魔法と武器もつ高校生

灰戸

第1話

高校一年生の六月。中高一貫校のこの学校に一人の編入生がやってきた。身長は平均より少し高いだけ、見た目も平々凡々。入ってきた時期が一年生の夏休み前というあまりにも中途半端な時期以外には特になにも珍しい事はない。


(上手くやれますように)

そんな事を祈りながらドアの前で僕はクラスへ呼ばれるのを待っている。案外待ち時間が長く待っている間に一人の教師が僕に通りざまに挨拶をしてその先の階段を下りていく。

「湯村君中へどうぞ」

やっとドアが開き教師が僕の名を呼び、教室の中へと中へ招き入れる。

「は、はいっ」

手と足が同時に出るような失態はしないように、あくまで普通の編入生であるようにそんなことを気にしながらクラスへと入る。

「えーっとでは、清流高校から転入してきた湯村仁ゆむら ひとし君です。自己紹介をどうぞ」

さきほど、僕をクラスに招いた教師が編入生の軽い紹介する。

「あらためて転入してきました。湯村仁です。好きなことは...映画などを見ることです。よろしくお願いします。」

よろしくねーと声が返ってきてほっと安心する。

「皆さん仲良くしてあげてくださいね。では湯村君の席は一番後ろの廊下側から二列目です。」

指をさして教えてくれる。

「わ、分かりました」

それでは~と教師HRの続きをしていく。HRが終わった瞬間に転入生が物珍しいようで、一斉にクラスの人が僕に話しかけにくる。

(はじめはいい感じだな)

次の授業が移動教室だったので新しく買ってもらった教科書を持ち、移動教室の場所を知らない僕と一緒に教室まで行ってくれる親切なクラスメイトと共に移動する。そのあとも二時間目、三時間目、と休み時間に質問攻めにあったりはしたものの順調に過ぎていき、四時間目は朝のHRと同じ教室で言語の授業だった。

 クラスメイトは授業を真面目に受けているもの。寝まいと必死に耐えているもの。とっくのとうに諦めて寝ているもの。消しゴムとシャープペンシルで遊んでいるものなど三者三様だった。僕はというと、

(次はお昼ごはんか) 

などと授業の雰囲気などにはすぐに慣れ、今日の弁当の内容などを考えていた。その時だった

〈ティロンティロンッティロン〉

ケータイの着信音のような音が教室に鳴り響いた。

「「「「!」」」」

寝ていたものが飛び起きる。

「?」

(誰かスマホの着信切り忘れたのかなぁ)

〈ウ~ッウ~ッウ~ッ〉

そんなことを考えている間にさっきの着信音とは打って変り警報のような鋭い音が教室にに鳴り始める。

「!?」

いきなりそんな音が鳴ったので驚いてしまう。

(机の下に隠れておいたほうがいいのかな)

とりあえずという感じで机の下に収まる。男子高校生である僕には少し机が狭く、足のせいで周りが少しみずらい。

すると、

「来たな」

自分の斜め前の席に座っていた一人の少年が椅子から立ち上がり言う。

「今日の賭けは僕の一人勝ちということで!掃除僕の代わりによろしくー」

眼帯をした少女が言う。

「あーもう。今日は絶対に来ないと思ったのに...」

眼鏡をかけた知的そうに見える少女が言う。

「・・・眠い」

湯村の隣の席の寝癖のついた少年が言う。

「教室での戦闘は久しぶりだけど大丈夫か?」

糸目の少年が言う

『そろそろ全員準備したほうがいいよ。特に日向』

なぜか教室の誰も座っていないない机に置かれていたノートパソコンから声がする。

「わかった」

日向と呼ばれた少年が返事をして、その手にはいつ出てきたのだろうか、狙撃銃が握られている。

その少年は僕からも見える机付近の窓を開け狙撃銃を構える。

「敵はどれくらいですか?」

眼鏡をかけた少女が言う。

『多分教室に到達するのは30前後くらい。武器は銃とかいろいろ。特に変わったことは無いかな』

ノートパソコンからまた声がする。

「了解です。皆さんそういうことなので今日も頑張りましょう!」

眼鏡の彼女の手には彼女の身長よりも大きなハンマーが握られている。彼女だけではない、最初に席から立ち上がった少年は斧、眼帯の少女は両手に銃、糸目の少年はナイフと各々武器を手にしていている。

(狙撃銃!?それになんだよあのでかいハンマー!?何で周りのみんなは何も反応しないんだ?)

姿勢を崩し、机の中から周りを見渡すとしゃべっている五人(+ノートパソコンが一つ)以外は誰もいない

(誰もいない!?なんで!?)

「来た。」

日向が引き金を引いていく。遠い所で微かに車が事故を起こしたような音が聞こえる。

(もう本当に…)

「何が起きてるんだよ!?」

思わず声が漏れてしまう。五人が一斉に姿勢が崩れたことで机から少し体がはみ出している自分の方へと目線を向けられる。

「「「「え?」」」」

「え?」

全員びっくりしたような顔でこちらをみているので、思わず机から這い出ながら聞き返す湯村。

「え?なんで下に行ってないの?」

眼帯の少女が眉を少しひそめ、困惑した表情で言う。

「下?どういうことですか?」

そんなこと聞いたこともないのでただただ困惑し続けるしかない。

「説明をしっかり聞いてなかったんですか?だめですよ、ちゃんと説明聞かなきゃ」

その後に「めっ!」と手で罰を作りながら言うハンマーを持った眼鏡の少女。

「心咲がそれをいうか?」

斧を持った少年が言う。

「私は一応説明は聞いてるんです!」

反論するように言う心咲と呼ばれた少女。

『その割にはよく作戦外の行動するけどね』

パソコンからつっこみが入る。

「そ、それはちょっと楽しくなって頭から作戦が飛んじゃうだけで...」

どうやら思い当たることがあるらしくその少女は口をごもごもさせながら言い訳を言っている。

「もしかしたら、腕輪をまだ貰ってないのかもな。でも、どうする?もう入り口は閉まってるよな?」

糸目の少年が言う

「30人くらいだったよね?」

眼帯の少女がパソコンに向かって尋ねる

「ごめん。驚いたせいで打ち漏らしてるからもう少し増えるかも」

日向は狙撃銃を持ったまま申し訳なさそうに謝る。

『いや大丈夫。あーでも40行くかも』

多分だけどね。と付け加えた後もぶつぶつ何かつぶやいているパソコンからの声。

「気にしなくていいってさ。久しぶりの教室で一人守りながら40か...まぁいけるでしょ。」

くるくる指で銃を回してて遊びしながら答える眼帯の少女。

「じゃあいいか」

ナイフを構える糸目の少年

「???」

『そろそろ到達するよ。』

十秒からのカウントダウンがパソコンからする。

「??????だから、どういう」

やはり何も分からないのでさらに質問をしようとした瞬間、

[ドカッ]

ドアが蹴破られ人が入り込んでくる

「おい!ガキ共!手をあげっ」

言い切る前に侵入者は心咲の巨大ハンマーによって吹き飛ばされていった。

「あいかわらず見事な出落ちだな」

斧を構えた少年が言う。壁に叩きつけられはしたがまだ意識があり、呻いている仕留めそこないへの追撃と、体勢を直すために後ろに心咲が下がったことで入ってきた侵入者へ心咲と交代で前に出てきた斧の少年の斧で侵入者は地面に伏せる。

蹴り飛ばされたドアとは反対のドアからもどんどん人が入ってくる。皆やはり銃器を手に持っており、その一人が自分に向かって銃を向ける。

(ヤバい!)

反射的に目をつむる。が、弾が僕に当たることはなかった。恐るおそる目を開けると、もう一度心咲と場所を交代したことで後ろに下がっていた斧を持った少年が自分のことを後ろに引き斧で銃弾から僕を守ってくれたようだった。

「あ、ありがとうございました」

言い切る前に後ろのほうに下がれと言わんばかりに目線を送ってくる少年。おとなしく湯村は後ろへと下がる。後ろに下がったことを確認するとその少年は先ほど湯村に向かって銃を発砲したものたちへと斧を振りかぶる。侵入者たちは斧に薙ぎ払われ、ハンマーに吹き飛ばされまた一人また一人と地面に伏していく。 

そのことに怖気ついたか数人が逃げ出そうとするが、

「「にがさないよ」ぞ」

眼帯の少女がその両手に持った銃で手前にいる二人の侵入者の頭を正確に打ち抜く。その後も、前で戦闘している斧の少年に誤って当てることもなく戦闘中の少年の後ろから襲い掛かる侵入者と怖気づいて逃げ出した侵入者の内まだ教室にいた者の脳天を一発も外すことなく打ち抜いた。

「未黒残りは頼んだー」

また左手で銃をくるくると回しながら未黒と呼んだ糸目の少年へ呼びかける。

「言われなくても」

未黒と呼ばれた少年は、いつの間にか廊下の外まで逃げだしていた侵入者の前に立ちはだかり逃げ出した侵入者全員の喉笛をナイフ一本で裂いた。

そうして戦闘が始まってから数分後にできていたのは僕と同じ高校生たちによって作られた人の山だった。

「これで終わりですかね?」

心咲がパソコンに向かって尋ねる。

『うん、これで終わりのはず』

パソコンから返答がある。

「そんじゃかたずけしますか。それでなんだけど教室の収集場所ってどこだっけ」

眼帯の少女が全員に尋ねるが、だれも答えない。

「いや、学年変わったことで教室変わったとしても誰も覚えてないってことある!?」

僕が言えたことじゃないんだけどさぁとそのまま続ける。

「まぁ怪しいとこいじっていったら何とかなるだろ」

苦笑しながら未黒が言う。

「それじゃあ微かな記憶と、勘を頼りに探しましょう!」

心咲が言う。

そしてついさきほどまで銃器をもった大人と戦闘していた高校生たちは楽しそうに談笑しながらクラスの中で何かを探している。パソコンの声がここではなかったかという意見が出たので、全員で教室の床材の一部を奇妙な形に剥がしていく。最後の一枚がはがされた瞬間に床材をはがされて作られた大穴はずんと深さがでた。そのことにまた僕が驚いている間も彼らは

「うえーい成功ー!」「久々だったからてこずったな」「僕寝ててもいい?」「いいですよー」

と会話を続けていた。廊下でこと切れていた侵入者を先に担いでききては大穴の中へ放り投げたり転がしたりとそれぞれがそれぞれのやり方で侵入者を大穴の中へ放り投げていく。侵入者はまるで沼に沈むかのようにゆっくり沈んでいく。ただ、日向と呼ばれていた少年はアイマスクを身に着け後ろのロッカーに彼が常備しているらしい毛布を掛けおなじくロッカーに常備してあるのであろう枕を抱いて寝ていた。

(これはいったい何が起きているのだろうか。高校生なら一度はやったことがあるであろうクラスにテロリストが入ってくるシチュエーション、明らかに何かがある大穴...)

「ほんとうに何が起きてるんだよ...。」

先程からノンストップで起こり続ける状況にやはり僕はそういうしかなかった。

「あ、そうだねえねえ君ってなんでこのクラスに入ったの?」

眼帯の少女が僕へ問う

「え?なんでも何も君の転入先はこのクラスだって言われたから入ってきたんですけど..。」

嘘も隠し事もせず事実をそのまま伝える。

「おい、もしかしてこのクラスが何かわかって志願してきたんじゃねえのかよ」

斧の少年がまさかだよな?と少し焦ったような表情で尋ねてくる。

「こんなクラスに!?何も聞いてないし、志願なんてしていませんよ!」

こんな物騒なクラスのことなんて一言たりとも伝えられていない。

「もしかして本当に何も聞かされてない一般ぴーぽーの可能性が?」

心咲が手を口に当て、まさかという顔を作る。

『だとしたら色々とヤバいじゃん学園長に連絡しなくちゃ。』

パソコンから電話をしている声が聞える。

数分後...

「皆さんこんにちは!」

とてつもない勢いでまだドアが残っている後方からこの学校のホームページにも載っていた学園長が入ってくる。

「時間がないので簡潔に!湯村君申し訳ありません!君はこちらの不注意によって志願してもいないのにこのD組に転入してしまったようでして...」

挨拶に対しての返事も待たずに、早口で謝罪をする学園長。

「あの、それでですね湯村君実は他のクラスに編入できるようになるまで一か月ほどこのクラスで過ごしてもらうとになります!承諾していただけますか?いただけない場合もこのクラスにいてもらうことには変わりないんですけどね。もし、もしですよ?万が一承諾をいただけない場合はしかたありません。こちらのミスです。一か月休んでも公欠にしましょう。ですが、そうなるともっとこちらの手続きが面倒になるんですけど...」

言いたいことを早口で伝えた後、はぁ困ったとでも言いたげな顔でチラッチラッと僕の顔を見る学園長。

「え?つまり万が一承諾した場合、こんなクラスに一か月もいなきゃいけないんですか!?僕はこの人たちと違ってただの高校生なんですよ!?こんな風に毎回襲われたら、命がいくつあっても足りません!!」

無理です無理ですと首を振る。

「大丈夫ですよ命の危険性はないと保証されますって。それにほら今回だってちゃんと生き延びられたでしょう?だから...」

承諾してくれますよね?と圧をかけられ思わずうなずいてしまう。

「よし!では細かいルールなどを説明しますので、今日の昼休み学園長室に来てください!」

十分程度で終わりますので!と付け加える学園長。

「はい...」

しょもっとあまりの圧に屈してしまった事を後悔していると、

「くふふ、あはははっこんなクラスか、ははっじゃあ”こんな”クラスだが一か月よろしくな。困ったことがあったら聞いてくれ俺の名前は、仁志 未黒だ。よろしく」

腹を抱えながらナイフを使っていた少年は自己紹介をする。なぜ笑われているのか分からず困惑してしまう。

「僕の名前は 音中 那留 僕も何かしらは助けるからよろしくね」

面白そうにしながら二丁拳銃を使っていた眼帯の少女が言う。

『夏目 創 一か月よろしく』

パソコンから声がする。

「私の名前は良川 心咲です。一か月間ですがよろしくお願いしますね」

ハンマーを振り回していた少女が笑みを浮かべて言う。

「瀬戸 日向だよ。よろしく」

眠そうな目をこすりながら狙撃銃の少年が枕を抱えたまま言う。

「最上 結翔」

先ほど僕を助けてくれた斧の少年がぶっきらぼうに言う。

「よ、よろしくお願いします?」


中高一貫校のこの学校に一人の編入生がやってきた。身長は平均より少し高いだけ、見た目も平々凡々。入ってきた時期が夏休み前という時期以外には特になにも珍しい事はない。ただ、クラスメイトは彼とはまったく違った。




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