ボディガード
浬由有 杳
お題:猫…以前描いたお題で描いてみました
沈みつつある夕日を背に肩で息をしながら駆けてくる真新しい制服姿の少女。
肩口にかかるツインテール。膨らみかけた胸元で揺れるスクールタイ。肩に担いだ大きめの校章入りスクールバック。
近くの高校の、たぶん入学したばかりの1年生だ。
再び新学期が始まってから時おり目にするその姿は、今日も初々しく愛らしい。
見るもの誰もが思わず引き留めたくなるほどに。
踏切の手前まで来ると、少女は立ち止まり、息を整えた。
ポケットからスマホを取り出し、時間を確認して呟く。
「やばい。もう始まる」
部活動か何かで遅くなったのだろうか?
おそらくこの先の新興住宅地に住んでいるのだろう。
街灯もなく人家もない寂しい道だが。
実際、遮断機のない、この小さな、危険な踏切をあえて渡る住民はごくわずかだ。
日中ならともかく夕暮れになると皆無だろう
かなり遠回りにはなるが、線路沿いにもう少し進んだ先、整備された踏切の向こうに続く大通りが、高校の指定通学路に定められている。
現に、彼女はここを素通りしてそちらの道を通っていたのだ。今までは。
期待に満ちて密かに見つめていると、少女が決心したように大きく息を吐いた。
左右を確認して、急ぎ足で一歩踏み出す。
彼らが待ち受ける踏切へと。
やっと捕まえられる。
更なる
線路の隙間から蠢き沸き上がるいくつもの黒い手。
それらが少女の足に触れようとした瞬間…
シャー!
唸り声が響いた。
茶色の塊が立ちはだかり、尖った爪がそれらを一瞬で断ち切った。
今夜は両親が祖母の見舞いに出かけているので留守番だ。
「ただいま」
テレビをつけると、いつものように棚に飾ってある写真に声をかける。
昨年大往生した愛猫の写真に。
足元に座る茶虎の猫。
その姿は少女の目には映らない。
ニャーオ
猫は誇らしげに一声鳴いた。
決して少女には聞こえない声で。
ボディガード 浬由有 杳 @HarukaRiyu
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