第3話



俺の兄さんは、正直言ってかなりの美人だ。


その反対に俺は、かなりの平凡顔だ。




俺の父と兄さんの母が再婚し、俺と照史は兄弟に…そして父と母が海外へ出張してから2年が過ぎた。


父と母は1ヶ月に1度は帰ってきて俺達の様子を見に来てくれる。

そのおかげもあり、兄さんも俺も安定して2人で暮らせていた。



俺は小学4年、兄さんが小学6年…登校時は必ず一緒に学校へ向かい、帰りはそれぞれで寄り道せずに帰る。この繰り返しだ。


しかし、最初に言った通り兄さんは美人だ。

流石はBLゲームの主人公というべきか、男にも女にも好まれる顔をしている。

そして物腰の柔らかい性格もあり、兄さんの周りには人が沢山いた。

男友達、女友達、兄さん目当てでわざわざ寄り道してきた中学生やその兄弟。


帰り道ではいろんな人が兄さんに声をかけて帰っていく。



「照史くん、また明日ー!」

「照史、またな!」

「照史くん偶然だね!来年から中学だよね、いろいろ教えてあげる!」

「照史くん、家まで送ってあげようか?」



みんながみんな兄さんに声をかける。

まるで俺が見えていないかのように。



「ありがとうございます、でも弟もいるので大丈夫です」



人当たりの良い笑顔で断りの言葉を伝える兄さんに、送ると言った中学生の女子が俺に目を向ける。



「あぁ、全然似てない弟くんかぁ。本当似てないねぇ…くすくす、可哀想」



明らかに馬鹿にした目を向けてくる。


似てない。

普通。

これが弟か。

可哀想。


毎日俺に降りかかる言葉。




ーーーーもやっーーーー




聞くたびに





ーーーーもやっーーーー




聞くたびに





ーーーーもやっーーーー





兄さんに対するこの「弟の嫉妬心」が溜まっていく。

こんな感情、知りたくなかった。

どうして俺が、好きでこんな顔に産まれたわけじゃない。

俺だって兄さんみたいな…。




「確かに弟とは似てないけど、僕の可愛い弟ですよ」




俺の肩を抱き寄せてくすくすと笑っていた女子達微笑みながら言う兄さん。


兄さんは本当に俺を大事にしてくれてる。

原作でも、今でも。


原作でもトラウマを植え付けられながらも「全く恨んでなんていない」と悪役である弟を抱きしめる場面がある。


今でも、こうして守ってくれる。



良いやつなんだ。

良いやつなのはわかってるんだ。


でも、この「嫉妬心」が素直に兄さんを認めない。

きっとこの「嫉妬心」がストーリーの補正をかけてくる。

もやもやするこの気持ちを落ち着かせないと…俺はきっと原作と同じように兄さんに嫌なことをする。




「唯兎、今日のご飯はなに作る?」




この2年、ご飯は一緒に作っている。

流石は主人公、最初は全然料理なんてできなかったのに今では俺以上に料理ができてしまう。


…俺とは、全ての出来が違う。





「…にいさんにまかせる」


「…ん、わかった。じゃあ煮物にする?昨日は野菜炒めだったし、その前はシチューつくったもんね」


「…それでいい」




最低限のことしか口に出さない俺に、おそらく思うところはあると思う。

それでも無理に聞いてこないあたり、俺のことをしっかり考えてくれているんだ。


俺も…元々は高校生だったんだ、嫉妬心になんかに負けてなんていられない…。

小さく息を吐いて兄さんの手を握ればそれに驚いた兄さんがこちらを向いてくる。




「唯兎…」


「…なに…」


「…なんでもないよ」





心底嬉しそうに


愛おしそうに


こちらを見て微笑むその姿




壊さない努力は続けようと思う。







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