第23話 犯人
翌日、十和子のその言葉を信じ、学校に向かう。足取りは重く、正直行きたくはなかったけど、お母さんに不登校扱いされ、失望されている方が嫌だ。
それに十和子が言ってたことが事実ならあまり恐れることはない。
早速学校に着くと、十和子が走ってこちらに来た。
思ったよりも速くこちらに来たので正直軽くビビった。だけど、その党の十和子は真面目な顔で「愛香、良かった。来てくれた」と言って私をハグした。
その状況に少し理解が追い付くのに時間がかかったが、二秒ほど時間が経った後、私も十和子をハグし返した。
「それで、私のあの件は?」
「大丈夫。愛香がそのことで傷ついていることなんてみんな分かってるし、誰も十和子を責めないよ。ね、皆」
そうトワコが振り向くと、と阿波子に気づいたクラスメイトは靴口に「うん」「勿論」と言ってくれた。
「皆、愛香が悪いんじゃなくて、愛香のお父さんが悪いという事くらい知ってるんだから、大丈夫だよ」
「うん。ありがとう」
実際授業が始まった後、休み時間を含めて皆怖いくらいいつも通りだった。だけど、あまりにも何もないので少しだけ怖くなる。
この中には私の秘密を暴露した犯人がいるのだから。
そして、授業が不穏なまま続いていく中、一日があっという間に終わろうとした。
驚いた。何か嫌がらせとかをされると思っていたのに。
「ね、大丈夫だったでしょ」
十和子がどや顔で言う。
「うん、そうだね」
「明日からも安心して通ってよ」
「分かった」
翌日、学校に行くと、荒れていた。正確に言うと、一人の生徒が十和子の手によって捕まっていたからだ。
捕まっていた生徒は、川原春人。
「あ、愛香。犯人捕まえたよ」
ホワイトボードには、夏目愛香はパパ活をしてるという事が書いてあった。もうネタがなかったのか、完全なる嘘を書かれてしまっている。
「犯人は、川原君?」
「そうみたい。今日は朝から張り込んでたんだ」
「張り込んでだ?」
「うん。愛香が来た日の翌日行動を起こすかなって」
「……」
「囮にしててごめんね」
「いや、そんなことは」
それよりもまさか川原君が犯人だとは思っていなかった。
彼はいつも大人締めの、言うなれば茂と会う前の私のような雰囲気だった。
そんな彼がどうして……
「僕は、姉を鈴村隆介に殺された。仲のいいおばさんだった。だから嫌がらせをしてたんだよ」
そう人が変わったように白状していく。
「僕の姉はたまたま出かけていて、その帰り道で殺されたんだ。まさか、あんなところで無差別テロに巻き込まれるとは思ってもいなかったよ。だからその娘がこの学校にいると聴いて、これはチャンスだと思ったんだ。復習するためのな」
「だから、愛香の平穏な人生を奪おうと思って……」
「ああ、ボートに書いてやった」
うそ、ここにもお父さんの被害者が……。
「つ、ごめんね」
私にはそれしか言えない。やっぱり、私は犯罪者の息子なんだな。やっぱり鈴村隆介からは逃れられない。
ああ、また転校でもしなきゃダメなのかな……。
ああ、未来が見えない。
「ごめんじゃねえんだよ! それでお前の父親が犯した罪が消されるとでも思ってるのか? 甘いんだよ」
「やめて、川原君。愛香は今も罪の意識にさいなまれてるから」
「さいなまれてる? 悲劇のヒロイン気取りかよ!」
「っ、そんなつもりはない!」
「愛香、とりあえずこの場を離れよう。この場は愛香にとってしんどい」
「……でも」
「ここは俺に任せて」
そう長谷川君が決め顔をしながら言う。
私はそれに対してただ、うなずいた。
ただ歩く、ただ無感情で歩く。だって、何か考えるとすぐに悲しくなるんだもん。
それを察してか、十和子は私に対して何も話さない。十和子のやさしさにただ感謝する。
そして、保健室に着いた。
保健室の風景を見ると、途端に涙が出てきた。
「大丈夫? 愛香」
十和子が心配してくれている。でも、今の私はこの涙を止めるすべを知らない。
ああ、十和子に心配をかける。でも、止められない。
「ごめん十和子、もう授業でしょ。行って」
「でも、こんな状態の愛香を放って行くわけには行かないよ」
「いいから!!」
もう十和子に心配をかけたくない。私は十和子を手でぐっと押して、保健室から追い出した。
でも、人間強くない。感情が落ち着くわけでもなく、布団を抱きしめながら一思いに泣いた。
保険の先生も大まかな事情は把握しているようで、声をかけてこない。それが古語地いい。
「はあ」
暑さで目が覚めた。どうやら私は泣きつかれて寝たらしい。
時計を見る。
今の時間は一二時四五分。四時間も寝ていたという訳か。
「愛香大丈夫?」
そして目覚めた瞬間、十和子がやってきた。そっか、授業が終わったのね。
「もうだいぶ大丈夫。……川原君は?」
「とりあえず、家に帰った」
「そう……神様も意地悪だね。親が殺人鬼の人と同じクラスに殺された人が兄弟の人を入れるんだもん」
「そうだね。でも、それは愛香のせいじゃ」
「ない。でも、私のお父さんが殺人を犯して、川原君を地獄に叩き落したのは事実だから」
それは茂君も。私の前ではケロッとしてた風に見えてたが、きっとあの時、私が学校に来たと時も我慢していただろう。
「それに、クズの娘はクズだから」
あいつが言ってた、見たいに。
「私もきっとクズになるんだ」
「待って、愛香! そんな考えじゃダメ。愛香はいい子よ」
「いい子なら。私の存在で人を悲しませたりはしない」
「……」
「ごめんね、放っといて」
そう言って、私はベッドに横になった。十和子とは逆方向に頭を向けて。
そして眠れるように頭を伏せた。もうこの世の全てがどうでもいいのだから。
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