幼馴染を◯してしまいました

前編

　彼女とは幼い頃から一緒だった。

　一目惚れ。

　幼稚園で一目あった瞬間、使い古された表現だけど雷に打たれた。

　友人に話したこともあるが、幼稚園児でそんな感覚あり得ないと一蹴された。

　でも、僕の感覚は間違っていない。

　今までも、これからも彼女以外を好きになることなんて無い。

　そして彼女も同じ気持ちだと思っていた。

◇

　彼とは幼稚園の頃から同じ。

　初めて会った時の感覚は今でも覚えている。

　ひと目みてこの人とずっと一緒に居たいと感じた。幼稚園とは思えないおませな感情。

　それからは彼しか見えなかった。

　ずっと絡み続け、彼もそれを嫌がる事はなかった。

　小学生になっても距離が離れることはなく、周囲の冷やかしにも気にしなかった。それこそ夫婦なんて呼ばれれば逆に喜んで彼の腕を取っていたくらいだ。

◇

　中学に入ってより綺麗で可愛くなった彼女。

　他の男子からも告白される事も多くなった。

　彼女が僕以外を好きになることなんて無いと信じていたけど、告白のたびに男子に呼び出される彼女を見るたび胸が締め付けられた。

　僕としては今更感はあるけど、言葉にして関係を定義づけ、恋人同士になることにした。

　そして初めて言葉にして「好きだと」伝えた。

　伝えて改めて「愛している」と実感出来た。

　友人なんかには重すぎだと揶揄されけど。

　でも、僕は彼女の事を本当に愛していたから、それだけが僕にとっての全てだった。

◇

　中学に入って初めて言葉で「好きだ」と伝えてくれた。

　本当に嬉しかった。

　有象無象の告白で辟易していた私の心が浄化され愛で潤してくれた。

　もう、彼のためならすべてを捧げても良いと思える程に。

　だから、行動に移した。

　気持ちで繋がっているのは疑いようがない、だから気持ちだけでなく体も。

　彼は好きだからこそ安易な行動は避けたいと最初は行為を拒んだ。

　私もその気持ちが何より嬉しかったが、彼を求めてやまない衝動は限界だった。

◇

　彼女から相談を受けた。

　曰く、彼女は性欲が強いらしく体が疼いて仕方ないと……このまま、もし僕が相手をしてくれないのなら、他の人と性欲だけを満たす関係、いわゆるセフレを認めて欲しいというとんでもない提案だった。もちろん本気ではない事は分かっていた。

　分かっていたけど、彼女から言葉は僕の脳天を打ち砕くほどの破壊力を秘めていて。

　まるで本物の鈍器で殴られたような強い衝撃を受けた。

　彼女が他の男に抱かれている姿を想像し吐きそうになった。

　気付けば僕は彼女を押し倒していた。

　そして彼女は嬉しそうに僕を受け入れてくれた。

◇

　彼に抱かれ世界で一番幸せになった夜。

　残る痛みさえも、彼が私と繋がった証だと思えて嬉しくなる。

　体以上に心が乱れて、何度愛を叫んだのか分からない。彼の愛の囁きが何度脳を焼き、とろけさせたのだろう。

　私は身を持って愛が劇物だと知った。

　一度私の中を満たしたそれは、もうそれ無しでは生きられないほどに私を虜にした。

◇

　体を重ね、心と体が強く結びついた僕と彼女は校内でも有名なバカップルになった。

　周りから冷かしと温かい眼差しを向けられ、彼女に告白する男子は、馬に蹴られて死にに行く愚者を超えた勇者だと称えられるようになった。

　ある意味で学校の名物みたいに扱われるようになり、彼女さえいればいい僕としてはどうでもいい事だったけど、それなりには楽しい学校生活を送っていた。

◇

　彼との楽しい時間だけが続けば良いのに。

　何度そんな事を思ったのか分からない。

　でも、現実は私達に否応なく選択を迫ってくる。

　高校への進学。

　当然、彼と同じ学校に通うつもりだ。

　学力的にはランクを下げないといけないけど、そんなのは些細なことだ。だって私にとって何より重要なのは彼との時間だから。

　その事を彼に伝えると喜んでくれた。

　そして喜ぶだけじゃなくて少しでも私のレベルに近づけるよう勉強も頑張るようになった。

　もちろん私も手伝って、予定していた学校より高い学力レベルの学校に合格することが出来た。

　勿論私も問題なく合格した。

◇

　高校に入って、改めて彼女の凄さに驚かされた。

　僕は彼女しか目に写ってなかったのでわからなかったけど、彼女の美貌はテレビでも活躍するトップアイドルにも引けを取らないらしい。

　中学の時は僕が彼氏として知れ渡っていて公認されていたけど、新生活で僕と彼女の関係を知らない男共が彼女に群がった。

　当然、彼女は僕と付き合っていることを公表し全て断っていた。

　その中の一人にアイツも居た。

◇

　高校に入ってまた有象無象から声を掛けられる事が多くなった。

　中には私が彼と付き合っていると言っても、あんなやつより俺の方が絶対にイイなんていう頭のおかしいキ◯ガイも居た。

　お前らに彼の何が分かるのか、そう怒鳴ってやりたかった。

　いや、怒鳴ればよかったと後悔した。

　私としては、中学の時のようにラブラブバカップルぶりを見せつけてやれば引き下がるだろうと思っていた。

　けれど一人だけやたらしつこいヤツが居た。

　そいつは学力もトップクラスでスポーツもテニス部所属で一年でレギュラー。

　周りからはテニス王子なんて呼ばれているらしい。

　どうやら他の女子にはあれがイケメンに見えるらしい。

　私からすれば形の整った人形と変わらず、そこにはなんの魅力も感じないに。

◇

　最初は男子からだった。

　攻撃的な視線を向けられるようになったのは。

　僕としては、彼女と付き合っていることに対する嫉妬だろうと気にしなかった。

　しかし、それはエスカレートしイジメに近い形にまでなった。

　幸い彼女とは別のクラスだったので知られることは無かった。

　もし、知ってしまえばきっと彼女は自分自身を責めただろうから。

　何より男としてのつまらない見栄もあった。

◇

　最近彼の様子がおかしい。

　明らかに元気が無く沈んでいる。

　なにかあったのなら相談してと頼んでみたけど、「何でもない」と力無く笑った。

　それからしばらくすると、彼はいつの間にか元に戻っていた。いやいつも以上に私に愛を囁いて、甘やかして、とろけさせてくれるようになってくれていた。

　馬鹿な私はちゃんと見ていなかった。

　気付いてあげられなかった。

　彼が私の前だけ強がっていたことに。

◇

　イジメはエスカレートして暴力を振るわれることされ当たり前になっていた。

　クラスの中心人物でもあるテニス部のなんちゃら王子とが扇動していて遠目に見ているだけだった女子達も一部はイジメに加わるようになっていた。

　正直に言えば学校には行きたくなかった。

　でも、彼女と離れることはもっと嫌だった。

　たから彼女といるときだけはいつもの自分に戻るように頑張った。

　彼女だけが僕の唯一の支えだった。

◇

　それを聞いた時頭の中が真っ白になった。

　あのしつこいテニス部のなんちゃら王子が私に言ってきた。

「お前と付き合っているせいでアイツ、イジメられてるぞ」と。

　そして、続けざまの言葉。

「俺と付き合えばどうにかしてやる。だいたいあんなのがお前と付き合ってるのが不相応なんだ」

　それで分かった。

　こいつが黒幕だと。

　その場で殺してやろうかと思った。

　でも、こいつが黒幕だという確証がない。

　なら、確証を得るための時間が必要だ。

　私は「考えさせて」と思わせぶりな感じでその場を去った。

◇

　最近、彼女の様子がおかしい。

　どこか上の空で僕に悲しげな視線を向けてくる。

　僕は彼女が笑ってくれていればそれだけで良いのに。

　なんだか僕の手から彼女が滑り落ちて消えてしまいそうで怖くなった。

　僕は彼女の手をしっかり握り、いつものように愛を囁く。

　いつもなら喜びに満ちた瞳が、悲しみに沈んで曇っているように思えた。

　そんな晴れの見えない曇天の日が続く中。

　僕は見てしまった彼女らしき女子とテニス部のアイツがホテル街の方へと向う姿を。

　思わず後を付けてこの世の絶望を知った。

　それは間違いなく彼女だったからだ。

　彼女はアイツと、よりにもよって俺をイジメている主犯の男とホテルへと入っていった。

　もう、頭の中がグチャグチャで何も考えれないまま気付けば家に居た。

　目をつぶっても二人がホテルに入っていく光景が頭から離れない。

　そしてどうしても考えてしまうその先を……男と女がそういうホテルに入って何も無いなんて考えられない。

　こみ上げてくる吐き気に耐えきれず嘔吐した。

　部屋に広がる悪臭。

　惨めに片付けをしながら、今度はトイレに間に合い何度も嘔吐する。

　最後は吐くものが無くなり胃液がだけが逆流し血が滲む。

　もう、全てがどうでも良くなり、沈んだ気持ちのままベッドに戻れば、今度は涙が止まらない。

　結局疲れて寝てしまうまで僕は情けなく泣き続けた。

　翌日。学校に行く気にならず休んだ。

　授業中なのに彼女が来た。

　渡してあった合鍵を使うと部屋まで上がりこみ、僕を心配そうに見詰めてくる。

　その態度に我慢できなくなった僕は昨日の事を告げ罵った。

　彼女は泣いて謝った。

　理由があると。

　彼女は泣きながらわけを話してくれた。

　そして理由を話し終わると言った。

「どんな理由があろうと、貴方を傷つけてしまった事に変わりない。だから貴方の好きなように罰して下さい」と。

　僕は怖くなった。

　彼女が離れてしまうことに。

　彼女が知らない男と歩むかもしれない未来があることに。

　彼女がいつしか本当に僕から心が離れてしまうことに。

　結局、僕は彼女を信用しきれなかった、

　だから僕は自分の手で彼女を殺めた。

　もう誰にも彼女を渡さない為に。

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『三度目は裏切らない人と』

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