うたた寝と月

Marshmallow Bunny

第1話 朝

 朝いやいや起きて、また同じ1日が始まる。代わり映えのない朝ご飯を時刻を知らせるニュースの音を耳に入れながら急いで口にする。いつもの最寄り駅からいつもの路線の後ろから3両目。もちろん出勤ラッシュで座れるわけはない。

(そういえば今日の古典の授業で単語テストあったんだっけ...)

リュックから単語帳のページをめくる。降りる駅まで20分位あるし昨日までに範囲を何周かはしたから2周くらいすれば大丈夫だろう。

 行きたい大学も就きたい職業も無いのになんのために勉強しているのだろうか。僕の頭にこの疑問がなくなるときはほぼ無いと言っていいだろう。なんなら大半の学生は僕と同じことを思っているに違いない。


 駅から高校までは歩いて十分もしないくらいの距離。結構近いかもしれない。

「よっ、雅光まさみつ

「痛えって、力強すぎ。ったく朝から元気だな」

僕の左隣を自転車をひきながら歩いているりょうは毎朝、ほぼ必ず肩にかけているスポーツバッグを僕の肩に当ててくる。

「てかさ、テスト順位出るのって今日だっけ?」

「そうだった気がする」

「お前は興味ないもんなー。順位とか。まあ俺は下から30位以内じゃなければ上出来って感じだな」

 僕だって、別に順位に興味が無いわけじゃない。低くなければ良いくらい。どれだけ頑張ったって上には上がいるから高望みしないだけ。

 「つーか陵は今日の古典の単語テストの勉強した?」

「やべっ、うっそ今日だっけ?!お願い雅光、単語帳貸してくれ」

「はぁ、先週貸したとき”これで最後にするから”って言ってたの忘れてないからな」

「マジ頼む!俺、古典の授業2時間目だから、すぐ返すから!!」

僕は六時間目だし最初からこうなるだろうとは毎週思ってる。

「しょうがねぇな、良いよ、貸すよ」

「あぁー、ほんとにありがとな!」

「その代わりあの漫画貸して」

「先週出たやつ?」

「そうそれ」

「読み終わったから良いよ、部活帰りに俺んち寄ってこうぜ」


 僕と陵は家が近くて小学校から今まで同じ学校。僕が小学生でバレーを始めると陵も一緒にやり始めた。中3のとき僕は特に志望していた高校が無かったけど陵からバレーの強豪校だからって今の高校を受験しようと言われ、なんとなくで志望校にした。だけど毎年難関大合格者を多く輩出する名門校だから、入りたい、そんな気持ちだけで受かるような高校ではない。一応僕は模試で合格安全圏だったけど陵は余裕とはいえなかった。(陵、こんなこと思っててごめん)部活引退後はほぼ毎日一緒に受験勉強して無事合格できた。それで部活は当然のようにバレー部にした。強豪校だが進学校なだけあってちゃんと勉強も両立できるような設備があったりする。バレー部はまあまあ人数が多いが、近々行われる2年だけが出れる大会でのスタメンに入れそうで最近少しだけ、いや結構ワクワクしている。

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