ごく普通の転生冒険者の一生

どくいも

そして、伝説へ

私はごく普通の農村に生まれだった。

生まれついて体は丈夫であり、頭も悪くなかったため、何不自由なく幼少期を過ごすことができた。

なので、大人になったら、両親から農地を継ぎ、幼馴染と少女と結ばれる。

そんな未来を夢見ていた。


『……うちの畑は、レツヒに継いでもらう。

 お前は家から出ていってもらう』


――しかし、それは裏切られた。


家督は長男ではある自分ではなく、次男であるレツヒに継がれた。

幼馴染はあっさりと自分を裏切り、村の者は手にほらを返したかのように自分を冷遇した。

なので、村はずれに住む狩人の老人に頼み込み、自分の手で生きていく術を学んだ。

復讐を努力に、怒りを力に変えた。

そうして、1年後、修業を終え、荒れ狂う思いを胸に王都へと到着し、冒険者ギルドにつく。

そう、目標は復讐と立身。

自分を裏切った故郷にしかるべき報復をし、ここ王都で武名を上げることを決意し……。


『〈チュートリアル・クエスト〉完了しました!

 報酬を付与します』


―――その思いは一瞬で鎮静のであった。


さて、改めて紹介すると私はノール。

ごく普通に前世有の転生者である。

まぁ、先ほどまでは今世ノール君(仮)の意識が強く、若者らしく復讐と野心に燃えていたが、今はそんなのどこ吹く風。

むしろクソ生意気なガキを受け入れてくれた故郷に感謝をしているくらいだ。

というわけで今の私は当初目的であった復讐はなくなってしまったわけだが、だからと言って冒険者をやめるわけにはいかない。

なぜならば、私は上京したばかりで、冒険者以外の働き口がないからだ。

よって、初めは冒険者として働き貯金を貯めることに目標に、余裕があれば別口の仕事の伝手を手に入れることにしよう。

まあ、最終的には王都でマイホームを手に入れるほど稼げれば嬉しいが……うまくいくかなぁ。


「というわけで、何か仕事紹介してくださ〜い♪」

「……初心者なら、スライム狩りか下水掃除しか紹介できんぞ」

「なら、スライム狩りで!」

「……本当に大丈夫か?」


まあ、スライム狩りは記憶が戻る前もやっていたので大丈夫だろう。

かくして、不安そうな受付のおっさんを尻目に、中古の剣を片手に頼を受けるのであった。


「おお!ありがとうございます!

 おかげで今年も畑作業ができそうです!


 ……ところでその怪我大丈夫ですか?」


――結果・辛勝。

――理由・一度に大量のスライム。


流石に20対1はやばすぎである。

今回は運良く見た目は派手であるが、取り返しのつかない怪我はしなかった。

が、こんなことを続けていては、いつか大怪我をしてしまうし、それが原因で早死にしてしまうかもしれない。

なので、このような事態を避けるために仲間を集めることも視野に入れながら、チートでスキル【応急処置】を取るのであった。



──そして、一年後。


「おお!【スライムスレイヤー】さんですか!

 よくぞ来てくれました!

 今回もよろしくお願いします」


「お?今日も農村からお前宛にスライム狩りの依頼が来ているぞ【スライムスレイヤー】。

 さあ、どれからやる?」


なんとそこには、クソみたいな二つ名をつけられた冒険者の姿が!

いや、ちゃうねん、安全マージンと依頼の受注しやすさを考えたら、スライム狩りが丸いねん。

討伐依頼にしては報酬がクッソ安いのが欠点だが、そこは配達依頼や他の害獣駆除依頼でカバー。

おかげで、一年目冒険者にしながら、そこそこの収入を得ることができた。


「でも、仲間はな……。

 どっかにいい人いないかねぇ?」


しかしながら、未だに仲間はできていなかった。

いや、一応何度かパーティを組んでみたことはあるし、選り好みをしなければそのままパーティを組みつづけることもできたであろう。

が、方や依頼人を殴りつけるなどして、あまり自分と性格が合わないし、方や一人ではスライムにも勝てないほど弱く、パーティを組むには弱すぎる。

贅沢は言わないから、最低限のスライムを倒せる程度の実力は持っていて、かつ最低限の倫理観を持っている人がいいのだが……。


「【スライムスレイヤー】で違いないだろうか?」


と思いきや向こうからなんか来た。

格式ばった鎧に聖印と、見たところ聖職者戦士っぽいがきた。


「私は聖騎士シュジ。

 神の導きで、冒険者をすることになった。

 できれば、冒険者の先輩として、色々教えてくれると助かるのだが……」


聞いたところ、彼は教会で魔物を倒すべく教育された生粋の魔物スレイヤーだそうだ。

そのため初心者ながら最低限の強さと、並以上の善性を併せ持っているらしい。

ふむ、確かに彼ならば私の探している仲間の条件に合う。

聖戦士なので宗教上の戒律は気になるが、それでも聞く限り無茶な教えはない。

それに合わなければ、普通に仲間を解消すればいいのだ。


「おお!ありがたい!

 ともに、魔物を倒し、平和な世界を維持しようではないか」


というわけで、私は喜ぶ彼を尻目に、共に冒険者としてのパーティを組むことにしたのであった。



――二年後。



「む!モンスターの多量発生だ。

 聖騎士としてこれは見逃せん!出撃だノール!」

「無垢の民を脅かす盗賊め!許せん!

 ノール、ともに奴らに滅ぼそうぞ!」

「ん?身寄りの冒険者見習いか……。

 なぁ、ノール?この子が一人前になるまで世話をしてやりたいんだが……いいか?」


――か・げ・ん・し・ろ・ば・か!!


なんとそこには、仕事に忙殺される冒険者の姿が!

というのも、この聖騎士シュジ君、性格が善寄りだし、戦闘力もそこそこあるため自分の狩りスピードについていけるため、はじめは重宝していたのだが、しばらくたってくると立場は逆転。

困っている人がいると聞けば、困難な任務を受注し、その数も膨大。

それに勝手に初心者冒険者を拾ってくるという悪癖があるのだ。

こいつの依頼ペースに合わせると普通の冒険者ではつぶれる上に、中には冒険者の適性もない人もつれてくるので、初心者用の仕事の振り分けは自分が行うことにしている。

でもおかげで、【スライムスレイヤー】とかいうダサい二つ名は忘れ去られ、いまはチーム名でもある【夜明けの光団サブリーダー】として知られるようになったのは、プラスと言えよう。

さらに言えば、人数が増えたため、そこそこ利益の出る依頼が受けられるようになったのもメリットといえる。

このままいえば、あと数年以内にマイホームも夢ではないだろう。


「ノール!東の方でアンデットの群れが出たらしい!

 さぁ、一緒に討伐しに行くぞ!」


……まぁ、それより先に過労死しなければだが。



――三年後



「ついに魔王が復活してしまったか!

 でも、僕ら【夜明けの光団】はあきらめない!」

「ペガサス隊は農村部の防衛任務に!

 グリフィン隊はスケルトンロードの討伐を!

 ドラゴン部隊は、僕と一緒に魔王の討伐を!」

「さぁ、ノール!ともに世界を救おう!」


――な・ん・で・そうなるんだよぉおおお!!


別に魔王とか、放置でいいじゃん!

いやさ、確かにここまで大きくなったクランや信頼を得た顧客を失うのは、惜しいよ?

でも、それに抗うために魔王軍の進行を食い止めたり、魔王討伐に乗り出すのはおかしいと思うんだ!

まぁ、そうは言ってもあの善良が服を着ているかのようなシュジ君が止まるわけもなく、かといって、こんなことでシュジと喧嘩したり、仲互いをするのもばからしい。

なので表面上は賛同するふりをして、依頼達成率が五割を切ったら中断。

失敗にかこつけて、魔王討伐を諦めるように説得するか。



――半年後。



「魔王!討ち取ったりぃぃぃ」


――まじかよ。


いや、思ったよりもあっさりと討伐できたな。

国の被害はそこそこではある物の、団員にけが人は出たものの死者は出てないし、何よりシュジが魔王と対面して生きているのが驚きだ。

まぁ、魔王を倒してしまったのでシュジは勇者認定不可避であるが、そこは聖騎士なので教会が何とかしてくれるだろう。

問題は、自分は後ろ盾のない一般人だってことだ。

一応、冒険者ギルドの方でなんと助力してくれるそうだが、暗殺や濡れ衣も十分あり得るとのこと。

取りあえずは成り行きに任せて、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する。

……まぁ、金だけはあるので、最悪金だけをもってすべてをバックレるか。



――一年後



「というわけで、ここがノール様の住む拠点となります」


──やったぁ!!念願のマイホームだぁぁぁ!!


あのあと色々あり、王へ謁見したり、御前試合をやらされたりして早数ヶ月。

私は魔王討伐の報酬として、この一軒家とど田舎の土地をもらうことになった。

まぁ、体のいい島流しであり、ここまで送り込んでくれた騎士様もは自分に同情の視線を向けているが、自分としては万々歳である。

此方としては殺されたり、政治闘争に巻き込まれるよりは遥かにマシだ。

更には、魔王討伐のおかげで貯まった貯金と経験値のおかげで事前の準備もばっちりなのだ。

ここから俺のスローライフがスタートするぜ!



――二年後



「副団長!久しぶりです!

 せっかくなので引っ越してきました!」

「ノールさ~ん!俺もここに済ませてくださいよ!

 ここなら、魔物を狩るだけで生活できるんでしょう?」

「うは~~~♪温泉最高!

 いやちょっと様子を見に来たつもりですが、気に入りました!

 家族ともどもここに移住したいと思います!」


――お、俺のスローライフがぁああああ!!!!


とまぁ、冗談はさておき、左遷されてから早数年。

こんなド田舎にもかかわらず、元夜明けの光団の団員が自分の住む場所に移住しに来てくれた。

まぁ、一人でのんびりスローライフがなくなるのは惜しいが、それでも頼れる仲間たちとスローライフを満喫するのも悪くない。

でも、騎士や貴族として取り立てられたはずの元団員、お前らは本当にそれでいいのか、故郷に錦を飾るのはどうなったんだと小一時間問い正したい。


「いやだって、俺なんて貴族なんてガラじゃないっすよ~!

 元農家の次男坊にそこまで期待しないでほしいっす」

「ふふふ、夫婦の価値観の違いで妻に浮気されましたが?

 しかも、家格の違いでお前が悪いとか、ちょっとしたトラウマですよ」


お、おうそうか。

かくして、気が付けば半分くらい集まっている元団員と共に、スローライフという名の開拓作業を進めるのであった。



――三年後



「領主様!難民に集団が街の外にやってきました!

 とりあえず、避難所に招待しておきましたが、いかがしましょうか?」

「領主様~、とりあえず救援物資の準備ができました~」

「副団ちょ……領主!とりあえず、東の開拓は終わったぜ!

 これで港と船も使えるな!」


――お、俺のスローライフがぁああああ!!!!(二度目)


今度は本当に俺のスローライフが吹き飛んでしまった。

原因は王国の治安の悪化と開拓の活性化だ。

もう少し詳しく言えば、どうにも魔王討伐のせいでここ数年は農作物の不作が続いているそうだ。

そのせいで、王国の治安が悪化し、難民が続出。

本来ならド田舎のこの土地にまで難民が批難してくる始末だ。

わざわざここまで逃げ延びてきた難民を見捨てるわけにもいかず、元団員も農民上りが多いので助ける意識が強いため、救援して、今の状態に至るというわけだ。

なお、基本的に文官が少ないし、まとめ役の適性があるのは貴重なため、今の自分はデスクワークばかりだよ。

せっかくスローライフ用のスキル取ったのに、これだと宝の持ち腐れである。

王都はどうなってるんだ王都は!


「はい、これが新しい領地開拓許可証です」


まぁ、自分を左遷したときに比べれば、こうして印鑑を押してくれるだけマシか。

というわけで、今日も俺は机の上で判を押す仕事をするのであった。



――半年後



「……と、いうわけで、クーデター成功したからよろしく」


「は?」


なんか王国滅びたんですけど????



――二年後



「我こそが、神聖公国初代教皇のシュジである!」


は?


「そして、教皇の命により、お主が所有している土地を国として認め、お主をその初代国王とする!!

 というわけで、任せたよノール」


はああああああああ????


聞くところによると、先のクーデターは、王国の横暴っぷりに教会が切れた結果起きたらしい。

現在、王国は既に解体済みであり、その領地を切り分けている最中とのことだ。

なお、自分が納めている土地は土地も当然元王国であるが、今はだれの土地でもない。

しかし立地上他の国に与えるわけにもいかず、せっかくだからそのまま納めてほしいとのだ。


「でも、俺って王なんてじゃないしなぁ……」

「それを言ったら、僕もそうだよ。

 いいだろよ~、一緒に王様やっていこうよ~~。

 なんなら、ボクの妹を上げてもいいから!」

「え、別に欲しくな……ごめん、そんな睨まないで」


まぁ、当然そんな面倒くさいことは嫌なので断ろうと思ったが、シュジの願いもありなし崩し的に承諾されてしまった。


「……どうしてこうなった」


かくして私は、初代夜明け国の国王として、統治する羽目になってしまったとさ。

めでたし、めでたし。

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