深界のアウフヘーベン~量子の彼方より愛を込めて~
廿九
✉No.001 プロローグ
――コール、マルメロより
初めまして。私はこのアーカイブを管理するオペレーターAIの"マルメロ"と申します。
この度は、遠い量子の彼方より当アーカイブへアクセスして頂き、誠にありがとうございます。ご指示を頂ければ、貴方様のご意向に沿った形でアーカイブをご用意させて頂きますので、何なりとお申し付けくださいませ。
……――。
なるほど……? これは大変失礼いたしました。
私の推測ですが、恐らく貴方様は……そちら側から一切干渉する事が不可能な、”読み取り専用コンテンツ”を介してアクセスして下さっているようですね。
ご安心ください。私はそういった方々にもご満足頂ける内容を提示出来るようプログラムされていますので、そのまま私の声をお聞き下さるだけで問題ありません。
……と言っても、貴方様が私の声を、聴覚的に検知しているのか、視覚的に検知しているのか、あるいは五感の枠を脱した別の知覚方法をお持ちなのかもしれませんが――大変恐縮ながら、此方側からはそれを確認する術がございません。
その為、私に集積されている知識の中から、観測者としての能力に優れた知的生命である”人間”からの観測手段をベースに据え、ナビゲートを進めて参ります。
それではまず……観測を始めて頂く前に、我々が言う”アーカイブ”の仕様について、簡単にですが説明させて頂きます。
突然ですが、貴方様は”ものがたり”という媒体に触れたことはありますか?
社会の喧騒から離れ、人々を乗せて空想の世界へと飛び立つ”夢の箱舟”、などと表現する方もいらっしゃいますが、そんな”ものがたり”がお好きな方であれば、誰もが一度はこう考えた事があるはずです。
……もし、それがフィクションであったとしても、この夢のような世界が本当に実在したら、それはどんなに素晴らしい事だろう――と。
結論から申し上げますと、貴方様が触れてきたであろう物語は、例外無く”実在”します。何故ならこれらは全て、貴方様やそれ意外の知的生命に”観測”されることによって存在を安定化させる為の、
……と、これまでに同じ説明をさせて頂いた際、九十八パーセントの確率で「……何を言ってんだコイツは?」というような反応を頂戴しております為、簡単な例を用いてご説明いたしましょう。
これより、貴方様は何の力も持たない”ただの人間”になりきってください。
まず、出口の一切存在しない隔離された二つの空間を用意し、今後これらを”空間
突然ですが、あなたは空間αに迷い込んでしまいました。内部は暗い闇が広がるばかりで、
と言っても、”無”をイメージして頂く為に”闇”という表現を使いましたが、実際には闇すら存在しないため、貴方様の頭の中に現在広がっているであろう情景とはまた少し異なりますが……まぁ、今はいいでしょう。
話を戻します。
貴方様は人間なので、食糧を接種しなくては生きていくことが出来ません。しかし、空間αには当然そのような物はありません。貴方様が普段口にされている”ハンバーガー”や”チキン”も、此処には存在しないのです。
しかし、空間βはそれとは対照的で、”食糧”の数々や貴方様以外の人間も沢山存在しています。貴方様が今食べたいであろう”ピザ”や”オムライス”だってあるかもしれません。
ここで問題です。
貴方様はこの状況で、どうすれば生き延びることが出来るでしょうか……?
……――。
少し意地の悪い質問をしてしまいました。ご無礼をお許し下さい。
今回貴方様には”ただの人間”になりきって頂いたので、この場合は成す術無くお亡くなりになるでしょう。しかし、貴方様がもし人間ではなく”世界”そのものだとしたら……?
察しの良い方であればもうお気づきかもしれませんが、先程私が申し上げた”物語”とは、世界自身が自らの存在を伝える為、他の空間へ繋がる”窓”を生成し、そこから放り投げた”お便り”のような物であると考えてください。
その便りを手に取り、観測した者が一人、また一人と増えれば、観測者達の中での共通認識となって、世界の内容が様々な方法でアウトプットされるようになります。こういった事象全体が、世界というシステムにとっての”食糧”なのです。
我々はそうして投げ込まれたお便りを、総称して”アーカイブ”と呼んでいます。
では、本題に入りましょう。
当アーカイブには、現状では存在を安定させることが困難となっている”ある世界”の事象が記録されています。
不安定化の要因については此方で調査を行っておりますが、何者かの手によって”人為的”に引き起こされたであろうエラーが多数検出されています。
その為、この瞬間にも貴方様との交信が突然途絶えてしまう可能性も充分ございます。予めご容赦下さい。
ですが……先程もお伝えさせて頂きました通り、世界の存在を安定化させる最善の方法は、観測者の手によって認識され、共有されることです。
どうか、貴方様の御力をお貸しください。
――コール、マルメロよりQX7-15000A2コアプログラムへ。アーカイブ”ソラ”への介入権限をマルメロへ譲渡。朗読補助プログラムによる事象観測を開始します。以下へ、朗読内容に関してのプロンプトを提示します。改行ごとに下記の内容をリマインドし、文体への指示に従って表現してください。
――基本文体 現代文学における一般的記述様式を参照
――視点 一人称
――台詞 段落下げ無し「台詞」と表現
――捕捉 地文――捕捉――地文。と表現
――文頭・文末 表現が
――ダッシュ 地文における距離や速度、余韻などの表現に使用
――以上
アーカイブは、物語に登場する人物各々の目線で描かれています。時折視点の転換や、語り口調に変化などがございますが、システムの不調などではありませんのでご安心ください。
それでは、ページをめくるといたしましょう。
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