第11話 『芋掘りと小鬼』



 北の開拓村に、一匹の小鬼が住み着いていた。

 小鬼はたいへんな悪戯者だったが、何しろ開拓村というのは人手が足りない場所なので村人は小鬼の相手をしなかった。無視されるのが死ぬほど嫌だった小鬼は、忙しそうな村人を見つけては『仕事なんてしないで遊ぼうぜ』と騒ぎ出す。




 ある日畑仕事に勤しんでいた村人は残念そうに肩を落とし、こう言った。


「ああ、残念だ。この畑の芋を全部収穫できたら、小鬼を追い回すことが出来るのになあ」

『それならオレ様が全部掘り出してやる』


 だから一緒に遊んでくれよ。 

 小鬼はそう言って畑で芋掘りを始める。もちろん小鬼がすばしっこく動いたところで広い畑の芋全てを掘り尽くせるはずもなく、日が西に沈む頃には疲れ果てて畑に突っ伏す。一緒に芋を掘っていた村の子供達は小鬼を背負い、一緒に風呂に入って泥と汗を流す。村の女たちは獲れたての芋を煮てスープを作り、小鬼を誘って夕食を楽しむ。なんとなく騙された気がする小鬼だが、芋のスープは美味いので文句は言わず、村の子供たちと一緒にふかふかのベッドで眠るのだ。




 またある日のこと。

 羊の毛を紡いでいた女が空を見上げてこう嘆いた。


「とても残念だわ。糸を全部紡げたら、小鬼を思う存分追いかけられるのに」

『じゃあ手伝ってやるよ』


 早いところ紡ごうぜと小鬼は言い、羊の毛をかき集めたり紡ぎ車を一生懸命回すのだ。もちろん小屋一杯の羊毛が小鬼の手伝い程度で片付くはずもなく、東の空に星が昇る頃には小鬼はぐったりと疲れ果てて床に突っ伏すのだ。




 騙されていると思いつつ、小鬼は村人と一緒に暮らした。

 悪戯好きの小鬼は芋を掘ったり糸を紡いだり、あるいは畑の土を耕したりして毎日を過ごす。ぐったりと疲れてしまうために思ったように悪戯できない小鬼は歯痒く思っていたが、開拓村が割と気に入っていたので出て行くのも嫌だった。

 そうしてしばらくの時が過ぎて。

 開拓村に旅人がやってきた。剣士と思しき少年と妖精の女の二人組は、大きな街の領主から手紙を預かり届けに来たのだという。


「聞けば、この村には迷惑行為を働く鬼がいるとか」


 剣士の少年が、村人にそう尋ねた。小鬼はぎょっとして村から出て行こうとしたが、身体が動かない。振り返れば妖精の女が興味深そうに小鬼を見つめている。


「いれば退治しまずが」


 村のひとりが小鬼の頭に帽子をかぶせ、首を振る。


「迷惑な小鬼がいれば、とうの昔に仕留めていますよ」


 そうだそうだと村人は頷く。


「どうしようか、シュゼッタ?」


 剣士の少年が困ったように尋ねれば、妖精の女は「多分いないわよ」と涼しい顔で答えた。剣士の少年はしばし唸ったが、やがて納得すると妖精の女と共に開拓村を出て行った。

 旅人の姿が完全に見えなくなってから、小鬼は帽子を外して村人達を見た。


『オレ様を助けてくれたのか?』

「いいや」


 静かに村人は笑みを浮かべ、小鬼を抱きしめた。




 こうして。

 北の開拓村には今も悪戯好きの小鬼が住んでいるという。

 もっとも、


「あそこの村人達は小鬼の上を行く悪戯好きよね」


 何処かの道の上、ふと立ち止まった妖精の女はぽつりと漏らし、その後何事もなかったかのように再び歩き出した。



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