第6話 源流
どんどんどんどん!
パーパッパパ!
どんどんどんどん!
パーパッパパ!
「おーい!!勇者様ぁ!!」
ん〜。なんだよ。……朝から騒がしい。なんだ?
ハルはおもむろにベッドから起き、部屋の窓を開けると宿屋の前には沢山のヒャーレンの村人が集まり太鼓や楽器を鳴らしていた。
「ハルーーー!!」フィオンが目を輝かせてハルとヤンとダンクの、いわゆる男部屋に駆け込んできた。後ろにはやはりシャオがくっ付いている。
「フィン。朝から何の騒ぎ?」
「祭りだって!!ま、つ、り!」
「は?なんで?」
「そりゃ決まってんじゃん!!
「ガッハッハッ!!厳密にはヤン以外の俺達が、だがな!」ダンクは鏡の前で自慢の赤髭を整えている。「ヤン!おめえもさっさと起きろ!!……て、え?」ダンクがヤンの布団をひっぺがすが居ない。
「ヤンは先に行って《僕の子分が鉱山を解放したのだ!皆の者よぉ!》って得意げに酒飲んでるよ!?あのエセ貴族。」
「フィン、シャオ。あいつ殴っていいよ。」ハルはにこやかに言った。
ハル達は外に出ると街人から盛大な歓迎を受けた。
“ありがとう!”
“ガレントの英雄!偉大な勇者!”
“エルフ族万歳!”
等と皆が騒いだ。
美味しそうな匂いも立ち込めてくる。昨日は疲れもあってすぐに寝たからお腹ぺこぺこだ。
「みんな、コウドウが来るまで少し時間もある。僕はメノーホルンさんの所に行くから自由にしてて。……ダンク!!」
「あん?」
「飲みすぎるなよ?」
「ガッハッハッ!……そんなっ〜!?」
「今日中には経つ。ヤン見つけたら殴って良し!解散。」
「いえーい!!楽しむよ!!シャオちゃん、食べたいものある??」
「……ヤキソバ。食べる。」
シャオはあれからずっとフィンに懐いていた。
……リー・シャオ。ぼさぼさの白髪に真っ白い装束衣装。フードで顔も見えにくいから表情も読めない。不思議な少女だ。
コウドウはあれだけの技量を持ちながらシャオには一定の敬意を払っていた手前、ただ者ではないのだろう。しかしああやってフィンと一緒にいる姿は姉と妹みたいでほっこりしてしまう。
……フィンも沢山声を掛けて。アラカム村にいた頃の笑顔が少しづつ増えたみたいだ。僕らは皆男だからフィンの気持ちに寄り添ってあげられてない事もあった。これはこれで良かったのかもしれない。
アラカム村を思い出すと恋しくなる。ケルレトのヤエさんやハイゼさんも元気だろうか。会いたい。
ハルはメノーホルンに会いに村の詰所に入った。
「おはようございます!!……て、え?」
ヤンとコウドウは“獅子王”ダグラス・レオンと朝からべろべろに酒を酌み交わしていた。
「きたきた!おーい。クソ生意気なハルくん?やっと来たよ。遅すぎ。いつまで寝てんのさ。僕は起こしたよ?起こしたからね?はっはっは!」ヤンが頬を赤らめてコウドウと大笑いしている。
「やっぱエルフのクソガキじゃねーか!貴族のあんちゃんよ〜!おめえの連れは大したやつだぜ!?なぁダラクのジジイ。」
「フォッフォッフォ。儂はこやつを一目見た時からピンと来たんじゃよ!やってくれるとな!」
……ダメだ。頭が追いつかない。
横でメノーホルンもまた頭を抱えていた。
「あの、メノーホルンさん。ドヴァーキン宮殿に帰ったんじゃ……。」
「ハルくん。いや、村人達が有志でね。新たな鉱山開きの祭りをするという話を聞いて残ったんです。いつもこう。この人は凄いのか凄くないのか……。」
周りの兵士も困った表情だ。
「バカタレ!!メノーホルン!酒は飲むためにあるのじゃ!のう?戦士達よ。」
「ったりめーよ!!祭りなんだしな!!カンパーイ!……で?エルフのガキ。報酬は貰ったのか?俺はバッチリ頂いてきたぜ?言い値で800ガルせしめてやったぜ!」コウドウは硬貨の入った巾着袋をじゃらじゃらして見せた。
だんだん腹が立ってきた。
「今貰おうと思って来たんだけど……。」
「フォッフォッフォ。ほら、報酬の800ガルじゃ。」
“獅子王”ダグラス・レオンはおもむろに袋から硬貨を取り出した。「ひ、ふ、み。すまんのぉ。さっき南フォンド産のワインという酒を開けたから500しかないのう。」
「やいやいクソジジイ。僕の子分達の働きが500?そりゃ少なすぎ!いや、待てよ。僕は、ワインを飲んでいる!!じゃ、合ってるやないかー!!はっはっはっはっ!!」
ダメだ。こいつら。
「………………おい!あんたらいい加減に……!」
ドゴーーーーーン!!!!!
その時、勢い良く詰所の扉が開いた。というよりも破壊して誰かが入ってきた。
それは小さな少女。10歳くらいかまだあどけない。水色の長髪に、自分よりも大きな杖を持っていた。かなり強い。カオスの匂いがする。
彼女を見るやいなやメノーホルン及びその場の兵士達の表情が青ざめた。彼女は、まぁ、簡単に言うとブチギレていた。
「おいーー!!!ジジイ!!!……して、のうメノーホルン。お主らは、お主らはいったい!!なにやってるんじゃー!!」
……女の子の口調が獅子王と同じ。
「いえ!あの、えっと!……これは!アイリーク様!!すみません!!!」メノーホルンは勢い良く膝をつき頭を垂れるが青い髪の少女の怒りは収まらなかった。
「貴様ら全員!!……目ぇ覚ませ!!!!クア・エン・リエン・ウォーラ!!!」アイリークは杖を光らせると大量の水流が天井から頭上に落ちてきた。まさに、滝。
バシャアアア
詰所は水浸しになった。だがこれで彼らの酔いは覚めたはずだ。
「クソジジイ!!いつになったらドヴァーキンに戻るのじゃバカモノ!!こんな時に!!大事な報告があるのじゃ!!まずは南方じゃ!ヘスムス王国の王が暗殺された!確かではないが、恐らくアスラ真教の仕業じゃ。」
「は?……え?……なんだって!!!?」水浸しのヤンが声を張り上げ目を見開く。
「貴様何者じゃ!大事な報告中であるぞ!耳を塞げ!また滝に当たりたいか!?」
アイリークが再び杖を向けるがそれどころじゃない。アイリークの肩を掴んだ。
「くっ!黙ってられるか!!僕はヘスムス王国の使者だ!聞く権利がある!ミーナ王女は?無事なのか!答えろ!!お願いだ早く応えろ!!」
「まったく……なんなんじゃ一体……。仕方ないの。続きがある。先日ケルレトの森がヴェゼットとアスラ真教によって燃やされた。壊滅じゃ。その森から出て南下しているのが、森の獣人族とそれを率いるミーナ王女じゃと。いったい何があったのか。手にはかのラ・シード。そしてアンマーチ王国にてとんでもない発表をしおった。ヘスムス王国・アンマーチ王国・ケルレトの獣人族及び、ロロ島獣人族との同盟じゃ。」
「な、なんだって!?」ハルもまた声が漏れ出す。
「おいおい……。なんてことだよ。」ヤンも口を開いてポカンとした表情。
ハルとフィオンの故郷、アラカム村はケルレトの森の獣人族、エルフの女戦士ヤエと翻意にしてきた。森の玄関口、それがアラカム村だ。
だが、その森が焼かれた!?みんなは、みんなは無事なのか!?
「ハイゼさんは?……牙狼。」
「貴様も無礼じゃぞ。牙狼の姿は確認されていないようじゃの。詳しくはわからん。」
「そんな……。」
「して、北のレスデン帝国もアングリアに戦線を集結させておる。」
アイリークは杖を1度カツンと鳴らす。
「そしてここからが本題じゃ。運び屋ゴードンの息子達がオラルソンへ伝令に来た。古代聖遺物が発見された。“渦の厄災は近い”。とな。」
「…………ふぅ。なるほど。」コウドウは壁にもたれかかり煙草に火を付けた。
「……アイリーク。」静かに聞いていた獅子王はにこやかに立ち上がった。
「せっかくの酒が水浸しになったのう。ラ・シードか。エレオノーラの御旗は受け継がれたのじゃな。ほっほっほ。ならば南は心配あるまい。カランが攻められるか。レッドソーは……。レメナード相手じゃ無理だとするとな。はて。ケルレトの森から、西から来るのお。次は我々が攻められる番じゃ。」獅子王の目は酔いがすっかり覚め、鋭く強い獅子王の目となっていた。
「ジジイ。悦に浸るのは自由じゃが。…………しかし厄災はどうするんじゃ?」
「無理じゃよ。」
「は?無理、とは。」
「厄災とは空から無数のドラゴンが攻めてくる事だろう。そんなのは、ほっほっほ。無理じゃろうて。若い者達に任せるとする。」
「国の王がまたふざけおって!!」
「アイリーク。帰るかのう。……ハルよ。それに、主らも。」獅子王はぐるりと皆の顔を見た。
「戦う意味を“運命”などに委ねるな。世界は変わる。アン・イグのアズムンへ伝えてくれ。大事なものを見失うな、とな。」
「……わかりました。早くヤンをアン・イグへ送り届けないと。……え?あれ。アイリークさん?」
「なんじゃ。小さきエルフ。」
またもや小さいと言われてハルはムッとした表情を見せた。自分よりも小さいアイリークに言われたら尚更だ。
「ヤンをアン・イグへ瞬間移動してもらう事は出来ないんですか?」
「バカモノ!無礼通り越して無礼極まりない!!無理じゃ。サーチは瞬間移動出来る便利な魔術だが、行った事のない場所には行けぬ。長距離移動はカオスの消費量がケタ違い。バカなお主に教えてやるが、空間というものは降り立つ場所、時間、そこにあるもの、風景、あらゆる情報を正確に、確実にイメージ出来なければ操れないのだ。ワシはアン・イグを知らぬ。……まぁ、ワシ以外のベラドンナなら可能かもしれないが。」
「さすがハル君!いい事思いつく!……って思ったけどダメじゃしょうがないね。ベラドンナでも無理な事があるなんて。え……君がベラドンナ!?ほんとに?こんなちっちゃい女の子があのヨラ・ヴィンガースフィアと同じ?」
「貴様やはりまた滝業したいようじゃな。そうだ。私はベラドンナ所属の最年少の魔術師じゃ。まぁ、確かに。力を比べれば最下位なのは事実。師匠“谷の梟”アネモネ・ド・サンディーニュが最強。次が“白鳥”ヨラ・ヴィンガースフィア。次いで“暁光”ベルガモット・サンダーソニア。“魁心の百合”フレイディス・ローズマルグリットと“軍神”オラリア・アン・セグイが同率。そしてワシ、“水の妖精”コスモ・アイリーク。覚えておけ。主らの期待には答えられるのはヨラまでじゃな。」
「アイリークさん……分かりました。はぁ。仕方ない。……済まないヤン。やはり自力で行くしかないみたいだね。」
分かってはいたが、少し残念だ。楽をしたい訳ではない。ヤンはアン・イグへの旅を加速させなければならなかった。彼の使命を少しでも軽く出来るのなら魔術の力でも何でも借りれる力は借りたい。
「ハル……。いや、いいよ。エンリル王が亡くなったのならミーナ姫が次期女王様だ。ヘスムスは姫ならなんとか出来るって思ってるからね。……それに王が変わっても僕の役目は変わらない。本当は今すぐヘスムス王国へ帰りたいけど、君たちと進むって決めたからにはやらないと。はは、僕らがこんな所でのんびりしてる間にも世界は変わっていってる。……だからハル!!」
「……ああ。ヤン。わかってる。」
ヤンの気持ちは痛いほど理解できる。僕らもすぐに故郷に帰りたい。だが、進まなきゃならないんだ。
「ヤン。前に進もう。……コウドウ。」
「あん?なんだエルフのガキ。」
「出発前に約束は果たしてもらう。嫌とは言わせない。あんたの連れのリー・シャオはフィンと一緒だ。着いてきてくれ。」
「ふぅ。生意気なガキめ。“源流”を持つお前らに俺達も話がある。」
獅子王とアイリーク、護衛の兵士は丁寧に挨拶を済ませヒャーレンの村を去っていった。
―――――――――――――――
ダンクとフィオン、シャオを連れ、全員が宿の一室に集まった。やはりリー・シャオはフィオンの側を離れず相変わらずくっついていた。
テーブルには村の人達が用意したたくさんの料理が並べられ、ダンクやコウドウは骨付き肉を片手にやはりエールを呑んでいた。酒好きの気持ちはイマイチ分からない。四六時中呑みたいものなのか?
「チッ。おい、シャオちゃん。そんなに嬢ちゃんが気に入ったのかよ。」コウドウは煙草をふかしながらふてぶてしく酒を飲む。
「……。」シャオは黙ったまま。
「そうかいそうかい!ウルにも懐かなかったんだけどな。まったく、ガキはわからねぇ。」
「コウドウ。約束だ。君たちについて教えてもらう。」
「せっかちな奴だ。“メイ”の一族の方から俺達は見つけられちまったんだからな。俺達もおめぇらを探してた。」コウドウは酒の入ったコップをダン!とテーブルに置いた。「何百年も……探していたんだ。」
「俺達は“イチイの戦士”。」
――――ユーダリルだ。
「ブゥゥゥゥゥ!!!」ヤンはエールを吹き出す。
「なっ!何だって!!?……は?ちょいちょいちょいちょい!待って待って待って!!ユーダリル!?今ユーダリルって言った?ユーダリルって言ったよね!?あの、あの大陸中で暗躍し、名だたる怪物や世界の王を闇に葬り、世界の歴史を変えてきたあのユーダリル!?謎に包まれし暗殺教団ユーダリル!?…………え?こんなおっさんが?酒を飲んでは連れの幼女を眺めてニヤニヤしてるこんな変態が!?……な、なんて事だ!?ぼ……僕は信じないぞ?……もっとこう、真っ黒な服に身を包んでひっそりと誰にも知られず見つからず路地裏でじっとその瞬間を待ってるような、そんなイメージしてたよ僕は!!ちくしょう!!ガッカリだ!!!」
「う、うるせえな……///」コウドウは赤くなる。
「照れてんじゃねーよ!!!」
「ガッハッハッ!ヤン、いいじゃねーか!俺も噂くらいは聞いた事がある。確かに鉱山じゃ別格のレベルだったな!俺は信じるぜ!!」
「へっ。そうかいそうかい。……クソ!!……古代聖遺物にドラゴンに魔術師にユーダリル。次は何だ!?テラ山の噴火ですか!?もう何が来てもびっくりしないよもう。……黙って聞いてるから、さっさと終わしてくれ。……ちなみにハル、足止めはここまでだ。」
ヤンはハルの目を見た。
わかってる。ハルもフィオンちゃんも、自分達には何か特別な運命が引き寄せられている。それが何か知りたくてしょうがないんだ。僕もだ。彼らと出会った事自体が神々の思し召しのような気がしている。ユーダリルの戦士。コウドウやシャオちゃんとの出会いは何かが始まる合図。
「ヤン、ダンク、フィン。」ハルは立ち上がり窓の外を見た。
「彼らがどうであれ僕らは出会った。鉱山でコウドウに言われたんだ。僕には“イチイの加護”があり、それは“源流”だってね。同じような事をフィンの父にも言われたんだ。……ずっと気になっていた。僕はそれが何なのか知りたい。……僕は僕の運命を知りたい。知って、その上で歩いていきたいんだ。運命じゃない、僕の意志で。……だからコウドウ!!教えてもらう。“源流”とは何だ!!?」
「チッ。ま、仕方ねぇ。ただ出会っただけなら殺してたんだがなぁ。顔を見られりゃ殺すが鉄則だぜ?シャオちゃん。こいつらは聞く権利がある。そう思うが?」
「……大丈夫。フィオンは聞かなきゃいけない。」シャオはじっとフィオンの顔を見つめた。
「シャオちゃん……。わかった。ハル!!私も聞くよ!!ハルだけに背負わせないからね!!」
「よし。聞く気はあるようだな。」コウドウは酒をぐいぐいと飲み干した。「ちょいと昔話だ。耳を貸せ。」
ユーダリルの戦士コウドウは目を閉じ語り始めた。
「――――――2000年前の話だ。
ウルという若く美しい魔術師がいた。
歴史上唯一、アルヴル大陸統一を成し遂げた国家、古代エルフ族のアン・ヴェーダとの大戦において、ウルは多大なる功績を残したが、これまた歴史上最強の魔術師ユミルの前に敗北した。
彼女は尚も追ってくるユミルから逃れる為、死をも決意し北の死海へ出た。
巨大な渦潮が取り巻く死の海をイカダ1つで漂流した。死の淵を彷徨ったが、彼女の豪運は死すら超越した。
行き着いたんだ。人類未踏の地マラ島へ。
マラ島はかつて神々がドラゴンと戦った地であり、その神話を裏付ける様に島には無数の巨大な足跡があった。
マラ島の原住民族は足跡の窪みに領土を持ち、家を建て過ごしていた。
ウルはそんな神々の地を見て歩いた。
原住民にも色々な種が混在している。黒い肌をした人間族、とりわけ耳が鋭く尖っているヴィークエルフ、身体が白く角の生えたスノーエルフ。
彼らの中にはウルを危険視する部族もいた。マラ島にも争いがあったんだ。ウルは争いが嫌いだった。戦争などもう見たくはなかった。ウルはマラ島を歩いた。そして、最東端のイチイの木々が生い茂る森の中でそこを見つけた。それこそが。
……イチイの谷。“ユーダリル”。
そこに住まう者達は自らをイチイの民と名乗った。イチイの民の正体は、原住民族ウッドエルフ。
ウッドエルフ族は戦闘民族だった。気配を消し、匂いを嗅ぎ分け、弓や短剣を自在に扱う。身体の使い方が神がかっていた。全ての身体能力は人間の3倍以上。
彼らは外からやってきたウルを敵と認め戦った。
だがイチイの民は強かった。大戦でも魔術師ユミルと張り合えた者はウルしかいない。そんな彼女があっけなく敗れた。
しかしだ。魔術などない島で、ウルの魔術は特別だった。初めて見たそれは神のような神秘を魅せた。ユーダリルはカオスに溢れていた。
ウッドエルフ達はウルの力を受け入れ、ウルはユーダリルの賢者となった。それこそが代々語り継がれる“賢者ウル”だ。
当時はカオス使いを“賢者”、カオストーンは“賢者の石”と呼ばれていた。
ウルが大陸でユミルに追われていた理由は不老の力を有していたからだ。老いのない美しい肉体。
最強のユミルはウルの力を欲していた。
ウッドエルフ族とウルは彼らの宿敵であるスノーエルフ族に勝利し、マラ島を掌握した。
ユーダリルのウルはさらに600年の月日を生きた。
ある日、ウルの前には年老いたユミルがいた。
ユミルは老いには勝てなかった。最強だとしても。ユミルは有無を言わさずマラ島に災いをもたらした。
“渦”の力で、憎きウルごとマラ島を消そうとした。だが、ウルも無敵の魔術師。全ての力を持って反撃した。それが北の地に永久なる冬をもたらした災害。
魔力衝突。
――――ラグナロク。
ユミルは消えた。だがウルは生きていた。
その“ラグナロク”によって、北の空に時空の亀裂が生じたと言われている。ユーダリルには壁画も残っているからな。真実だろう。
マラ島の人達はほとんど死んだ。マラ島の生き残りはウルが守った数名のウッドエルフだけだった。
大陸の争いをマラ島に持ち込んだウルはユーダリルを去る決意をした。だが、ウッドエルフの戦士はウルを支持した。残った者を連れ大陸へと渡った。
今度こそユミルを葬り去ると。
ウルはウッドエルフと共にユミルを探した。長い月日を掛けて。そして見つけ出したんだ。テラ山の山頂。
そこでいったい何が起きたのかは誰も知らない。だがユミルはテラ山で死に、ウルは生き残った。
使命を果たしたウッドエルフはマラ島に戻らなかった。少ない同胞を連れ死海を渡るにはリスクが大き過ぎたからな。彼らは大陸に残った。指揮したのはハリという戦士。……ハリは渦の厄災にて予見者アスラ・ヴァミリオンや反逆の女王リュカ・レンスタと一緒に戦った戦士だ。
だがウルはマラ島に戻る事にした。使命があったからだ。なぜそうしたのかはウルと、ユミルと、ハリにしか分からない。だがウルはハリに1つ願い事をした。
マラ島を滅ぼしたのは自分だからと、ユミルとの決着から逃げて奴を島に連れてきたのは自分だからと。だから次に会う時は…………自分を殺せと。
ウルの不死は途絶えた。ユミルによる呪いだ。見る見るうちにウルは老いた。誰もいないマラ島で、ウルはたった1人で研究していた。そして薬を開発した。それが“種の厳選”と呼ばれる試練の薬。
造船技術の発展に伴いやがてマラ島には何隻かの船が現れるように。その人間達を拘束しウルは薬を試した。人体実験だ。10人いた内、9人が死んだ。
生き残った1人に、イチイの民の力が宿った。
悪魔的な人体実験だと言われているが、そうやって“俺達”は人工的に作られた加護を得たんだ。
そこからマラ島には少しずつ移住者が増えていった。
そんな時ハリは戻った。
アスラ・ヴァミリオンと古代聖遺物ティルフィングを携えて。ハリは約束通りウルを殺した。ハリはウルとなった。それから、ユーダリルの導き手は代々ウルと呼ばれている。
……ウルは俺達イチイの戦士の、神なんだ。
そして北の空の亀裂から、災い“ドラゴン”が現れ大陸を襲った。
人工的に作られたイチイの戦士達はハリと共に渦の厄災を戦った。ドラゴンや魔物の討伐に特化した肉体に、気配を消す能力。大陸がドラゴンと渡り合えたのは俺達がいたからだ。
竜大戦の後、唯一のウッドエルフだったハリは姿を消した。
『――ドラゴンが再び現れるその時まで、魔物と、世界の秩序を正せ。我は“メイ”の名をもって血を守り抜く。ウルの力を閉ざすな。種の厳選を。』
――――――とな。」
ハルはコウドウの話をただ静かに黙って聞いた。コウドウは続ける。
「現ウルの名はアサという戦士。だがステラ・ココットという魔術師と共に数ヶ月前に旅に出た。ついに現れた予見者らしい。ステラはアサと、先代ウルでありアサの親父アッザーに厄災の到来を告げた。……ゲホゲホ!……チッ。喉がカラカラだ。ダンク、ブドウ酒を。」
「煙なんて吸うからだろう。」ダンクは空いたコップに酒を注いだ。「なるほどなって言いたい所だがよ。それがハルや嬢ちゃんにどう関係してるってんだ!?」
「あぁ。“メイ”の名を持つエルフは、“源流”だ。種の厳選では得られない。天然のイチイの加護を持つ。……お前らはイチイの戦士ハリの血筋なんだよ!!ずっと探してきた!!何百年もな!!……そしてついにこの時代、俺の前に現れたんだ。ハル!フィオン!ハリの一族はどこに住んでいる!お前らの故郷はいったいどこにある!!?」
「コウドウ。」ハルは椅子にゆっくり腰掛け、コウドウを見据えた。
「あん?」
「僕らの生まれはヴェゼット公国アラカム村だ。あぁ、あぁ、あぁ、そうだ。あれから1ヶ月以上は経つか。エルフ狩りに襲われ壊滅した。……くっ。……村が焼かれた。血の鷲団に!!隙を見て僕はフィンを連れ逃げてきた。生き残りは僕たち2人だけなんだ。……なあ!!コウドウ!!君が探していたイチイの民は……くっ!……強く、気高く、戦い抜く戦士なはずだ!!!!!」バン!とテーブルを叩く。
「僕たちは逃げたんだ!!ただただ恐怖して!!村が燃やされ、略奪され!皆が殺されていくのを隠れて見てたんだ!!僕の母は奴らに犯され、父は生きたまま燃やされ、小さい赤ん坊だった妹は振り回され床に叩きつけられ殺された!!!あぁ、くそ!!!何がイチイの戦士だ!何がユーダリルだ!導き手だ!!ならなんで僕らは2人だけになった!!あんたらは世界の秩序を守るんだろ!?正義の味方なんだろ!!?なら早く殺せよ!!レメナード・バッカスを!!!アスラ真教を!!お前らが良く分からない怪物を退治してる間に、エルフは殺され続けてるんだろ!!なんでここにいる!!」
「ハル……。」フィンはきつく拳を握りしめた。
「てめぇ!!」
「コウドウ……。やめて。」
腰の剣に手をかけようとしたコウドウをシャオが制止した。
「チッ。ガキが。……まぁいい。……チッ。源流の血脈はお前ら2人だけって訳か。全ての村人がイチイの戦士になる訳がないだろうが。血は薄まる。当たり前だ。たまたまお前らに加護が渡されたって話だ。……はっ!!ハル!てめぇがいくら吠えた所で現実は何も変わらねぇ!!“運命”なんだよ。獅子王様は運命に委ねるなって言ってたがな!!…………教えてやる。…………俺はガリアで産まれた。貧乏な家だ。母親はアスラ真教のクソみてぇな信者だったよ!親父は兵士でミッドガルとの戦いで死んだ。母親はアスラの神父に貢いだ。金をな。奴は母から金をむしり取った。だが母は教会に金を渡し続けた。次第に金は無くなった。次は身体を売った。奴らは母を毎晩毎晩犯し続けた。だが母はアスラの神父に仕える事が自分の運命だと言った。そして母は妊娠した。親父の子だった俺に放つ言葉は痛烈だったよ。『産まなきゃ良かった。あんな男の子供なんて。』ってな。そして俺は金の為に奴隷として売られた。……俺を救い出したのはイチイの戦士アッザー。奴に買われた。マラ島でそいつを飲んだ。俺の他に6人だ。その年の“種の厳選”。生き残ったのは俺だけだった。10年後、母に会いに行った。殺す為にだ!!だが母は死んでいた。子供と。……アスラ真教に金を渡せなくなり殺された。神父は殺したよ。惨殺した。くっくっく。滑稽だよなぁ!!ハル!!」
「コウドウ……。」言える言葉が見つからない。モヤモヤとした渦巻く黒い衝動がハルの中で膨れ上がる。
「てめぇが!!!てめぇだけが不幸なのか!?なぁエルフのガキ!!!この世界にある不平や理不尽を語って何になる!!怒れば平和になんのか!?キレ散らかせば誰かの腹は膨れんのか!?俺達ユーダリルの戦士は皆そんな理不尽を背負ってきた!!ぶった切ってきた!!レメナードを殺せだ?わかってんだよ!そんな事はな!だが俺達がやらなきゃいけねぇ事は王殺しじゃねぇ!!ドラゴンと、根本なんだよ!!運命に導かれるまま剣を振ってきた俺達は!これからも剣を振るしかねぇんだ!……ハル。てめぇは何だ。もっと崇高な、綺麗で清らかなる勇者様にでもなりたかったのか?残念だったな。てめぇらが持った力はただの血だ。どす黒く薄汚れたただの血だ!そのアラカム村の血のせいで多くの子供がマラ島へ連れ去られ“種の厳選”の犠牲になった!!お前らを作り出す為にだ!!!これがお前の聞きたかった答えだ!!重罪人の戦士ハリが繋いだその力を持って。どうしてぇんだ。答えろ!!!」
――あぁ。くそっ。わかってるよ。
――真実なんていつもこう。何かに希望を見いだせば、何かに絶望する。
小さい頃母は教えてくれた。アラカム村には時々凄い力を持った戦士が産まれてきたと。彼らは各地で名を挙げ歴史に名を刻む者すらいたと。幼いながら僕もそんな村の名を背負った強い勇者になりたかった。
匂いを嗅ぎ分け、気配が消せる。どこか自分は特別なんだとそう思っていた。いや、思いたかった。コウドウの話はそんな自分の幻想をいとも容易く砕いた。想像の遙か彼方。どう受け止めたら良いのかも分からない。
なぜ先祖であるハリはマラ島へ、故郷へ帰らなかったんだ。ウルとユミルはテラ山で何があったんだ。肝心な事が抜け落ちている。なぜ魔術師ウルは“種の厳選”を、子供の人体実験なんてものを始めたんだ。ハリがマラ島に戻りウッドエルフを繁栄させれば良かったんだ。
――――僕らの、僕らのせいで1000年以上、いったいいくつの尊い命が犠牲になったんだ!!!!
「……したい。」
「ああ?」
「殺したい。」
「何をだ?」
「僕は僕を殺したい!!」
「てめぇ!まだそんな事!!」
「だって……。だってそうだろ!!!いきなり村が焼かれて!皆殺されて!!僕に唯一残った人はフィンだけだった!!僕はフィンを守る為に戦うと誓ったんだ!!追っ手から命懸けで逃げていつか復讐を果たす!!血の鷲団を潰す!!レメナードを殺す!!それだけが望みだった!」
「ふう……。」コウドウはまた無言で煙草に火を付けた。イライラが見てとれる。
「……………なのに、なのに!遥か昔の古代聖遺物に選ばれた戦士とか!!ヤンを護衛してエルフを救うとか!!!絶滅した戦士の力を持っているとか!!大昔の祖先のせいで何千人もの子供達が犠牲になったとか!!いったい何なんだよ!!!くそっ……。もう……何なんだよ。何なんだ!!何なんだ!!何なんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」ハルは絶叫した。
「えっぐ……ぐすん。うぅ……ハル。もう、やめて。」フィオンは泣いていた。
ヤンには何となくだがハルの気持ちは理解出来た。
ハルの頭の中はもうぐしゃぐしゃだ。ハルもフィオンもまだ15、16の少年少女。この間まで故郷で木刀を素振りしたり、森で木の実を拾い集めたり、そんな争いとは無縁の生活を営んできたはずだ。……それが今日までの絶望、激動、変動、恐怖、空虚、無力なんて感情に弄ばれてここまで旅を続けてきた。生半可じゃない死線をくぐり抜けてきたんだ。
……いつ精神が途切れてもおかしくない。いや、ここまで持ったのが奇跡なくらいだ。
ヤンは立ち上がった。
「皆、聞いてくれ。」
皆がヤンを見つめる。……ハルは俯いたままだ。
「ハル。もういい。もういいよ。君は頑張った。フィオンちゃんの為だけに君は生きていい。こんな髭面のおっさんの話は聞かなくていいんだ。そうだろ?だから今は逃げるんだ。どこまでも。だが僕はアン・イグへ進む!何があってもだ!!赤髭のダンク!!君を連れていく。コウドウ!!シャオちゃん!!頼む。知りたいと願ったのはハル自身だ。だけどどう感じるかは彼らの問題だ。ハル……。君がしたいようにしていいんだ。」
「……ヤン。ありがとう。コウドウも済まない。少し風に当たってくる。」
「……ハル!待って!!」
ハルは静かに宿を後にし、数秒の後フィオンは追いかけた。シャオもフィオンの後に続こうとしたが、コウドウはシャオの腕を掴み首を振った。
――――――――――――――――
2人が部屋を出ていってからというもの、暫く沈黙が続いた。
ダンクもヤンも、ハルの気持ちは痛く突き刺さる。優しい彼の性格だ。“運命”だと割り切ってまで故郷の罪を背負える程強くはない。ハルはただフィオンを守りたいだけなんだ。血の鷲団には復讐心もあるだろうが、奴らがいる限り自分達を追うはずだ。殺さなければフィオンは危険なままだ。だからハルは強くなりたい。ただそれだけなんだ。
「……おいコウドウ。」ダンクが沈黙を破る。
「ああ?ドワーフ、お前も俺達を責めたいのかよ。」
「ガッハッハ!俺がお前を責めてどうする!?気になってんだが、“種の厳選”ってのは何なんだ?」
「ふぅ。ま。だよな。そりゃ意味わかんねぇよな。種の厳選ってのはな。魔術師ウルが作り出した“試練”だよ。マラ島に原生している特殊な花ドラゴラン、フォトンツリーの樹皮、鉱石オリハルコンの粉末、イチイの雫、さらに10種の素材をカオストーンで錬成させた薬だ。そいつを飲む。そんで直ぐにソレは始まる。……100日間、身体が高熱を出し痛み出すんだ。まず常人じゃ耐えられねぇ。四肢は縛られて水だけ飲まされる。ふん尿垂れ流しで叫び続けるしかなかった。耐えて耐えて、耐えた先に見るのは隣の奴の息絶えた姿。死にたくねぇ、ただそれを願うだけの日々となる。……俺は耐えた。6人中俺だけが生きていた。生き残った奴にはウッドエルフの力が宿っている。そんでまた、先輩達との訓練の日々だ。子供達を攫ってまで薬を飲ませ続けてきた。俺達の業なんだよ。だがもう種の厳選は終わりを迎えた。」
「終わり?」ヤンもまた怪訝そうな顔で話し始めた。
「……ていうかシャオちゃんもそうなの?あんたは良いにしてもだ、髭面のおっさんだし。シャオちゃんみたいな子がユーダリルにいるなんて思いもしなかったけどこの子はなんか……そうだね。違う感じがあるんだよね。」
「…………。」シャオは尚も黙り続けた。
「そうだな。……まぁ、いいか話しても?」コウドウはシャオを見つめるがやはりフードを深く被り目を合わせる事は無かった。
「……。いい。私に秘密はない。」
「ふぅ。リー・シャオ。こいつのフードの中、さらには髪に隠れて見えちゃいないが、シャオには2本の角が生えている。別名はなんて言ったかな……。あぁ、そうだ。“鬼族”。かつて滅ぼされたスノーエルフの事だ。」
「なんだって!?鬼族!?さっきあんた、スノーエルフは滅ぼしたと!!」
「シャオちゃんは記憶を失ってたんだよ!そいつがいきなりユーダリルに現れた。どうやってかはわからねぇ。賢者ウルにでも時空操作させられたのかもな!だがシャオちゃんは最後の種の厳選を受けさせられたんだよ。アッザーは生き残れたならユーダリルの戦士として仲間に迎える事にした。そして生き残った。シャオちゃんは別格だ。鬼族はイチイの戦士を凌駕しちまった。先代ウルのアッザーも、現ウルのアサすらも勝てなかった。俺だけがシャオちゃんに何とか勝てた。こいつは俺の言う事しか聞かねぇ。だが嬢ちゃんを主君と認めやがったんだ。鉱山の魔物の巣穴でな!鳥肌モンだったぜ。今でも思い出すと鳥肌が立つ。」コウドウは腕をまくって見せた。
――――まったく、最高だね。
テラ山の噴火なんてもんじゃない。次から次へとなんでこうも意味の分からない、世界の裏歴史を聞かされているのか。アスラ真教の裏の顔を聞かされている方が気が楽だ。
「ハァ。まったくなんでこう……この世の中はおかしなことばっかりなんだよ。ったく。あー、次は僕の元へ5歳年下のメンデル美人でも降ってこないかな?はっはっは。……はぁ。」
「お前、ほんとに貴族か?……バカだな。」
「ガッハッハ!ヤンを貴族だと思ってるのは地元の農民くらいだろ!?」
「馬鹿にするな!まったくこれだから髭面は嫌いなんだよ。…………で?シャオちゃんの話に戻すけど、“種の厳選”とやらはもう行われてないんだな?」
「ああそうだ。シャオちゃんで最後の薬だったんだ。イチイの戦士はそれでも30人程度しかいない。増やそうにも材料が枯渇した。ウルくらいの力が無ければ錬成自体出来やしないしな。初めは100人もいたが、種の厳選で力を得た者は子供が作れない身体になるんだよ。薬の不足に魔物との戦いで命を落としていたらそりゃ減るだろ。それが分かっているから“メイ”の一族をずっと探していたんだ。」
「なるほど……それなら、やはりハルとフィオンちゃんは結ばれなきゃいけないはずだ。……はっ!!ダンク!!」
「ヤン。気づいたか。こりゃまずいな!ガッハッハ!」
コウドウは2人の口ぶりから察してみたが……。
まさか。あれだけの親密度でそんなはずはない。
「おい。まさか……。ぷはあ!」ゴクゴクとコウドウはブドウ酒を飲み干した。
「あいつらまだ恋仲でもないのか!?おせっせどころか!ちゅーの1つや2つもしてないのか!?」
ヤンは急に立ち上がった。
コウドウの慌てようを見るに、彼らは2人が恋仲となり沢山子供を産み、その力を残す事がユーダリルの復権の鍵だと考えているのだろう。そして僕とダンクはいつになったら2人はくっついてくれるのか、やきもき通り越してもはや諦めに近い感情すら抱き始めている。これはついに、ついにやるべき時が来たのではないか!?
「そのまさかだよ。フィオンちゃんはハルが好きみたいだが、ハルときたらアレだ。まったくのからっきし。空っぽの甲斐性なしさ。ほんとどうしようもないね!!…………ところでコウドウよ。」ヤンは薄ら笑みを浮かべ、挑発的にコウドウのコップにエールを注いだ。
「――2人をくっつける策があると言ったら、君は協力してくれるかい?」
「貴族。てめぇ。……計画はあんのか?」コウドウもまたヤンを睨みつけた。
「ある。」
「聞かせろ。これはイチイの民にとって重大だ。」
「ふっふっふ。女性を誘って断られた事のないこの僕、ヘスムス王国ミーナ女王の未来の夫!ヤネストライネン・ホリボック男爵様の計画を説明する!」
「ガッハッハ!こりゃ期待だなあ!」
――――――――――――――
フィオンはハルを探して、お昼時で賑わう村の中を注意深く探していた。
「ハル……どこにいったの?」
ハルは気持ちがいっぱいいっぱいになると、たまにこうやってふらりと出ていく事があった。探すのはいつも私か大人達。
「……昔から変わらないな。ハル……。」
フィオンはアラカムでの“あの日”を思い出した。
――――――――to be continue
ユーダリル 〜エルフの反逆者〜 Huji-yan @chelsea2323
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