カステラと温泉の相性はいい
ぶいさん
第1話 俺
気づいたらまたいた。
何が起きたのかわからない、俺にもなんでかわからない。だって俺はあの日突然消えたのだ。それからずっとぼやっとしたところにいた。説明のできない暗くてぼやっとしたところでずっと漂うでもなく眠るでもなくなんともいえない状態で意識だけがあったのだ。誰もいなかった。時間もわからなかった。
柳龍一は切れ長の目をまん丸にしてこっちを穴が空きそうなくらい見つめて、それから勢いよく俺の胸に飛び込もうとして俺をすり抜けて壁にぶつかって「イタッ!」それで倒れた。俺には体がない、輪郭も不確かで足はあるけど地についていない。俺は、
柳龍一は俺を見ている。俺は柳龍一を見ている。
柳龍一は俺の同級生で友達、友達になりたかったやつ。友達になる前に俺は死んじゃって心残りすぎてコイツの家に化けて出た過去がある。俺はこいつのことが好きでいつか話しかけたくていつも視線で追いかけていたんだけど、うっかり事故であっけなく死んじゃった。
「お、おい!大丈夫か?え?なにやってるんだよ!どうしたんだ!」
俺は慌てて柳龍一に駆け寄った。駆け寄ろうとした。体があったら助け起こそうとするくらいはしたはずだ。
「どうしたはこっちの台詞だ!今までどこにいたんだ!どうして何も言わないであんな…!あんな消え方を…して…、どうして…」
「なんだ、そんなに俺に会いたかったのか?」
「お前に肉体があったらいまこの拳を顔面にめり込むくらい殴ってやりたい、私の指が折れるまで」
柳は物騒な事を言っている。長いまつげが震えて、それから目に涙が光って一粒頬を滑り落ちたのを見てしまった。俺は心底おどろいて、それで柳に慌てて手をパチンと合わせて頭を下げて謝る。ごめんな。ごめんなさい。
「ごめん、ごめんって!俺も体があったら、あれ?お前、本当に柳龍一?なんだかすごく大人っぽく見える、なんでだろ?」
「私は!ずっと!待っていたんだぞ!4年も…!」
「嘘!そんな馬鹿な!」
「嘘なわけあるか!お前に肉体があったら私が殺しているかもしれない。それほど私は怒りに震えている。背中が冷えているところだ。お前をどうにか殴りたい気持ちだよ。」
「嘘だろ、4年!?そんな、ええ…マジで?あれから4年も経ってんの?マジで?」
柳龍一は22歳になり、俺は18歳のままだった。
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