第22話 終戦、そして──

「流石ですジェイ様。それに比べて私は……」


「気を落とすなアイン。初めは誰もが失敗するものだ。怪我ひとつなく勝ったんだ。まずはそれを自信に思え。……ツヴァイもいいカバーだった」


「……当然だ」


 肩を落とし青い瞳に涙を浮かべるアインと、血に飢えた狼のように赤い目をギラつかせるツヴァイ。対照的な二人だが、だからこそ相補的でもある。


「──はぁはぁ……。どうやら、手柄は独り占めにされたようだな」


 ジェイたちの元へやってきたのはオリビアたちアイリス騎士団だった。


「生きていたか」


「ああ。なんとか。……これから共和国軍は公国軍に追撃を加えるらしい。我々冒険者はここでお役御免だ」


「追撃なんて楽な部分だけ本軍を動かすだなんて、卑怯なことこの上ないですわよね」


「その方が軍の指揮官からすれば、自軍の被害は少なく、戦果は多くなりますから……」


 そういう彼女たちだが、その満身創痍の姿では逃げる公国軍を追いかけるのも無理であることは誰の目にも明らかだった。

 アイリス騎士団以外の冒険者もフラフラと集まってくるが誰一人として明るい表情の者はいない。


「とても勝った側には見えんな……」


「勇ましいのは軍の指揮官のみ。本当は誰も戦いたくないのですよ」


 アインはアイリス騎士団の面々が現れると途端にシャキッとした顔に切り替えていた。


「まあ誰も死にたくはないさ。平和に暮らせるならそれが一番いい」






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






 仕事を終えた冒険者たちはまた数日掛け街まで戻っていった。そして彼らが真っ先に向かうのは冒険者ギルドである。


「──ではこちらが規定の報酬と、国からの特別手当です」


 例え国からの依頼であろうと、冒険者ギルドに所属する冒険者は全てギルドの仲介で仕事を受ける。


「報酬が金貨50枚に手当が金貨400枚……。それなりに稼がせて貰ったか」


 それは敵の大将と副将の命の値段。そして命を懸けて戦ったヴァルカン全員の命の値段だった。


「ジェイ様。今回の報酬ですが、直接国のお役人様がお渡しする手筈となっております。どうぞ奥の別室に」


「そうか。──行くぞ」


 軍では冒険者の扱いが酷かったため、わざわざ向こうから出向くという待遇にジェイは若干の違和感を覚えた。

 そしてアインたちにハンドサインで「要警戒」の指示を下す。


「はいジェイ様」


 ヴァルカン一行はゾロゾロと冒険者ギルド最奥の応接室へ案内された。

 そこには役人らしき初老の男が一人、そしてその後ろには戦場で見かけた鎧を纏った兵士が数名控えていた。


「お前たちが例の冒険者ヴァルカンか……。私はオフィジェン。此度の戦いでにおけるお前たちの奮戦に対し、国から褒美を取らせることになったのでその説明に来た。まあ座ってくれ」


「では失礼する」


 ジェイが一人ソファに座る一方、他のヴァルカンメンバーは周囲の警戒に当たっている。

 特にジェイの両脇を固めるアインとツヴァイは、相手が銃の知識がないことをいいことに、セーフティこそつけているが銃口は堂々とオフィジェンたちに向けていた。


 その物々しい雰囲気と見慣れぬ武器を見て、オフィジェンと兵士たちは自然と背筋を正す。


「……ごほん! まず、報酬についてだ。事前の契約通り、総額金貨450枚が支払われることになるが、今回は特別に金貨500枚に加増する」


「その心は?」


 理由もなくそんなことをするはずがないとジェイは疑ってかかる。


「ああ。その代わり、支払いは金貨ではなく白金貨で払わせてもらおう。これは民間では使われないが、国では金貨100枚の代わりとしてこちらを使っている。……金額が膨大になれば金貨は重くて不便だからな」


 そう言ってオフィジェンは机の上に小さな木箱を置いた。その木箱には精緻な金細工の装飾が施されており、誰が見ても高級なものだと分かった。


 そしてオフィジェンはゆっくりとその箱を開ける。

 箱の中から姿を現した白金貨は、国章が刻印されており眩いばかりに美しく輝いていた。


「……見事だな」


「国に何か頼み事があるならこちらを使え。国は人を測る基準として財力を重く見ている。莫大な財を築くものは、それだけ優秀な人間ということだ」


「成程。分かりやすくていいな」


 賄賂は何も悪いことじゃない。物事を円滑に進めるためのチップのようなものだ。

 使い道は限られているが、その不便さを上回る特権が与えられた硬貨。それが白金貨だった。


「資産として保有してもいいが、盗まれても補償はしない。……話は以上だ。では──」


「待て」


 国の役人、それも護衛を連れて歩くレベルの人間と直接話せる機会などそうそうない。そう判断したジェイの行動は早かった。


「早速これを使おう」


「……要件は?」


 その言葉を待っていた。そう言わんばかりにジェイはニタリと笑ってこう言った。


「傭兵ギルドの創立だ……!」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/04/26 07:30頃更新予定!

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