらいくから!!
やりたいことを見つけて急に前向きになった現金な俺は、フェンスを乗り越えて屋内に戻ろうとした。が、その瞬間!!
強烈な突風が吹き、不意を突かれた俺は足を滑らせ、体が宙に投げ出された。
え……? は……? はぁぁぁ!?!?
突然の事態に頭が真っ白になる。
地上180mの高さから落ちて無事で済むはずがない。普通に即死である。
「ハハ……こんなのアリかよ……」
かすれた笑い声が、吹き抜ける風の音に紛れ、むなしくかき消されていく。
「俺の人生これでおしまいって、絶望通りこして笑えてくるわ……」
死を覚悟して目をつぶり、最期の瞬間に備えた俺だったが……
ーーー俺の体が地面にたたきつけられることは、ついぞなかった。
※
「ああ……! ついに召喚に成功しました……!」
自らを女神と名乗る、なんとも神々しいオーラを身にまとうその美女は、その完璧な美貌を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら俺に縋り付いてきた。
「異界の創造者<クリエイター>よ、どうか私の世界『アーティエラ』を救ってくださぁぁぁい!!」
「いや、クソゲーのクソ運営に関わりたくないんで」
これは人生のほとんどを『面白さの追求』に費やした男の、クソゲー異世界改変冒険譚である。
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