その後、オプの荒らし友達が、Sのいるオプチャに「凸しに行きたい」と実際に面白半分で参加したり(Sの容姿が事前に交換していた写真と違ったという件を何度も擦った)、婚約者がSに事情を聞きに参加したりなど、いろいろあったが、あまり興味はない。「どうして暴力的なことを言ったのか」という婚約者の問いかけに対し、Sは「彼女が罵られて喜ぶから」と答えたらしい。Sと婚約者がまともな話し合いをしてしまうと立つ瀬がなくなる。Sはそれもわかっていたのだろうか。それとも婚約者が怒るのを避けたのだろうか。Sなら私の立場をわかっていても不思議ではない。私に不幸になれと言いながらも、たまに私と婚約者に結婚してほしいと言っていた。Sは時々私の婚約者をバカにしていたから、その返答もバカにしただけかもしれないけど。どうでもいい、もう終わったことだから。これから新たに始まることはないから。もう私とSは関係することはない。私はSのことが好きで、いまだに価値を感じる。「私の全部をあげたら、Sの全部をくれる?」と訊ねて「うん」と言ってくれた出来事も腐らせずに胸の奥にとっておいているけれど、それらの思い出にきらきらとした眩さを感じることはあるけれど、もうなにも始まらない。行き先がない想いを、今は友達に聞いてもらっている。

 Sは私に対して怒りを露わにしていたものの、いまはきっと、落ち着いているだろう。

「三日できみのことを忘れるよ」と過去に言っていたが、そうであってほしい。

 Sは、私が荒らし友達を差し向けたと思い込み、Sが他の女のことが好きだから、その復讐だなどとのたまっていた。Sに対して、私のことを一番にしてほしいと思ったことはない。肥大した自己愛だと思う。想定していない感情の汲み取りが苦手なのだろうと指摘されたことがあると言っていたけれど、そのとおり。罵倒したあたりから、私の感情をまったく追えていなかっただろう。

 私はほかの女の子に嫉妬していたわけじゃない。ASDとは診断されたことはないが、ASD傾向のある私にとっては二者しか世界にいない。のめりこんだら最後、私と君以外、世界にいない。ほかの女の子が挟まる余地など最初からない。婚約者の存在が君との仲を邪魔しなかったように。言葉の上では対応はしていたけれど、ほかの女の子の話題を出されて、気持ち的に一瞬でも怯んだことがない。ただ君がいちばん好きな人と望むようになってほしかった。私じゃ救えないから。

 Sを憐れんだのは、最初だけ。最後は憐れみなどなかった。

 Sの価値は私じゃ穢せない。

 バカな女の記憶は早く忘れて、好きな人とLINEして、まいにち幸福な感情に溺れながら眠りについてほしい。

 どうかあなたの行く先に幸せがありますように。

 どうかあなたが健やかに大人になれますように。

 二年後の卒業した先の進路が気になるけれど、直接訊ねることは今後絶対にない。

 もうSとの履歴はないけれど、ボイメはまだ消してない。声なんてきっとすぐ忘れてしまうから、二、三年後に聴いたら誰の声か思い出すのに時間がかかるかもしれない。そうして、ようやくSのことを思い出す。また過去にきらきらとした輝きを見出して、Sのことを想うだろう。いつまでも、ずっと、末永く、忘れないでいる。


 さようなら。

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