第22話 告白

 そして、学校にも慣れてきたある日のこと、私の机の中に手紙が入っていた。

 それを見るとラブレターのようなもので、放課後に空き教室に来て欲しいと書いてあった。それを見た時、非常に困った。


 確かに私は茂とは連絡を取れていない。茂とは疎遠になっている。

 だけど、だからと言って私はこの告白を受けるわけには行かない。私は茂一筋なんだから。


 それに、疎遠になっているだけで、恋人関係は解消されたわけでもないのだし。


 一応手紙のことについて十和子に相談した。十和子に事の経緯を説明したら、案の定、断ったほうがいいという答えが返ってきた。私の考えと一緒で、ほっとした。

 そして、私は放課後ラブレターの主に合う事にした。勿論断る前提で。


 その場所に行く際に入り口付近で女の子とぶつかってしまった。


「すみません」


 そう顔も見ずに頭を下げ、中に入る。


 そこには一人の男性がいた。クラスメイトの長谷川猛だろう。クラスでもどちらかと言えば陽キャで、イケメンという噂だ。

 そんな人にラブレターを送られたのだ。普通に誇ってもいい事だろう。だけど、私は、私には茂君がいる。



「付き合ってください」


 早速私の顔を見た彼がそう言った。でも、lこんな告白受けるわけには行かない。さあ、言うんだ私、無理です、彼氏がいるので、と。


「す……」


 その真剣な顔を見たら断るのが怖くなって来た。私には断る勇気もないっていうのか。

 ああ、勇気を、勇気をください。



「すみません!!!!!!!!」



 思ったよりも大きな声が出た。長谷川君はビビっている様子だ。ちなみに私もビビっている。


「ごめんなさい、大きな声を出して。でも私には彼氏がいるから。ごめんなさい」


 そう言ってその場から逃する。



 その日はよかった。だけど翌日、


「何これ」


 ホワイトボードに、愛香には彼氏がいると大きく書いてあった。


「なによこれ!」


 十和子が叫ぶ。私をかばうように。


「長谷川君⁉」


 そしてそのままの勢いで、長谷川君に問い詰める。

 十和子は強い。私はまだ体が動いていないのに。



「俺じゃねえよ。なんで俺がそんなことをするんだよ」

「振られた腹いせ」

「俺はそんなくそみてえな人間じゃねえよ。第一、これは俺が来た時からあったぜ、なあ、隆」

「おう、確かに」

「っ」


 どういう事なのだろう。


「嘘言わないで!!」

「本当だよ!!」


 十和子と、長谷川君の怒鳴り合いが続く。私はそれを止められるはずなのに、体が動かない。

 でも、もしかして、


「もしかして!!」


 私は叫んだ。その瞬間、クラスの目が私に向かった。


「誰か、あの場所にもう一人いたとしたら」

「だれか?」

「私人とぶつかったの。入り口付近で」

「どういうこと?」

「それが正しかったらあそこにいたのは、第三者ってことだよ」


 だけど、その第三者はなぜ、私に彼氏がいるという事をあそこに書いたのだろう。


「という事は、長谷川君か私を貶めようとしてるってこと」

「……愛香、探偵みたい」

「私は探偵じゃないよ。それで……犯人探しってする? 私はどっちでもいいけど」

「俺はどうでもいい。犯人探しほど無駄なことはないからな」

「じゃあ、これで終りね」


 それで、この騒ぎは終わった。これでもう終わると思っていた。だけど、次の日、もっと恐ろしいことが書かれていた。



「……なんで?」


 そこに書いてあったのは、私の父が殺人鬼ということを示唆するような内容だった。


 何で知ってるんだろうか、何でこの事実がばらされたのだろうか。

 分からないよ。


 そしてふと周りを見渡す。すると、皆の目が変わっていた。その目を見て少し怖くなった。


「誰よ」


 そんな空気をぶち壊すように、十和子が口に出した。


「誰よ!!!」


 更にもう一言。


「人の家庭環境に、首ツッコむような人がいる? 最悪でしょ。とりあえず消させてもらうね」


 そう言った十和子はホワイトボートまで走って向かい、ボートに書かれた文字を消す。


「もしこのことを口に出したりしたら許さないから」


 そう言って十和子は私のもとに駆け寄る。


「大丈夫?」

「うん……」

「ごめんね、事前対処できなくて」

「謝る必要なんてないよ。だって、十和子は強いし」

「強い?」

「うん。だって、私の代わりに怒ってくれたし」

「それは当たり前のことじゃない。誰だって起こるよ」

「ありがとう」


 そう言って私は十和子に抱き着いた。

 でも、十和子にさえ知られるのさえ、怖かったのに、クラスの全員に知られるなんて。

 これからどうしたらいいのだろう。


 結局私は休み時間の他の人の目線が怖く、学校を早退した。

 家に帰るとすぐにベッドに寝ころんだ。

 お母さんには「なんで学校休んだの!?」と怒られた。まさか学校で父親ばれしたとはいえずに疲れたからと、言い訳をした。

 怒られたけど、本当のことを言うよりはましだ。


 そこから私は学校に行くのか怖くなった。

 私の事を悪く思っている人がいるんだと思ったら、おそろしい。

 わざわざ私の秘密を公開するような人、絶対にわるい人に決まってる。

 ああ、なんでこうなったんだろ、と茂の連絡先が入ったスマホをぎゅっと掴む。

 今画面は、茂に対してのメール画面だ。いつでも茂にメールを送れる状態だ。

 でも、でも、送れない。

 ああ、私はだめだなあ。



 結局翌日も学校に行けなかった。お母さんも少しだけ丸くはなったみたいで、無理矢理に行かせられるなんてことは無かった。でも、少し怒ってる感じがする。


 そんな時、十和子から電話がかかってきた。

 電話を取るのが怖い。

 思わずスマホをベッドの上からスマホを落とした。

 だけど、音は鳴り止む気配がない。

 部屋に着信音がただ、ただ、流れている。


 さすがにうるさく感じ、スマホを手にし、電話の着信を止める。すると、また聴こえてくる。

 どうしても私に話したいことがあるみたいだ。


(あ、愛香! 良かった、繋がった)

「どうしたの?」

(それがね、クラスで色々と揉めてるらしくて、今長谷川くんがメインで犯人探しをしている)

「その、私に対してのヘイト発言……みたいなやつはあるの?」


 そこがやはり心配。


(ううん、逆。私が愛香から聞いた事を言ったらみんな同情してくれたみたい)

「……そう」


 悪い人ばかりじゃないようだ。


(だから、安心して学校に来て。みんな待ってる))

「うん」


 明日は学校に行こう。そう思った。

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