24.車窓

 東京都は言えど、長く電車に揺られていれば、そのうち田舎っぽい景色に移り変わっていく。電車は住宅街の合間を縫って走る。車窓から見える田畑が風に靡き、陽の光が揺らいでいく。


 --次は、秋川。秋川です。


 アナウンスが流れ、俺は席を立つ。ボックス席で前に座る晴くんに俺は声をかける。色々と解決した後から、晴くんはなんだか、ずっと車窓を見てぼーっとしていた。


「ほら、晴くん、着いたよ」


「あ、うん」


 晴くんにも、なんだか人間っぽい感情の機微がどこかにあるように思えて、俺はちょっとだけ嬉しくなる。


 秋川駅の改札を抜け、歩道橋の階段を降りて小さなロータリーに出る。涼しい風が吹いて、つぼみを待つ枝がざわざわとそよぐ。昔よりは少し開発が進んだのかもしれないけれど、なんとも形容しがたいありきたりな住宅の風景が、俺の胸を、少しだけ締め付ける。


「りゅうくん、ここで、何するんだっけ。タイムカプセル、だっけ?」


 スマホで地図を眺めていると、隣で晴くんが言った。


「うん。俺が小学生の時に埋めたタイムカプセルを、掘り返しに行く。まずは小学校に行かなきゃだね」


 この地で俺は、タイムカプセルを見つけて、さっさとここの記憶とも決別しよう。


 なにもかも解き放たれたような気持になった俺は前へと歩き出す。だけれど、晴くんは後ろから声をかけた。


「ね、ねえりゅうくん。ちょっと思ったんだけどさ、タイムカプセル、掘り返しに行くの、ちょっと早いんじゃない?」


 振り返ると、晴くんは純粋な目をして俺を見ていた。晴くんの言葉で、俺は少しだけ、思考が止まってしまう。


「え?」


「ほ、ほら、タイムカプセルってさ、もうちょい大人になってから掘り出すイメージじゃない? あんまり高校生とかになって掘り出しに行くイメージ無くてさ」


 晴くんは後頭部に手を当てながらそう言う。確かに、二十歳になって小学生の頃のタイムカプセルを取り出しに行く話はよく聞く。なんなら、タイムカプセルっていうのは、十歳になる四年生の頃に、二分の一成人式だとか謳って埋めに行くものだ。


 俺は晴くんにそう言われて、少しだけ焦る。どうやって、どうやって説明すれば……。


 +++


 何の悪気もなく言った僕の言葉に、りゅうくんはものすごく返答に時間をかけた。何か、まずいことでも言ってしまっただろうか。


 りゅうくんは少しだけ俯いて、そして僕の方を見て、こう言った。


「その頃には、俺、ここにまた来れるかどうか、分かんないんだよね。色々と事情があってさ」


 また、小さな風が吹く。陽が橙色に傾いていく。りゅうくんは、しょうがないよねと言う風に笑った。りゅうくんが一体なぜ、こんな旅をしているのか。その理由が、すこしだけ分かるような、分からないような、そんな感覚がした。


 きっとりゅうくんは、未来の何かを見据えている。りゅうくんが何を見ているのか、どんな世界にいるのか。それを僕は、知りたくて仕方がなくなっている。

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