チューハイ

sui

チューハイ


ピィピィ、キュルキュルキュルキュル。

ヒーヨ、ヒィーヨ。

んにゃおーん。


鳴き声。目に映る色彩の数。

それに匂い。

日光が地に注ぎ、束の間ならぬ温もりに包まれている。


酒缶を片手に道々歩けば、僅かに汗も浮いてくる。


「ハァアアーン」


どこぞの親父が鼻歌を歌いながら自転車で通り過ぎ行く。


呑気なもんだと笑いたくなるが、そうすれば今度は自分が一人歩きつつ笑う何某になってしまう。そして誰かに見つかれば陽気なヤツが居たもんだと笑われるだろう。


思わずキュッと口を閉める。

前後左右をそっと見回せば、幸い人は存在しない。


缶を口に運んで、一口二口。甘いも辛いも好みは人それぞれ、共通するのはアルコールが含まれているという所。

自分としては後味の残らないスッキリした物が好みではある。これは当たりだと思っていい。

次があるかは分からない。何せ缶を捨てる頃にはぼんやりしているのだ。



はてさて、鼻歌親父と頭の中では唱えたが、親父と呼ぶのも昨今宜しくないのだったか。そもそも親でも父でもない可能性もあるのか。

まぁまぁ面倒臭い話である。何だって良いじゃないか、そういう気持ちは大いにある。

しかし一方、固有名詞で呼べば済む所で代名詞を使われる時は大抵ロクな扱いをされないと、悲しいかな人生で経験済なのである。

世の中ありとあらゆるご都合があって一括りに出来るもの等ありはしない。時に誰かの姿の上には自分の姿が重なって見え、結局苦い顔しか出来やしない。


チャポン、チャポン。

気が抜けてしまうと思いながらも缶を揺らすのが止められない。

余計な事をしない為には中身を減らすべきだろう。

そうしてまた一口、二口。残りはあとどれくらいだろう。

もう一本買っておけば良かっただろうか。


結構毛だらけ猫灰だらけ、頭の中にはクソだらけ。

愉快な事ばかりあれば良いのに、不思議に人生とは躓くものだ。

大仰な夢希望等持った覚えもない、だのにたかがちょっとの事すら儘ならない。立派な姿で衆目を浴びる人間達が更に大きな夢や希望を語って叶って、また集まる人と金とを増やしていく。

そんな物を延々見せつけられれば背中も丸まろうと言うものじゃないか。


一口二口、更には三口。

酒は良い。頭の中のピリピリとしたものを緩めてくれる。出来る事なら一生この状態でいたい位だ。

とは言え、酔って醜態を晒す様な輩の仲間になりたくはなく、また体を壊したい訳でもない。

命を惜しむつもりはないが、痛いのも苦しいのも嫌だ。

身を粗末に扱われたくもない。

大体全てがそうである。欲望と結果が上手く繋がらない。

人の世話にはなりたくないが、一人で全てを背負いたくはない。

苦労はしたくないが、頑張らなければ手に入らない物は欲しい。

努力は認められたいが、泥水を啜る姿は見られたくない。

都合のいい世の中であって欲しいが、ぬるま湯のようでは退屈が過ぎる。

馬鹿にされたくはないが、変に賢く生きたくはない。

全部が叶うとするなら恐らく全部が要らなくなる。

世の中はいつでも二律背反と螺旋構造。

誰かの前には誰かが居て、誰かの後ろには誰かが居て、それが表裏表裏と重なりあってグルグルグルグルグルグルぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。


チャポン。

酒が揺れた。慌てて口元へ持って行く。

一口二口。ぐい、っと煽る。ゴクリと飲み込む。

もう空じゃないか。口惜しい。


手元に残された缶が途端に疎ましい。お前なんかどっかへ行ってしまえ。

とは言えそう都合良くゴミ箱が見つかる訳もなく、左右を眺めて舌打ち一つ。



はて、何を考えていたのだったか。


太陽が揺れている。

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