第12話 準備

 次の日、二人は並んで宿屋の朝食を食べた。

 ジェイが事前に多めに支払ったからか、それとも店主が傷だらけの少女を可哀想に思ったのか、パサついたパンは相変わらずだが具なしスープには野菜の切れ端が入っていた。


「今日の予定だが、午前中はここで待機していろ。昨日の今日で体力もまだ戻っていないだろうし危険なコンフリクトの森には連れて行けない。俺が一人で薬とお前用の武器を取りに行ってこよう」


「……昨日もそうでしたが、私が逃げる心配はしないのですか」


 まともな食事と睡眠のおかげか、アインは会話ができる程度には回復していた。


「逃げたいならそうしろ。だが逃げてどうなる? 行く宛てもない、身寄りもない少女が一人で生きられる程この世界は甘くないのだろう? それとも国は滅んだが家族はどこかで生きているのか?」


「いえ……。両親は恐らく殺されました……」


「そうか。なら生きる術はないな。ここで逃げ出すような馬鹿なら別に俺は要らない。好きにしろ。お前が聡明なら俺が戻るまで部屋でいい子にしているんだな」


「はい……」






 食事を済ませ、ジェイはアインを残し一人で森へ入った。


 流石に短期間でこう何度も行き来すれば土地勘も掴める。

 ジェイはなるべく道から外れないように、しかし地図の怪しい部分を埋めるように探索をしながらヘリへの道を進んだ。


「ん……? こんな所に何故だ……」


 その道中、明らかに廃棄されたと見られる小屋を発見した。

 窓は割れ、扉は崩れかかっている。


「冒険者が休憩所にでも建てたのだろうか……」


 恐る恐る中へ入ると、そこは四人ほどが宿泊できそうな広さがあった。だがしばらく使われていた形跡もない。


 この時、ジェイは地図にも載っていないこの小屋に強い関心を寄せていた。

 彼はより詳しく小屋を調べる。


「木は腐っていない……。多少手入れすれば問題なさそうか……。井戸も枯れていないな……。かなり放置されてはいそうだが、危険な森で小屋がそれなりの状態で残っているということは、ここにはあのふざけた大きさの危険なモンスターは出ないということか……」


 その点、この小屋は訳ありな二人に都合が良かった。


「森には冒険者ぐらいしか立ち入らない。少し歩けばモンスターがうじゃうじゃ湧いて天然の訓練所にもなる。これはいいな」


 彼はここを拠点とすることに決めた。


 宿屋からの脱却を決めたジェイは意気揚々とヘリへ向かった。

 今回はヘリの位置もしっかりと地図で確認したので迷わず、特にモンスターにも出会わず来れた。


「──確かここに」


 ジェイはまず装備箱を開け、荷物を詰めるバックパックと少女用のリグを用意した。


「……薬はこれでいいか」


 正確な診断は出来ないので、包帯や抗生物質、消毒液等のめぼしい医薬品をバックパックに詰め込んだ。


「武器は……まあ護身用で一応持たせるか」


 奇しくもジェイのお気に入りであるGLOCKのライバルとなるが、小さな手のアインでも操作し易いようUSPコンパクトを選んだ。

 セットのナイフもまとめてバックパックに詰め込む。


「これでいいな」


 ジェイは荷物をまとめ街へ戻った。






 少女がどのように行動するか楽しみにしていたジェイだったが、アインは変わらず部屋で大人しくしていた。


「薬を持ってきたぞ。怪我してるところを消毒して包帯巻くから服を脱げ」


「…………」


 しかしアインはじっと俯いたままで動こうとしない。


「どうした。昨日は大人しく従っていたじゃないか」


「明るいので……」


「ああ……」


 奴隷として扱われるなら彼女はもっと酷いこともされるだろう。しかしジェイは無闇に彼女の尊厳を傷つけたくはなかった。


「じゃあ外で待ってるから自分でやれ。先に腕で手本を見せてやる。いつかは覚えた方がいいからな」


 ジェイは傷薬の使い方を見せた後、一旦部屋を出た。

 それから十分後、中から声を掛けられてまた部屋に入る。


「これは……」


 そこには全身包帯まみれの少女がいた。


「ふっ……まあいい。実際それなりに怪我はしているからな。ただその状態でも服は着ろ」


「はい」


「――よし。じゃあ食事にしよう。往復しただけでもう昼だ」


 薬箱には軍用レーションが入っていた。

 どれもカロリーが高くなるようにやたらと濃い味付けだが、嗜好品や香辛料が貴重なこの世界ではむしろそれは贅沢なものなのだろう。アインは初めて食べる食事に目を輝かせ、何千キロカロリーになるか分からない量のレーションを口にした。


「ま、まあいいだろう……。しばらく食べていなかったようだしな……」


 ジェイは机からボトボトと落ちたレーションの中からクラッカーとジャムを拾い上げ口に放り込んだ。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/04/16 07:30頃更新予定!

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