第27話 ドキドキの初デート

「よかったら今度、遊園地でも行かない?」

 昼休み、いつものように一緒に弁当を食べながら、わたしは勇気を振り絞って壮馬君に切り出した。

「行ってもいいけど、ジェットコースターには乗らないぞ」

「えっ! 壮馬君、ジェットコースター苦手なの?」

「ああ。けど、メリーゴーランドは大好きだ」

「……そうなんだ」

 意外な事実に戸惑いながらも、わたしは気になったことを聞いてみる。

「ちなみに、観覧車は乗れる?」

「ああ。それなら、ギリ大丈夫だ」

「よかった!」

 わたしは嬉しさのあまり、つい大声を出してしまった。

「なにがよかったんだ?」

「……ううん、なんでもない。それより、お化け屋敷にすっごくリアルなお化けがいるんだって!」

 咄嗟に話題を変えてごまかそうとするわたしを、壮馬君は怪訝そうに見ていた。


 土曜日の朝、駅で待ち合わせをしていたわたしたちは、そのまま電車に乗って、遊園地の最寄り駅へ向かった。壮馬君はトレーナーにジーパンというラフな格好だったけど、イケメンなうえにスタイルもいいから、正直何を着ても似合う。

 一方わたしは、この日のために買っておいた白いワンピースを着てきたんだけど、壮馬君はそれには一切触れてこない。別に褒めてほしいわけじゃないけど、一言でいいから何か言ってほしかった。

 やがて駅に着くと、わたしたちはカップルや親子連れと共に、遊園地に向かって歩き出した。その道中、壮馬君がぽつりとつぶやく。

「そのワンピース、よく似合ってるな」

(ええー! なぜ、このタイミング? さっき電車の中でいくらでも言う時間はあったのに……) 

 壮馬君の考えていることが分からず戸惑っていると、彼はすかさず二の矢を放ってくる。

「普段の髪型もいいけど、その髪型もいいな」

「そう? じゃあ、よかった」

 わたしの普段の髪型はセミロングなんだけど、今日はいつもと違う自分を見せたくてポニーテールにしている。

 褒めてくれるのはもちろん嬉しいんだけど、なんで今なの?

 わたしのリアクションがいまいちだったのが不服だったのか、その後遊園地に着くまで、壮馬君は一言もしゃべらなかった。


「わあ! ここに来るのも久しぶりだから、テンション上がるー!」

 わたしはさっきのリアクションの悪さを取り戻そうと、わざと大げさに言ってみた。

「ほんと、女子って、こういう所好きだよな」

 そんなわたしを、壮馬君は呆れたような目で見てくる。さすがに今のは、わざとらしかったかな。

「じゃあ、まずはメリーゴーランドでも乗ろうか?」

「ああ」

 そのまま二人でメリーゴーランドのある場所まで歩いていくと、そこには小学生以下の子供を連れた親子しかいなかった。わたしは周りの目が気になり、壮馬君に「どうする? このまま並ぶ?」と聞いてみると、彼は食い気味に返してきた。

「当然だろ。俺はこれが一番好きなんだから」

「そうなの? じゃあ、最初じゃない方がよかった?」

「いや。どうせ後でもう一回乗るから、全然構わないよ」

「……そう。本当にメリーゴーランドが好きなんだね」

(メリーゴーランドが一番好きという発言にも驚いたけど、まさか二回も乗りたいだなんて……ということは、わたしもそれに付き合わないといけないんだろうか)

 やがて順番が回ってくると、わたしは壮馬君のすぐ後ろの木馬に乗り、そこから彼を見る形となった。すると、一番好きと言うだけあって、壮馬君は終始ハイテンションで、普段は絶対発することのない奇声まで上げていた。壮馬君が喜んでくれるのはもちろん嬉しいんだけど、この姿はあまり人に見せたくないかも。


 その後、ゴーカートとコーヒーカップに乗ったところで、昼ごはんを食べることになった。わたしたちはレストランに入り、壮馬君はハンバーグランチ、わたしはきのこピラフを注文した。なぜそれを頼んだかというと、あまり口を開けなくて済むから。普段壮馬君と一緒に弁当を食べている時も、わたしは常にそのことを意識している。

 やがて注文した品が運ばれてくると、壮馬君はナイフとフォークを器用に使いながら、ハンバーグや付け合わせの野菜を次々と口に運んでいく。その流れるような動きに、しばし見とれていると、それに気付いた壮馬君が不思議そうに観てくる。

「さっきからずっと観てるけど、俺の顔になんかついてるのか?」

「えっ! つ、ついてるよ! 目と鼻と耳と口と、あと眉毛が!」

 わたしはテンパり過ぎて、自分でもよく分からないことを口走ってしまった。

「はははっ! なんだよ、それ。秋元って、時々変なこと言うよな」

「そうかな? そんな記憶まったくないんだけど」

 もし言ってるとしたら、それはきっと壮馬君のせいだ。

 壮馬君と一緒にいる時以外のわたしは、至極真っ当なのだから。

「そういえば、この前ここのお化け屋敷に、リアルなお化け役がいるって言ってたけど、後で行ってみるか?」

「えっ! 壮馬君、ジェットコースターはダメなのに、お化けは平気なの?」

「ああ。ジェットコースターとお化けでは、怖さの種類がまったく違うからな。それより、秋元はどうなんだ?」

「わたしはちょっと怖いけど、壮馬君が行きたいのなら、行ってもいいよ」

「よし、じゃあ決まりだな。俺、秋元の話聞いてたら、その女性に会いたくなってさ。いわゆる、怖いもの見たさってやつだな」

 こうして、わたしたちはお化け屋敷に行くことになったんだけど、これってもしかしたら、手をつなぐチャンスかも。だってお化け屋敷って、自然と体を密着させることになるから、流れ的にそうなってもおかしくないよね?

 やがて食事を終えると、わたしは二つの意味でドキドキしながら、壮馬君と共にお化け屋敷へ向かった。


 



 


  



  




 



 



 





 





  


 


 



 



 





 





  


 

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