秋の心を哀しむ
谷岡藤不三也
第1話
「秋の心を哀しむ」
とある同人誌即売会を終え、サークル連中と、手伝ってくれた売り子のコスプレイヤー数名を交えて、近所の居酒屋で打ち上げをしていた時、目撃してしまった。
友人とコスプレイヤーの女の子がしているところを。
幸い、向こうは俺に見られたことに気づいておらず、その場からすぐさま離れたため、事なきを得たものの、なんだか砂利を食った時のような、飲み込めない不快感が俺の中には残った。
端的に言うと、多分ショックだったんだと思う。
酔った勢いでやっちゃうんだとか。仲間だと思ってたのにとか。あのコスプレイヤーまあまあ可愛かったなとか。可愛い皮被ってるけど、中身はドロドロした欲望の塊なんだなとか。
コンプレックスなんだ。一度も彼女できたことがないから、そういうの。
好きな人に話しかけることもできない。そのくせ心のどこかでは両思いなのではとか、きっと俺の思いは伝わってるとか、そんな風に思ってる。
たまにその思い込みが暴走して、メッセージ送りまくったりとか、ストーカーまがいの行為に出ることもあった。その度に、相手の本物の感情を知って、頭を下げて、腹を痛めた。
だから当然、俺にはそういう経験がなかったし、実際の行為を目の当たりにするのも初めてだった。
生々しくて気持ちが悪い。
そういう行為の存在を知って、動画やら画像やらを初めてみた時、率直にそう思った。
今じゃ別にそんなこと思わなくなったけれど、それはあくまでも画面越しの場合であって、こうして眼前で行われているところを見ると、やはり衝撃だったし、気持ち悪いとは思わなかったが、生々しくはあって、心をかき乱された。
でも別に、考えてみれば特別なことではないのだろう。
そういう行為は、姿こそ中々見せないけれど、確かにこの世の中の根底にある。みんな知っているし、普通にしているし、しかしそれをあえてひけらかすこともない。暗黙の了解というやつ。
現場から離れながらそんなことを考えて自分を納得させた。
ただ、そう思ったとき、身近な人たちの中にあるどろどろとした粘っこいものが見通せるようになった気がして、とても気持ち悪かった。
人には外面と、裏の顔だけでなく、中身が存在するのだ。そしてその中身というのは、皆ドロドロしていて気持ち悪い。
自分の中の既存の人間観が打ち砕かれた瞬間だった。
他者とそういう行為を行う際、俺なんかが思ってしまうのは病気とか、菌について。経験がないからだろうか、なんとなく汚いと思ってしまう。皆、それをわかっていて無視しているのだろうか。意図的にバカになることで、考える量を減らし、幸せを享受するという処世術なのだろうか。
ちょっと気持ち悪い話ではあるが、新品か中古かという話もある。
無知なりに考察してみると、新品は新品で、他を知らぬから楽であると言えるが、他を知った時に裏切られるのではないか、またそもそも新品でいた理由も気になるところではある。
中古は、どうしても手垢を気にせずにはいられないだろう。元鞘に戻るなんていうことも考えられる。ただ、新品の紙で手を切るようなことはなく、擦れているが故に、特別な先入観もないのは利点と言えるだろう。というか大半がこっちのはずだ。
そういう行為が普通であるという前提を踏まえると、どうしてアイドルや芸能人などのそうした報道にショックを受けるのだろうか。
グッズやらなんやらを購入することで愛を表現してはいるものの、顔を合わせたこともない、名前も知られていない関係である。無関係とすら言える。それなのにどうしていっちょ前にショックを受けたりできるのだろうか。どうあがいても画面は突き破れないのに。
報道に出ている人は、テレビに出ている人のドッペルゲンガーだと思い込めれば、多少は楽になるのかもしれないが、そんなダブルシンク的なことを実際に行えるものだろうか。
やはり生身の人間でフィクションを行うのは無理があるということなのだろう。
アイドルには、中身があってはいけないのかもしれない。
経験は金を払えばしてもらえるから、その経験自体にはその金銭分程度の価値しかないと言える。
彼女ですら、ある意味では金銭と取引可能なまである。
問題は彼女の作り方だ、と本当は言おうと思ったのだが、俺の頭の中で想定されているのは、学校という狭い世界での話だったことに気づいた。しかし実際の世界はもっと広く、故に先述の通り、十分な資金がないとちょいと難しいゲームであるのは確かだろう。
こういうことを考えていくと、自分の中で、どんどん人を信頼することが難しくなっていく。
人を信用することは簡単にできるが、信頼することはごく稀であるような気がしてきた。
なんにもわからない。確かなことなんて一つもない。
だから疑うしかない。疑っておけば、一応対応はできる。体重を預けてスッと身を引かれて転倒するなんてことはなくなる。相手に身を預けているような体勢であっても、重心は自分の方に置いておくべきなのだろう。
なんてな。
明日あいつとどんな顔して会えばいいんだろ。きまじーよ、一方的にきまじーわ。
そんなこと思いながら寝た夜でした。
明日のことは、とりま明日の自分に任せることにします。
よろしく!明日の俺!
おはよう!今日の俺!
自分の中で勝手にストーリーを作り上げちゃいるが
でも他人は勝手に他人の人生を生きているわけで
迷惑かけちゃったかもなとか
俺のせいで男性不信になっちゃいないかとかたまに不安になったりもするけど
高校の時好きだったあの子だって
部活で恋愛禁止だったあの子だって
今頃どこかで彼氏といちゃついて
気持ちよさそうによがって、喘いで腰振って、
女の気持ちよさを全身で感じてるはずだ
どうせ
そんなもんなんだよ、現実は
大袈裟なんだよ、ゲサゲサ
劇的なことなんて一つもない
ストーリーなんて一つもない
ない罪を償おうとして、一体何になる
二度と会うことのない女のことを思って、一体何になる
秋の心を哀しむ 谷岡藤不三也 @taniokafuji-novel
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