Ⅰ
ベッドの上で抱き合う私たち。部屋に激しいリップ音が響く。
舌を絡め取られ、甘い痺れが腰から頭へ駆け上がる。呼吸のテンポが乱れ、心臓が激しく脈打つ。
快楽に支配されて、頭がぼうっとする。雅久お兄ちゃんは唇をゆっくりと離した。
視界に映る彼の端正な顔、息を整え、雅久お兄ちゃんの目を見る。
その瞳――まるで黒曜石のような瞳には、何の感情も浮かんでいない、さらには、眉一つ動かさない雅久お兄ちゃんは、まるで無感情な人のようだ。
雅久お兄ちゃんの指先が私の首筋に触れる。それが冷たくて、びくっとする。彼は、私の項から胸元へ指を動かし、慣れた手つきで私が着用しているブラウスのボタンを外す。
はだけたブラウスから、ブラジャーがむきだしになる。
いまだに慣れないこの行為に私は赤らむ。
雅久お兄ちゃんは、まるで壊れ物を扱うように私の肌に触れる。彼は、ブラジャーの肩紐をずらし、裸出する乳房を揉んだ後、この突起を舐める。
「ん……あぁっ……はぁっ……」
その巧みな舌使いに喘ぎ声が出る。下半身が痙攣を起こし、私の背から汗が吹き出る。快感が脳天を突き抜け、目に映る物の輪郭がぼやけてゆく。雅久お兄ちゃんは、乳房に顔を埋めたまま、右手を下半身に移動させた。
「詩子」
雅久お兄ちゃんは顔を上げて、私に話しかける。
「?……」
「今日の下着、赤色と黒色の配色が
そう話し、雅久お兄ちゃんは微笑を浮かべる。
その妖艶なほほ笑みに心臓が早鐘を打つ。雅久お兄ちゃんから目を逸らす。
雅久お兄ちゃんは女性器が濡れているかどうかを確かめる。私のショーツをぐっしょりと濡らす彼の熟練した前戯。彼はくすりとほほ笑む。
雅久お兄ちゃんは私をいまや掌上に運らす。
雅久お兄ちゃんは、女性器の濡れ具合を確かめてから立ち上がり、ベルトバックルを外す。それがかちゃかちゃと音を立てる。その後、それを外し、黒色のスキニーパンツを脱ぐ。彼は黒色がよく似合う人だ。
雅久お兄ちゃんを流眄で見る。色白の肌、引き締まった体と、整った顔。彼がモテる訳に納得がいく。
雅久お兄ちゃんは、そのぐっしょりと濡れたショーツを脱がし、それをベッドの脇に放り投げる。
ボクサーパンツを見ると、雅久お兄ちゃんの隠し所は勃起している。彼は、それを脱いで、ベッドボードに置いてあるコンドームの袋を手に取り、それを破いて、慣れた手つきでそれを装着してから、私に覆い被さった。
雅久お兄ちゃんは、私の股を広げ、男性器を女性器にゆっくり挿入した。挿入の瞬間、全く痛くなかった。膣奥に到達した男性器、彼の隠し所は大きく、挿入時に痛みを感じることがある。
「痛くないか?」
「うん、大丈夫」
そうして、雅久お兄ちゃんは腰を振る。膣奥を激しく突かれ、電流の如き性的快感が体内を駆け巡る。
「ああっ! んん!」
エクスタシーに達する私と、腰を振るペースを緩めず、男性器を膣奥にがんがん突く雅久お兄ちゃん。
汗が滲んだブラウスが私の素肌に纏わりつく。
私はシーツを握りしめる。
雅久お兄ちゃんとの繋がりを感じられるこの時間がずっとずっと続いてほしい、ずっとずっと続けばいい。
私は愛を知らずに育った、私は愛を知らない。
この行為に愛はない、この行為は、肉体で心の飢えを埋めるための行為だ。
「そろそろ出るっ!……」
雅久お兄ちゃんは、フィニッシュを迎えて、コンドームの中に射精し、秘部からそれを直ちに抜く。
コンドームの中に放射された、どろどろとした濃厚な精液は彼の“生命”
雅久お兄ちゃんは、いつもそれをごみ箱に捨てる。それが捨てられる度、私は、今日も“雅久お兄ちゃん”がごみ箱に捨てられたと哀しくなるのだ。
案の定、雅久お兄ちゃんは、今日も“雅久お兄ちゃん”をごみ箱に廃棄した。
冷静な雅久お兄ちゃんと、快楽の余韻に浸る私。
その後、ティッシュで陰茎を拭き、ボクサーパンツを履いてから、ベッドに腰掛ける。
雅久お兄ちゃんは、ベッドボードに置かれたガラス灰皿、聖母マリアがデザインされたジッポーや、マールボロ・ボックスなどを手繰り寄せて、それらをベッドに置き、煙草の箱から煙草を1本抜き取って、それを銜え、ジッポーでそれに火をつけた。
その瞬間、マールボロの癖のない匂いが漂う。
雅久お兄ちゃんの後背を見ているうちに、彼がどこかに行ってしまう気がして、不安に駆られる。抱きしめたい、彼を。
『どこにも行かないで』
締めつけられる胸と、頬を濡らす涙。煙草の灰をガラス灰皿に落とし、煙草を燻らす雅久お兄ちゃん。彼がもしもこの世を去ったら――そのような不安感に襲われて、涙が溢れ出る。
「っ……ひっぐ……」
雅久お兄ちゃんは、啜り上げる私に驚き、私を顧みる。
「詩子?……」
「どこにも……どこにも行かないでっ! ひっく……ううっ……」
雅久お兄ちゃんは、ガラス灰皿で煙草を揉み消す。
マールボロの香りに満ちる部屋――雅久お兄ちゃんは、彼に抱きつく私を抱きしめ返す。
雅久お兄ちゃんの体温、彼に抱きしめられると、心が静まる。
「安心しろ。俺はどこにも行かないから。泣くなよ、詩子」
雅久お兄ちゃんは、私の頭を撫でながら、私を落ち着かせる。
柔らかさと温かさに満ちるその声音。彼の優しさに包まれる、彼の優しさが私を包む。
ああ、嗚咽が止まらない。
私たちを残して、命を絶った私のママと、家を去った誠士さん。
気づいた時、私たちは2人ぼっちだった。
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