闇の睾丸蹴りバトルファイター

筆開紙閉

独白

 俺は睾丸蹴りバトルが好きだった。睾丸を蹴って蹴られてより大声を上げた方が負けという単純明快な世界が好きだった。単純に睾丸を蹴ることもその痛みも好きだったんだ。

 ある時、妹が病気になった。外国の名医に手術してもらわないと助からないと言われた。

 そんなときに出会った綺麗な目をしたヤクザは言った。


「キミ、キンタマ蹴る力が強いね。闇ならすぐにお金稼げるよ」

 

 ヤクザの言葉に乗せられて俺は闇の睾丸蹴りバトルに落ちていった。

 闇の世界では睾丸を破壊するまで蹴ることが許されていた。死人もでるような世界で俺は順調に勝利を重ねていった。だが、妹は俺が金を稼ぎきるより先に死んだ。

 そんなとき俺にヤクザはこう言った。


「金食い虫が居なくなってキミは自由になれたヨ」


 気がつくと俺はそのヤクザの睾丸を破壊して殺していた。睾丸は露出した骨格や筋肉に守られていない剝き出しの臓器だ。睾丸が破裂しても蹴り続ければ出血は続きいずれは死ぬ。俺はこのとき初めて人の睾丸を蹴り殺す快楽を得た。

 それから自由になった俺は闇の試合で何人も殺してきた。

 相手の痛みと苦痛の叫びが俺の喜びだった。

 そして俺は出会った。あの男に。


「睾丸蹴りバトルは人を傷つける競技じゃねえ!俺と睾丸蹴りバトルで勝負だ!」


 その男はフランス国旗みたいなシャツを着ていた。自由・平等・博愛でも表しているのかと思った。

 その男の蹴りは痛みを感じさせるだけで精巣を破壊するような威力ではなかった。その男は誰とでも分け隔てなく戦った。その男の戦いは俺には眩しすぎた。


「アンタの蹴り、すげえ痛かったぜ。でもアンタは睾丸蹴りバトルに真剣なんだって伝わったよ」


 気がつくと俺の方が睾丸を蹴られて大声を上げていた。

 俺は負けていた。闇の世界で不敗を貫いた俺はついに負けたのだ。


「いや違う。俺は睾丸を蹴って相手を壊すことが好きだったんだ」


 闇の世界では負けた睾丸蹴りバトラーは殺される決まりだった。

 だから俺も死ぬことにする。俺は初めて自分の睾丸をねじ切った。

 自分の睾丸を失うのはこんな痛みだったのか。そして俺はそのまま自分の首に隠し持っていたカッターナイフを突き刺した。

 自分を破壊するのも気持ちが良かった。それと空が青かった。


 

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