未来への切符

机の前にスタジャンを掛け、俺は必死で勉強した。


正直、この時の記憶は勉強以外ないくらいだ。


受験当日を迎えても、緊張などはなかった。


手応えを感じてはいたものの、自己採点で英語が思った以上に点数にならなかったため当日は落ち込んだが、恐らくギリギリ大丈夫だろうとの予想はしている。


プラス思考に考えなければ・・・


終わったことだ。


----------------------------------------


受験が終わって間も無くすると、卒業式がやってきた。


「あのっ・・・」


後ろから声をかけられ、振り向くと見ず知らずの女子がいた。


上靴を見ると、2年生のようだ。


「滝澤さん!前好きでした!ボタンください!」


微妙な・・・


前?でした?


は?


「ん・・・あ・・・どうも・・・」


突然の告白と『前』という言葉に混乱し、なんだかよくわからない言葉が出た。


とはいえ、別に出し渋るものでもないのでボタンはその後輩にあげることにしたが、あげた瞬間ダッシュでその場を後輩は立ち去っていった。


「ぎゃははは!ミヤ!なんだよ!『前』ってwww『でした』だってwwwwwwクッソうける!」


聞き覚えのある声。


最も微妙な場面を敏樹に見られてしまった。


「俺は何もしてないだろ?ってか普通に前好きだったでボタン貰いにくるやつってどうなんだよ・・・」


すると突然後ろから肩を組まれた。


「ま、過去は過去だな。これから俺らは高校生よ?」


肩を組んできたのは蓮だった。


「おいおい、ミヤはギリギリラインでまだ高校生になれるかわかんないもんな?」


樹がどこからともなくやってきて罵ってきた。


「さすが、合格ライン余裕の人は言うことが違いますねぇ」


自分を卑下するように樹に言ったが、事実樹は市内トップ校も狙えるほどの学力があったが、大上を受けたのだった。


「結局ホッケー部って揃うのな」


最後に駿がそう言いながら近寄ってきて、ホッケー部3年が全員集まった。


「最後に部室行かね?」


敏樹が言ったことにより、全員が部室に向かおうとしたところふと気づいた。


「あ、鍵ねぇ・・・もう先生に返しちゃったし・・・」


俺が気づいてその言葉を発した時に、全員ががっかりした。


するとまた後ろから


「先輩!全員のボタンください!全員分、俺つけるっす!」


今度は男だ。


しかも聞き覚えのある・・・


昇だった。


「お、ちょうどいいや。昇、鍵貸して!最後に俺ら部室行きたいんだわ」


敏樹が昇を捕まえながら言った。


部室に着いて、3年間このメンバーで頑張ってきた。


頑張ったつもりだったが、それはあくまでつもりだった。


『お前、全然成長してないな・・・』


高橋の言葉を思い出し、高校3年間は同じにはしないと心に誓った。


「そういえば西ヶ峰中だけど、全道準優勝だったけど全国優勝したらしいぜ?」


蓮が言い始めた。


「マジで?全国優勝か・・・すげぇ相手だったんだな」


樹が言った。


それでも高橋の言葉は心に引っかかっていた。


「ただやっぱり差はついてたよ。俺たち小学校の選抜でもいい勝負はしてたわけだし」


駿の言葉に気づいた。


「あ!そうか!わかった!あいつだ!」


突然俺が発した言葉に全員が驚いた。


「どした?あいつ?ミヤ、なんか俺らには見えてない人たちが見えてたり・・・とかじゃないよな?」


敏樹が若干馬鹿にしたように、腫れ物を触るように言ってきた。


「いや、そうじゃなくて。俺全道最後のノーマーク外して倒れてた時、相手の18番に『お前、全然成長してないな』って言われたんだよ。」


「は?お前それで黙ってたの?普通殴り掛からね?」


血の気の多い敏樹らしく、自分が言われたように怒りを露わにしていった。


「そうじゃなくて、俺小学校の選抜の時にあいつのことマークしてた。全然余裕だったし、なんなら攻める余裕もあったしだったんだけど・・・」


「あぁ、だからあの試合18番がミヤのこと目の敵みたいに追うシーンがよくあったのかな?」


全体をよく見ていた蓮だから言えるセリフだった。


「ミヤ一回転してたしな」


樹の一言があのシーンを思い出させた。


「リベンジ的な感じなら納得できるな。相手にしたらリベンジ成功ってとこか」


妙に蓮が上から目線で言ってきた。


「いや、このまま終われるわけないだろ。逆リベンジしてやるよ」


俺は闘争心剥き出しで言った。


今度は絶対に負けない!


「そう固く考えるなって。ほれ、俺ら全道出たし記念に残しておこうぜ?」


敏樹はそう言うと、パックと白いマーカーを出した。


「番号と名前書いて、記念に置いてこうぜ?」


興奮気味に言う敏樹に向けて駿が冷静に


「もう4月には無くなってたりしてな」


そう馬鹿にしながらも、率先して駿が名前を書いている。


「ん〜、じゃあ保険だ保険!」


そういうと敏樹はもう一つパックを出して言った。


「1つは先生に保管しておいてもらう!」


勝ち誇った様子で行った後、今度は蓮が


「それも先生が移動するまでの間な?」


そう言われた敏樹は、まさにノックアウトされた後のボクサーのようにうなだれていた。


「じゃあまたリンクで会おうな!」


俺が全員にそう言うと樹が


「俺は集合できそうにないな」


と、言葉を挟んだ。


「馬鹿!お前はホッケー辞めたとしても見に来りゃいいだろ!」


敏樹が樹の頭を叩きながら言った。


「そうそう。俺ら対ミヤの試合でも見に来いや」


蓮が樹の肩を叩きながら言う。


「その代わり、樹のバスケの試合は俺ら全員で応援しに行くからな!」


駿が樹の胸を叩きながら言う。


樹も長い間アイスホッケーを続けてきた。


そのアイスホッケー人生が中学卒業と同時に幕を下ろすことになった。


「お・・・お゛ばえ゛ら゛・・・」


樹が泣いてしまったところで解散となった。


進む道は様々だが、今ここで一つの区切りがつき、高校という新たなステージへステップアップしていく。


--------------------------------------------


そして合格発表当日。


張り出しの掲示板を見に行くことも考えたが、遠いことと万が一のことを考えてネットで確認することにした。


受験番号は170番。


「100・・・・150・・・160・・・・」


「162・・・167・・・168・・・・」


番号がないわけがない。


絶対にある!


ある!


あると信じてる!


部屋で一度蒼にぃちゃんのスタジャンを見つめ、再度番号探しをする。


「169・・・」


「・・・・」


ぐっと目を閉じてしまった。


再度目を見開き


「1・・・・17・・・・170!あ!ったぁぁぁ!!!!」


部屋でこれでもかというくらい飛び跳ねた!


まるでハードロックバンドのギタリストばりの暴れようだった。


「ミヤ!」


突然部屋のドアが開き、母親が仁王立ちをしている。


いつもなら怒られる流れたが


「おめでとう!」


そう言うと、思いっきり抱きしめてくれた。


すると突然スマホが鳴った。


『おめでとう!』


一言。


蒼にぃちゃんからだった。


蒼にぃちゃんはネットで番号を確認してくれていた。


どれだけ気にかけてくれたのだろう。


『ありがとう!』


その文章と蒼にいちゃんにもらったスタジャンを着て自撮りを撮り送信した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る