さて、どう生きるべきか。
寧楽ほうき。
終わりの始まり。そして終わりと始まり。
貧困家庭で産まれた。当然自分たちの財力では生活出来ない為、生活費は母方の祖父母から出されていた。
何故だか分からない。物心ついた時からDVやモラハラ、搾取を受け続けてきた。何も悪い事をしていないのに、勝手に産まれて来させられただけなのに、苦痛だけを与えられる。
いつの間にか「死にたい」という言葉が口癖になっていた。
ただ、それが当たり前だと思い込んでいた。
皮肉にも友人たちは羨ましいと思えるような環境で過ごしていた為、それが勘違いだとはすぐに気が付いた。
自分は何も悪く無い。分かっている筈なのに何故か自己嫌悪を繰り返してしまう。
そんな日々の中、幼稚園児という幼い頃から20代になる今まで、メニエール病に苦しめられてきた……。
当然お小遣い制など存在しない。小学六年生の頃からか、中学一年生の頃からか、自分で必死に稼ぎ始めた。他人と同じように生きる為に。
学校へ行き、学歴や経験を手に入れ、生き続ける未来の為に。
——あれ、矛盾が産まれている——
「死にたい」筈なのに人一倍苦労して、努力して「生きよう」としている。分からない。自分の本心もいつの間にか見失っていた。
それでも、とにかく苦労し続けた。どれだけ頑張って稼ごうが、学費や肥えた親の懐へと消えて行く。うちでは一ヶ月に百万貢いだ、となっても驚きはしない。
親が子どもの為に何かするのはおかしい。寧ろ、子どもが親の為に動け。という怠惰な者を相手に、奴隷に成り下がる人生。
—誰の為に耐え続けて生きているのだろうか—
分からないことばかりだった。
幼い頃からずっと自分は無能だと洗脳されて生きてきた。だから、明るい未来なんてものは一切想像出来ない。
死ぬことよりも、生きることの方が怖かった。耐え続け、他人に合わせ続け、自分を殺して生きていくことの方が辛かった。
そんな毒親の元で育ち、自分がHSPだと気付いたのはいつのことだっただろうか。知らない。
そんな自分にとって、あいつの所為で誰もが常に苛立てている環境は地獄そのものだった。
歳を取るにつれ、将来を考えることを強要されるようになる。先ずは高校受験からだろうか。
その受験期に、いじめを受けた。
たった一人の勘違い、被害妄想から産まれた嘘が原因だった。何故か白羽の矢が無関係な自分に向けられる。当然、味方なんてものは居ない。
学校からの電話対応をする父の声。
「あいつがクズだからそうやっていじめられるんですよ〜、わざわざ手間掛けさせてすいませんね〜(笑)」
もしかしたらこの頃から、いつだって自分を苦しめるのは他人で、それを救うのは自分自身しか居ないと気付いてしまっていたのかもしれない。
結局そのいじめは、当時とても信頼していた担任の先生からの嘘で幕を閉じた。
「彼が相手の子の悪口を中学校の裏サイトに書き込んでいたらしいです」
裏切られたと感じたが、勝手に信頼していた自分が悪いのだろうか。そういえば、担任も「本当に守りたいものは生徒よりも自分たちの立場だ」と言っていた。
「あの子は性格悪いから、アンタいじめられて当然よ」と笑っていた教師も居た。
誰かが守ってくれるなんてものは自分の勘違いだったと痛感させられた。
結局、信じられるのは自分一人だけだった。
高校へ進学しようが、何一つ変わることは無かった。幸い同じ中学だった者は三、四人だけ。いじめが無くなっただけ良かったのだろうか。
ただ、此処ではより一層将来について考えさせられる。
親に貶され続けてきた無能で出来損ないな自分は、この世界で生き続けていても淘汰され続けるだけなのでは無いだろうか。やはり死んでしまった方が良い。それが自分にとって唯一の救いだ。激しい不安や恐怖、焦りに襲われる。
それでも何となく、意志なんてものは一切無く、日々を過ごしてきた。理由なんてものは一切無い。ただ、他人が「そう」しているから自分も合わせて来た。
そんな日々を過ごし、少しずつ大学受験が近づく。親は「こいつがどうなろうと俺には関係無い」と言う。そうだ、関係なんて無い。この家庭に在るのは奴隷として搾取され続けるだけの繋がりなのだと再確認出来た。
そんな中、母親が大病を患い自分は受験をしなかった。大変な日々ではあったが、決断を先延ばしに出来るチャンスだと感じた。
一年という猶予の中、親からの暴言は相変わらず。そのお陰で、自分はやはり必要の無い人間なのだと気付くことが出来た。
——受験が始まる前に死のう——
首に掛けたヒモが暫くして千切れる。
残ったのは、身体中の痺れと虚しさだけだった。
親族は全員、所謂超低学歴と呼ばれるものであり、ましては父は元ヤン。その中でも唯一出来の良い兄が居た為、自分が同じようになることは絶対に許されなかった。
だから、有名な人気校で、倍率が他とは比べ物にならない程に高い所を受験することにした。
ここならどうせ落ちるだろう。この受験に失敗して死ねば、誰も違和感など抱かないだろう。そう考えた。
しかし、思い通りにはいかず合格通知が届く。
脳裏をよぎるのは今までとは比べ物にならない程の学費の負担。自分がこれから通う大学は、他と比べると学費が高いと言われている場所だ。
生きたくも無いのに、より一層負担が増える。ただ、自分の死を周囲に納得させられるような理由が無い。
どうしようかと立ち止まる自分とは裏腹に、時が過ぎるのは残酷な程に早かった。
取り敢えず一年耐え続けてみるが、やはりこれ以上は生きていられない。自分の苦痛に名前が欲しくて受診した精神科では、かなり重度のうつ病だと診断された。
何故だか、肩の荷が少し下りた感覚がしたのを覚えている。常に否定され続け、自身は人格破綻者で異常者なクズなんだと思い続けていた自分が受け入れられた気がしたのだ。
こうして医者の勧めもあり一年の休学を決断。
「そんなん甘えや!クズが!!」という父の怒声が今でも鮮明に思い出せる。
休学期間中、とにかく自分が存在しているということを何者でも無い誰かに赦して欲しくて、アルバイトでは多くシフトを埋めることにした。
そうやって働いている間だけは、自分の存在が誰かに求められていて、ほんの少しは価値のある物だと勘違いすることが出来たからだ。
そして、この時が終われば死のう。そうやって決めていた。
自分が居たという証を遺すことさえも出来ず、この世界の誰にも気付かれずに消える生に意味があったのかは分からないが。
ただ、この時間も決して良いモノであるとは言い難かった。そこは、過度なセクハラやパワハラをしているという自覚がありながらも、それを悪とせずにネタにするような職場であったのだ。
お世辞にも「まとも」だとは言い難い人間の集団。その者たちが、自分がうつ病で休学していると知った途端、当然これもネタとして扱われ始める。
「あいつは病気持ちやから(笑)」
「変わり者の社会不適合者ってコト?」
「お前のどこがうつ病やねん、教えてくれよ(笑)」
「こいつなんかうつ病で休学してるからな(笑)」
何も知らない奴らに笑われるのはいつものことだ。それでも酷い苦痛であることには変わらない。
苦痛ではあるが、耐えることには慣れている。いつも通り、暫く我慢すれば良いだけだ。そうやって心を殺して来た。
心を殺して、気持ちも死んでいく。そんな実感を抱きながら何とかやり過ごして来た。
そんな中偶然、大切にしたいと思えるものを見つけた。
そして気が付けば四月。希望なんてものは未だに無い。
憎しみだけが増す日々、次の桜が咲く頃、自分は少しでも変われているのだろうか。
さて、どう生きるべきか。 寧楽ほうき。 @NaraH_yoeee
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます