白桜女子の日々~愛されるから愛したい~
紅茶色
プロローグ
バシンッと鋭い音が校舎裏に響く。
紅葉で色づいた木々のざわめきの中でもやけに鮮明な音だった。
その音に遅れて意識がやってくる。
手のひらがヒリヒリと痛んでくるのを感じた。
これが、人を叩いた痛みなんだな、なんてひどく冷静に分析する自分がいる事に驚く。
「――ご、ごめんなさ」
「ごめんなさい」
対面の彼女は私の謝罪を遮ってそう言葉にした。
透き通るような、凛とした声。
彼女は頬にあてていた手をどかすとその部分が赤く腫れていて、私が人に暴力をふるったという事実を突きつけられる。
手のひらの痛みまでお前のせいだと叫んでいるような気がした。
こんなつもりじゃなかった。
人に手を出すなんて、これが生まれて初めてのことだった。
そして願わくばこれが人生最後であってほしい。
そんな私は、暴力を振るわれた人がどのような行動をするのかなんてちっとも想像できなかったのだ。
彼女は手を降ろしつつゆっくり、私へ近づいてくる。
「――ヒッ」
思わず悲鳴を上げる。
私は身体をその場から少し引き、ポニーテールがそれに合わせて揺らぐ。
彼女はその両手で私の手を握り――
「この手、痛かったでしょう。大丈夫?」
温かな声音で、柔らかな表情を崩さない。
怖かった。
暴力を振るった相手にそう語れる彼女が。
覗き込まれた瞳から目が離せない。
腫れた頬すらも綺麗だと思ってしまった。
「ゆうちゃん、私は大丈夫だからね」
「だからゆうちゃん、そんな顔しないで」
「ねぇゆうちゃん」
そう何度も優しく語り掛ける彼女は少しずつ私との距離を詰め、ついには両腕を私の背中に回し、軽く抱きしめた。
ふわりと爽やかなミントの香りを感じる。
戸惑って私はいったん思考が止まった。
この感情は恐怖?苦痛、安堵それとも羞恥?
もう訳が分からなくなって、気が付けば涙が止まらなくなっていた。
「ゆうちゃんって、よ、呼ばないで、ください」
とにかく何か話そうと、彼女に流されてはいけないと、そう口にするのが精一杯だった。
じゃあ、と彼女は私の耳元に口を寄せ
「
強く風が吹き、木々が揺れてキンモクセイの香りを運んでくる。
涙で濡れた頬がやけに冷たく感じて、私はぜんぶ凍ってしまっていたかもしれない。
いや、凍ってしまえと思うそれは、ただの私の願望か。
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