第2話

「え、知らなかった? 私、修道院で育ったのよ」

 ベッドから片身を出したまま私は答える。男はまるで想像のつかないことを言われたという顔をした。皆、初めて聞くとこういう反応をする。そして思いついたように、

「あ、じゃ、もしかして」

「そう、みなしごだったの」

 悪いことを聞いてしまったという色が浮かぶことにも慣れている。サイドテーブルの上からぬるいミネラルウォーターをとってキャップを外しながら、私は口角を上げて微笑んでみせた。

「気にしないで。いまさらって感じなんだけど。私の方は」

 ごくごくと喉を潤し、残りを男に差し出した。


 男の瞼を閉じさせて、私はホテルの部屋を出た。殺すことは平気な癖に、断末魔の目を見るのは得意ではない。あの目は永遠に残るような気がする。だから。瞼を閉じさせて、隠すのだ。

 隠してしまいさえすれば、あとはもう気にならない。

 毒はもちろん、あのミネラルウォーターに入っていたわけではない。だって、私も飲んでいるもの。

 その前に軽く飲んだワインの方。

 グラスにそっと毒を仕込んだ。何の警戒心もなく欲望に気が立っている男を欺くなんて、たやすいこと。遅効性の毒だった。

 私はごくさりげなく、堂々とフロントの前を抜けて自動ドアから外に出る。

 真っ黒な猫が一匹、目の前を横切って去った。

 すぐに闇に紛れてしまう。

 私はといえば、闇に紛れる必要はないので、純白のカシミヤのコートの裾をふわりとさせて、大股で歩いた。

 市街の外れにあったホテルを後にして路地に入り、お気に入りのライターでシガレットに点火する。



 季節は初夏になっていた。

 私はピンクの安っぽいTシャツにジーンズ、サンダル履きで大学の門をくぐる。

 それなりに名を知られた大学なので、そんな恰好をしている人はごく少ない。女子は上品なワンピースやブラウス、ミモレやロング、あるいはタイトのスカート。髪も手入れしてストレートパーマやゆるふわパーマの人が多い。

 私は一つにきつく編んだ三つ編み。化粧っ気もゼロ。

 修道院の慈善事業のおこぼれで育ってきた私にはちょうどお似合いの髪型と服装。高校卒業と同時に大学に上がれた私はかなり恵まれていた。大概の子は中卒・高卒で働きはじめる。しかもその多くは最低賃金ぎりぎりのパート・アルバイトの接客業。彼ら・彼女らが風俗に足を踏み入れるのは時間の問題だった。

 けれど、私は自分が選ばれた存在などとはもちろん思っていない。

 たまたま運がよかっただけ。

 けれど、この運が、私に長年の望みを叶えさせてくれるようになった。

 そういう意味では「神」は私を見捨ててはいないようだ。

 たとえ「憎悪」の権化のような「神」であっても。

 階段教室の教壇の真ん前に私はいつも座る。誰かとつるむこともない。もっとも、誰も私なんかに声をかけはしない。この姿恰好では、異質に映るのは計算済み。それが狙いなんだから。

 一般教養の宗教学。修道院で育った私には簡単すぎる。本当は私は、修道院のおこぼれで生活しながら、いろいろな宗教を独学で勉強してきた。イスラムもユダヤも、神道も仏教も。ヒンズーもゾロアスター教も。

 それが私の慰めだった。

 そして、歴史を見れば宗教の名のもとに流されたおびただしい血。そういう歴史を知るのが喜びだった。

 教授はロマンスグレーの黒ぶち眼鏡をかけた素敵なおじさま。

 ひそかに憧れている女子学生は多い。

 私は貧乏くさい恰好で、真ん前で先生の講義に耳を傾ける。

 流されたおびただしい血の色と臭いを感じながら。

「わたくしはクリスチャンではありますので、講義内容ではとくにキリスト教の教義に比重をおいてはいますが、あくまで我が国は信教の自由が保障された国であります。また、無宗教ももちろん許されます。あなた方の多くが単なる歴史や文化の背景として学ぶことを否定しません。ただし、ひとつだけ念頭に置いておいていただきたいのは、宗教は人がいかに生くるべきかという問いから生まれてきたということです」

 教授の眼鏡の奥の黒い瞳が潤んだように見えた。そのタイミングで私はノートをとる手をとめ、まっすぐに教授の目を見つめた。ただし彼の目は階段教室のもっと後ろのほうに注がれている。華やかな女子学生たちの塊、振り返ると、折しもそこだけに陽の光が差し込んでいる。

 教授は顔色一つ変えることもなく、再び自らが著したテキストに目を落とす。

 私も自分のテキストのページを繰る。

 たったこれだけで五千円もした本。大学近辺の指定書店と大学生協でしか取り扱われない書籍。

 講義が終わった後、教壇を降りて出ていこうとする教授を私は追いかけた。

 怪訝そうな表情が浮かんだ。私は少しうつむいて上目遣いにもじもじする。

「何だね」

 低い声だが声音は優しい。

「あの、今日の講義で『人はいかに生くるべきか』ということが宗教の核心だと先生はおっしゃられました。私は……実はとても悩んでいることがあって、自分の生き方について見直したいと考えています。どうか、どうか相談にのっていただけませんか?」

 教授は興味なさげではあったが、紳士気取りの手前、無下にはねつけるようなことはしない。

「今日はこの後会議もあるからね。でも明日なら……三限で講義は終わりだ」

 私はぱっと顔を輝かす。

「本当ですか? 私もこの後はアルバイトがあるので……。明日三限のあと、研究室にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、お待ちしてますよ」

 そういうと教授はくるりと背を向けて立ち去った。


 真っ白い衣装には意味がある。

 この衣装を深紅に染める日を楽しみにしてきた。

 私は昨日とはうって変わった服装になる。きつい三つ編みは肩先まで流し、丁寧に櫛を入れる。もとが艶の良い髪なのだし、まとまりもよいのだ。整髪剤も要らないくらい。そして、ほのかにアロマをしのばせる。ほんの少し、香るかどうかくらい。

 私の肌はすっぴんでも抜けるように透明感がある。滅多にお化粧をしていなかったからだ。修道院育ちにメイクをする余裕などあって?

 それでも今日は肌の白さや肌理を生かしながら丁寧に下地クリームとファンデーションで整える。まつ毛はもともと長い。だからアイメイクは控えめにしている。コンシーラーで目の下に少し青みを足す。悩める女子学生らしく見せるために。

 頬紅もあるか無きかの薄い紅色。

 いちばんの決め手は口紅だ。薄い唇に少し暗めの紅色。きっとこの方がワンピースの色にも映えるから。

 翌日、三限までの授業は無視して、三限の後に教授の研究室に向かう。

 気がはやったのか、教授は留守で、研究室に鍵はかかっていなかった。

 私はためらわず中に入る。少し傾き始めた陽射しが真っすぐ室内に入りこんでいる。重々しい机があることを連想したけれど、今の研究室は金属の軽い机が置いてあり、イスも普通のビジネス用デスクチェアだった。

 本棚が向かいにあり、ガラスのケースがついている。明りを点けていないので、影の部分は読みづらい。古そうな本が多かった。ガラスケースに収まっていても、色が褪せて、開いたら紙魚がたくさんありそうだ。

 別の棚の影でよく見えないが、魔女裁判にかんした本が数冊あることに気づいた。

 多くの生娘を魔女と烙印し虐殺した中世ヨーロッパの黒い歴史。

 こんな本を持っていることが彼の性癖を示しているようで、私は軽蔑の舌打ちをした。

 音もなくドアが開いた。今の舌打ちの音が聞こえたかと焦りをおぼえたが、入ってきた教授はいかにも穏やかだった。

 明らかに、私の姿を見て驚いている。

「君は……ここの学生ですよね。何かご用ですか。申し訳ないが、ご用事ならアポを取ってくだされば」

 私はにっこりと微笑む。

「先生、何を言っているのですか? 昨日お約束をした者ですが」

 しばらく呆けたのち、ようやく教授は思い当たったようだった。

「ああ、そうか。ちょっと雰囲気が違っていたものだから。本当に、女子学生さんはね……」

 世慣れていない教授は取り繕おうとして、つい余計なことまでしゃべりそうになる。下らないおべんちゃらまで言わせるのも気に入らなくて、私は話をさえぎる。

「あらためて、先生にお話を伺いにまいりました。湯原花蓮と申します。今日はお時間をとっていただいて、ありがとうございます」

 変わった名前なので心あたりがあったのか、教授は「ああ」と小さく頷いたあと、まじまじと私を見た。

 その名に恥じない容姿であることは私がいちばんよく承知している。

 教授は最初の戸惑いを克服したように、紳士的な笑みを浮かべた。

「どうもね、研究室というのは、わりと自由に使える場所だから、むさくるしくて申し訳ないな」

「それでしたら、もしよろしければ、外でお話しさせていただいても?」

 教授は私の眼差しをちらりと盗み見て、

「そうだね、時間もとるようだし、もう少し静かで落ち着く場所で」

 と言いかけるが、

「あら、ファミレスで構いません。私にとってはまじめなお話なんですけど、なにも秘匿するようなものではないですし。東門を出たところに新しいファミレスが」

「いや、それは申し訳ないよ。ここは私に任せておいて」

 教授は急に手慣れたように目配せして見せた。

「近場でよい店を知っているよ。教授仲間ともよく行く店だ」

 心なしか教授は弾んだ声を出す。

「そうですか。申し訳ないです。私なんかの、それも無理なお願いのために」

「いいから、いいから」

 教授は通りでタクシーを拾って、行先を告げる。さすが、お金を貯めこんでいるものだと私は唇を噛む。

 行先は神楽坂の見るからに上品な和食のお店だった。風情のある狭い戸口。季節の花が活けられている。淡い灯り。教授は引き戸を開けた。

「急なんだが、部屋は一つ、空いているかね」

「あら、先生、ちょうどよかったですわ。今、一つキャンセルが入りましたの」

 薄桃色の和服を上品に着こなし、割烹着をつけた中年の女性が明るい声で答えた。

「じゃあ、そこへ」

「先生」

 私は細い声でそっとささやく。

「あの、私なんかには不釣り合いです。こんな立派なお店」

「何、大丈夫さ。ここの個室は広いけれど、二人でも大丈夫だからね」

 確かに薄黄色の和紙で出来たかのような淡い光を放つ室内は、ソファが三つ用意されていてとてもゆったりしている。障子の窓はフェイクだ。灯篭のような灯りが下がっている。

 教授はあらためてしみじみと私の装いを見た。確かに、どんなお店にも対応できるような品の良さでまとめている。

「真面目な話はあとでいいかね。まずは空腹を満たしておこう。今日はお昼はどこでとったの?」

「コンビニのサンドウィッチを」

「それでは、そろそろ腹も空いてくるころだろう」

 私は空腹を感じることは滅多にない。修道院での居候時代から空腹には慣れてしまった。

 立派な石造りの建物の横に建てられた施設。食事が来るのはいつも遅く、とくに朝は食パンにマーガリンだけ。あとはお茶。昼になる前に学校でお腹が鳴るのが恥ずかしくてうつむいて必死に堪えていた日々。

 慈善で送られてくるのは着古したお下がり。それは構わなかった。だけど、クラスで「おこぼれ」「お下がり」と渾名をつけられてからかわれるのには耐えられなかった。

 今ならわかる。

 孤児の私が、クラスの誰よりも目立って美しく、かつ成績が良いのが気に食わなかったのだ。しかも私は卑屈な真似などしたことがない。それがまた癪にさわったのだろう。形ばかりの「同情」さえ見せず、こちらが恥ずかしくなるような罵声や皮肉を浴びせかける子どもたち。しかも私は分かっていた。彼らがそのようにふるまうのは、彼らの親がそう話しているからなのだ、と。

 私は意図的に「友」を持たなかった。小学校ではよく「グループ分け」がされる。私はいつも取り残され、一人だった。それでも泣きべそ一つかかない。

 でも、なぜか、一人だけ、私をグループに誘い込む女の子がいた。確か、ふみこちゃんと言ったっけ。よく図書館で本を読んでいるような、目立たない女の子だった。

「どうしたの。遠慮なく選んでいいよ」

 教授の言葉にはっとして、ふみこちゃんの面影は消し飛んだ。私は気後れしたふうにメニューを眺め、か細い声で、

「先生と同じでもよろしいですか。私、よくわからなくて」

と答えた。教授は何がおかしいのか高笑いをして、

「そうだね、当然だよ」

と頷いた。

 本当はわからないわけではない。私がつき合った男たちは小金を持ち、かつ女性に奢ることに特別の満足を感じるような類の連中だった。高校の頃から、私は彼らを通じて、それまでの私には無縁であった世界のことを知っていった。そういうことを知ることは彼らが私に使うお金以上に、私にとっては重要であったから。

 私は修道院で用意されていたもの以外に、特別の口座をつくり、お金をコツコツとため続けていた。けれど、お金だけでは気づけないことがある。できるだけ私は、彼らにつき合い、彼らのアクセサリーになり、時には欲望のはけ口にもなった。

 それは修道院ではけっして学ぶことのできないものだったから。

「さて、ゆっくりくつろいで。緊張を解いて。それからでいいよ、君の悩みを聞かせてもらうのは」

 満足げな教授の表情。私は花のような笑顔をつくる。

「何だか、もうお腹がいっぱいになってしまいました」

 教授の眼差しに卑しいものが走ったのを、私は見逃さなかった。視線が落ちている。私の身体の品定めをしている眼だ。

「君は箸の使い方が上手だね」

 これはわざとではなく、本当に感心したように彼がつぶやいた。

「母はこういうことに厳しくて」

「最近の学生さんには珍しいね。お母さまはよく出来た方と分かる」

 瞬間。私の頭に怒りが湧く。誰が、あなたなどに私の母の品定めを求めたというの?

 そして我に返る。私は母のことを知りはしない。存在したことはもちろん間違いはないが、写真さえ手元にはないのだ。父も同様。自分の性質を鑑みるに、一体どちらに似ているのかとときどき考えることがある。どちらでもいいことだけれど、そういう空想がちょっとした慰みになることもあるのだ。特に誰かを手にかけた後は。

 私の血がきっとこうさせているのだ、私の血は、なぜにこんなにも粘つくような執念を帯びているのか。もしかしたら、すでにこの世から消え去ったのではないかと思われる、父と母の何らかの恨みが練り込まれているのか。

「どうしたの、遠慮なく食べて」

 気取った教授の言葉にまた我に返る。

 私は自分からは意識的に話さなかった。こういうタイプの男は、実は自慢したいことが体内につまっており、チャンスさえ見かければ弾むようにその話が飛び出してくるのだろう。その聞き役、おだて役にまわるのがいいやり方に思えた。

 高級な味。

 美味しいと思うよりも高級な味としか感じない私。

 舌鼓を打ちながら、いかにも感心したというように少しずつ箸で口に運ぶ。私にとっては高級な味。そういう感じ方しかできない自分を憐れとは思わない。むしろ、食事のうまさなど感じない方がいい。それは他のことも同じ。

 今はブランド物のワンピースを着ているし、アクセサリーも。

 子供の頃の「お下がり」は完全に克服した。

 いかに生きるか。

 この問題を、このような俗っぽい男が語るのが許せなかっただけ。

 それだけで、私には十分すぎる理由があった。

 機会は料理か酒か茶か。

 そっとバッグの中の小さなスポイト状の容れ物を確かめる。

 酒のときがやはり怪しまれないだろう。たくさん飲ませて、中座した隙を狙うのはいちばん安全。

 もう少しつき合おうか。

「少し飲んでもかまいませんか」

「ああ、もちろん。君は成人しているんだろう? 何がいい」

「実は、日本酒が好きなんです」

 教授は「ほう」と声に出し、

「いける口だね。……そうそう、悩み事は真剣に話し合った方がいいが、飲んだ方が滑らかに話せるかもしれないな」

 私は俯いて微笑して見せる。

 教授はすぐに自分のお酒を注文したが、私は食後がよいと伝えた。この男は飲んだのがすぐに顔に出るらしく、すぐに赤らんだ。

 酔った男のぎらついた目つきが私は大嫌いだ。そこまで行かせたくない。

 やがて膳も下げられ、私はナプキンをとって軽く口元をぬぐう。

 一息ついて、顔を上げて見せる。

 目線は下に。私の長いまつ毛がゆらゆらとしたほの暗い灯りの下でも、頬に影をつくっているのに違いない。

「先生、私、実は……」

 私は決意を固めたような表情をつくって話しはじめた。

 落ち着いた小部屋。趣味のよい調度。

 この男には似つかわしくない、いえ、ちょうどいいのか。

 そして私にも。


「そうか。君の身の上は、私には想像を絶するよ」

 あくまで教授としての、先生としての体面を取り繕ういやらしさ。

「こんなこと、話したのは先生が初めてです。どうしても言えなくて。でも、先生の講義をお聞きしながら、どうしてもこみ上げてきてしまって」

「そうか」

 感じ入ったというように目を潤ませて見せる男。

 私は、その目をまっすぐに見て、すっと涙を落して見せた。

「君」

 慌てて私を見る男の顔が、本当にぼやけて見える。

 涙は、都合が良い。

「あの、ちょっとお手洗いに。ふふ、お化粧を直したくて」

 そう言ってバッグの持ち手を取り、席を立った。上品にしつらえられたふすまを開けて外に出て、誰もいないのを目で確認してから、そっと微笑む。ここまでは、完璧だった。

 化粧室に行って、清潔に掃除の行き届いた手洗い場の前に立つ。お化粧崩れはしていない。完璧だ。紅だけをより濃い目に差しておこう。

 有名ブランドのポーチを開き、沈んだ色の紅を取りだして小指の先でそっと唇に刷く。するとやや青みのかった顔色に実によく映えた。垂らした髪を整える。

 私は高級ブランドのお化粧品をポーチも自宅にも揃えてはいるが、お化粧に費やす時間は極めて短い。《用意》は素早くする必要がある。

 そっとポーチの中から薬袋を取り出し、そでの下に入れた。器用な技を身につけたものだと思う。

 手だけ洗って化粧室を出たところでアクシデントがあった。

 目の前で、制服の着物を着た背の低い女性が私に目を留めた。

 どこかで見覚えがある。

 芙美子。

 そう、あの、私を生徒たちの仲間に入れたがっていたふみこちゃんだ。

 今は明るい生活をしているのではないことは、すぐに見てとれた。高級なお店なのでよい生地を使っているものの、彼女に薄い紅色は似合わない。

 しかも割烹着をつけた腹がやけに出ているのだ。

 私は彼女が芙美子であることを無視してそのまま教授の待つ個室に戻ろうとした。しかし彼女は声を出してしまったのだ。

「湯原さん?」

 私は心の中で舌打ちをしたい気分だった。

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