第39話 改革
帰路は大きく遠回りしたにもかかわらず五日という期間で完了した。
ジェイたちとタイヴァーは一度エスタマイルの街まで赴き、オフィジェンの部下から報酬を受け取った。
「こう見ると共和国はやはり後進国なのだと実感するな。いくら拡張戦争を行っても、国内がこれでは帝国には一向に勝てないだろう」
「共和国も首都はまだマシなんですけどねぇ。エスタマイルぐらいの地方都市となるとこんなもんですぜ」
「ふん。お前の広い見聞は今後も役に立ちそうだ。そして早速その力を借りよう」
「へい旦那」
タイヴァーは深い皺が刻まれた笑顔を見せる。
「二日で準備しろ。俺たちも馬で行く」
「では二日後、そちらの拠点で」
タイヴァーと別れた後、ジェイはその足でエスタマイルの街で諸々の物資を注文してから拠点へ戻った。
「──という訳で、以前話した通り、我々はドワーフの国とやらへ出向く。事は一刻を争う。急いで準備しろ!」
「……ジェイ様、もう少し休んだ方がよろしいのではないでしょうか……」
アインはおずおずとジェイに進言する。
「それはならん。帝国があのような下士官にまで次の作戦を説明しているということは、即ち魔法兵器とやらの開発もそれなりに進んでいるということだ。我々が先にドワーフの国を抑えなければ、銃というアドバンテージを覆される可能性がある」
「アドバンテージ……ですか……」
「ああ。そろそろこちらも本格的に組織の拡大を行わなければならない。それにはドワーフの技術とやらに賭けるしかない。彼の地にて武器量産の目処を立てる」
「ですがボス、ドワーフたちはそれに応じるでしょうか」
「それについては俺に妙案がある。俺の経営手腕に任せろ」
そう言ってジェイは机の上にアタッシュケースのようなものを投げた。
「それで、武器を作れたとして、それを使う人間はどうするのですか」
「それはだなゼクス。お前たちが何とかしろ」
「は?」
困惑の表情を浮かべるゼクスに対し、ジェイは不敵な笑みを浮かべ一瞥する。
「今度の遠征はかなりの長旅となる。これに全員を連れていき、拠点を空にするというのはあまりに効率が悪い。──そこでだ! これよりしばらくの間、ヴァルカンは二部隊に再編成する!」
「これから先は別行動、と……」
「その通りだ! アイン、ツヴァイ、ドライ、フィーアは俺と共にドワーフの国へ行く。結局このメンバーが一番戦力的にバランスがいいからな。その間、フュンフ、ゼクス、ズィーベンは拠点に残り、拠点の更なる拡張と人員の確保を行え!」
「しゃ、社長! それは私たちに全て委任するということですか!?」
「ああ。会社の金は好きに使っていい。足りなければ自分たちで増やせ。その金で拠点を好きに拡張し、信頼にたると判断した人間をかき集めろ」
今のヴァルカンにはやらなければいけないことが山積みだった。そこでジェイはその山をふたつに分けてしまったのだった。
「ですが私たち、一応は社長の奴隷ですよ……? そんなに自由にして良いんですか……?」
「まだそんなことを気にしていたのか? お前たちはとっくに奴隷などではない。元から各々に行動させていたように、俺はお前たちを信頼にたる人間であると判断した。そしてお前たちにはこの任務をやり遂げる能力もあるはずだ。集めた人員はそのままお前たちの部下としろ。お前たちは皆ヴァルカンの幹部だ」
「奴隷ではなく、幹部……」
それはまるで戦国時代の立身出世のような話だった。だが、この世界の現状を鑑みれば、むしろそれが最も適切なやり方であるとジェイは判断した。乱世を制するには乱世のやり方が一番の近道であった。
「そうだ。我々の商売相手は国であり、俺たちの敵もまた国だ。これに対抗するには最善手を打ち続けなければならない」
「はい。承知しております」
「であればすぐに取り掛かれ! 敵は待ってはくれんぞ!」
「は!」
ジェイの叱咤を受けたフュンフたちは駆け足で拠点を後にした。
「ジェイ……。俺たちも急ごう……」
「どうしたツヴァイ、お前も触発されたか。だがお前はまず休め。負傷したままの長旅は自分の想像以上にダメージが残っているものだぞ」
「…………」
今にも飛び出していきそうな準備をしていたツヴァイは、大人しく座ってナイフを研ぎ始めた。
「それはジェイ様も同じですよ。というか、ツヴァイは帝国の教会で治療を受けたし、案外丈夫だから大丈夫ですよ。私とツヴァイで旅の準備をするのでジェイ様こそ休んでいてください」
「──全く、お前はいつも俺の想像を超えてくるな……。分かったよ」
今度はジェイが黙って座り、銃の分解清掃を始めた。
「ほら、行くよツヴァイ」
「ああ……」
早くもヴァルカンはその内部から変わろうとしていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2024/05/13 07:30頃更新予定!
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