第二章
第40話 ドワーフの国
二日後、ジェイたちは休息と入念な準備を終えドワーフの国へ向けて出発した。
「──どうだ、馬は慣れたか、ツヴァイ」
「これくらいなんてことはない……」
この二日間、ツヴァイは乗馬の練習をしていた。
今までに乗馬の経験はなかったが、過酷な訓練を経て常人以上の体幹を手にした彼にとってはさほど難しいものではなかった。
「悪いなタイヴァー、荷車を用意させて」
「いえいえ、その分は貰ってるんでね。それに、これでも通れる道を案内するからこその運び屋ですぜ」
ドライとフィーアは想像通り馬には乗れなかったため、旅の荷物を載せるついでにドライとフィーアも乗れる荷車を用意された。
「そういえば、アインはあの時すぐ馬に乗れたな」
「え……、ええ、まあ……。幼い時に教えられましたから」
「……そうか」
ジェイは決して彼女の過去に踏み入ろうとしない。
それに馬に乗ることぐらいは一般的な農民でも日常的にやっていることだ。貴族や軍人に限ったことではない。
「だが馬の上からの銃撃戦というのはまた違った訓練が必要となる。馬を音に慣らすのも兼ねて、そのうちやらないとな」
竜騎兵は機動力と攻撃力を兼ね備えた、中世期における極めて強力な兵科のひとつである。
マスケット銃すら存在しないこの世界では、限られた精鋭魔法使い以外にまともな対抗手段がない。銃と騎馬はこの世界における最強の組み合わせと言えた。
「──旦那、ご歓談中に申し訳ねえですが、正面にモンスターですぜ!」
タイヴァーが指差す先には鹿型のモンスターが数匹、群れをなしていた。
「ふむ、確かあれは討伐等級は五等級だったか……。ちょうどいい! いきなり実践訓練といくぞ!」
「はい!」
ジェイは手本を見せるべく、手網を引き自ら先陣を切った。
「射線管理に気を配れ! 馬と銃の扱いに集中して周りが見えなくなる!」
「了解!」
それからも道中では度々モンスターと遭遇した。タイヴァーの言う通り、ドワーフの国への道は過酷を極めた。
しかしいずれもジェイたちの敵ではなかった。
最初の数日は馬上からの射撃に手間取っていたが、次第に慣れてきたアインは身体強化魔法によるいつものアクロバティックな攻撃手段まで身につけジェイを驚かせた。
ツヴァイもそれに対抗してナイフ一本で突撃し始め、それでは本末転倒だとジェイに叱られるぐらいには余裕だった。
だがこのような光景をジェイが微笑ましく思えたのは、圧倒的な破壊力を持つドライとフィーアのスナイパーが控えているからに他ならないだろう。
「──さて旦那! 楽しい旅もここで一区切りですぜ!」
「本当のお楽しみはここからだがな……!」
ジェイが満面の笑みを浮かべる眼下には、とてもこの世界のものとは思えない光景が広がっていた。
「見渡す限りの鉄と煙の世界! 渓谷地帯を丸々鉱山町にしてしまったとは! そして動いているのは蒸気機関だと!? まったく、ドワーフとはふざけた技術力を持った種族らしいな!」
「ジェイ様、嬉しそうですね」
「これを喜ばずしてどうする! なるほど、帝国もこれを欲しがるはずだ! しかしそんな帝国も今まで手出しが出来なかったというのもまた納得できる……。この光景を一度見てしまったらな!」
普段はどこか腹に一物を持っているような、含みのある話し方をするジェイ。そんな彼がここまで興奮し感動をそのままことばにする様子に、アインまで笑みが零れた。
「ですが旦那、問題はここからですぜ」
「ああ、分かっている。ここがゴールではない。気難しいというドワーフをどう説き伏せ、味方に付けるか。それは俺にかかっている。……安心しろ、俺はこれまでも職人気質な連中とやり合ってきた一流のビジネスマンだ」
ジェイは襟を正し、馬を進める。
向かう先には人間の国では見たこともないような巨大な鉄製の門があった。それは文字通り、ジェイにとっての最初の関門だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
次話2024/05/14 07:30頃更新予定!
ブックマークしてお待ちください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます