曉太(六)

 知ってる、文月が毎日来るんだ。彼女を3時間も立たせたままにはできないし、隣人が何か言い出したら面倒だろう。だから、早めに彼女に会いに行った。


 彼女が来ると、本当にただ頭を下げるだけだ。何もしないんだ、本当にただ謝罪しに来ただけなんだ。


 最初は遠くから見えた時、吐き気がする感覚があった。でも彼女が近づかないことがわかって安心した。


 ある時、彼女が30分遅れて来たことがあった。残業だろう。彼女はもう担任なんだから忙しいだろう。なんで毎日来るんだ?俺みたいな奴のために?


 お前、家政夫を戻そうるつもりか?


 時間を調整しようとしても、翌日彼女は早く来る。


 時には俺が残業して、帰宅が夜9時になっても、彼女はまだそこにいた。


 結果、お互い譲り合って、毎日7時30分に会うことになった。最大待ち時間は30分だけだ。


 こうして、この方法でほぼ1ヶ月が過ぎた。何も話さなかった。それがいい、彼女を見る度に、心の中で異なる感情が渦巻いて、時には怒り、時には苦しみ、そして悲しみがあった。でも少しずつ、少しずつ改善してきた気がする。少なくとも今は向かい側の道路で息苦しくならなくなった。慣れるって怖いよな。


 彼女もそろそろ夏休みか、その頃には変わるか?もう来なくなるのか?なんでだ、彼女に会えないかもしれないと思うと、心の中に大きな穴が開いたような気がする。でも彼女に会うことを考えると、他の感情が湧き出して、頭に衝撃を与える。だからとても目がくらんで、まるで体が浮いて、また重く落ちる感じがする。精神的な不調が、仕事で何度かミスを犯すことになった。


 頭を振り払って、自分を冷静に戻す。そういえば、今日彼女は本当に遅かったな……また残業か?


「曉……太……」


 顔色が青白い文月が、身なりは乱れて、ふらふらと歩いてきた。


「曉……太……」


 そして床に倒れた。


 何が起こったんだ?文月、お前は一体……うわっ!熱い……熱があるのか?こんな時間では医者は見つからない。


 隣人から借りた氷枕のおかげで、文月はやっと落ち着いた。その後、俺はコンビニにもう一度走り、薬を買って戻ってきた。


 ドアを開けると、苦しんで呻く文月が見えた。手を振り回し、口からは「曉太……曉太……私……」と連呼している。


 彼女に近づくと、彼女は俺がそばにいることを感じたかのように、俺の手を掴んで、徐々に落ち着いて眠り始めた。


 彼女はそのまま俺の手を掴んで離そうとしなかった。


 そして今、俺が一息ついて気づいたら、自分が彼女の柔らかくて細い指に触れていることに気づいた。そして今、彼女に対して性的欲求は全く感じないことが確認された……少し不快になってきたな、胃が不安定になって……押さえ……


「あああああーーー」


 結局、彼女は先に俺を押し返した。


「ごめんなさい……」


 彼女を助けたのに、また大声を上げて、俺を押し返す。彼女の顔がリンゴのように赤くなった。


「いや……大丈夫……」


「それに、あなたに触れてしまってごめんなさい……曉太、私に触れたくないんでしょう……」


 本当のことを言うべきかどうかわからないので、視線をそらした。


「……私と一緒にいたくないんでしょう……本当にごめんなさい……私、行くね……」


 彼女がまた立ち上がろうとした時、今度は俺が彼女を止めた。


「待って、ちょっと待って。あー、話を聞かないんだから…」


「でも……」


「まだ体調が戻ってないんだから、ちゃんと寝ろよ。」


「でも……」


「俺は仕事行くぞ。机の上に薬があるから、必要なら飲め。冷蔵庫に昨日の食べ物があるから、腹減ったら取って食べろ。本当にダメなら医者に行け。分かるか。」


「うん…」


「じゃあ、行くぞ。これが俺の番号だ、何かあったら電話くれ。」


 そう言って去っていった。ある程度の距離を歩いて、重々しく息をついた。


 深呼吸をして、自分を落ち着かせる。そして気合いを入れて仕事に取り掛かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る