第4話 第二幕
ジェイが案内された街は、オリビアたちの服装と似合う石造りの中世風な街並みをしていた。しかしそれは
電灯やアスファルトなんてものもない。ビルのような高い建物はなく、せいぜい二階建ての大きな施設が所々にあるような様子だった。
街には多くの人々の往来があったが、オリビアたちのような洋風な顔立ちで中世のような薄い色のシンプルな服を着ている。
街の入口には甲冑に身を包み槍を持っている衛兵の姿まである。
正真正銘、自分の知る時代、国、世界ではないと畳み掛けられたジェイは軽い立ちくらみに襲われた。
「さあ、例の冒険者ギルドにご案内しますわ。私たちも試験の失敗とジャイアントマンティスの出現について報告しに行きますの」
ギルドは街の中央にある二階建ての建物だった。
世界各国に拠点があるというだけあってかなり大きな組織のようだった。
「アイリス騎士団の者だ。報告をしに来た」
ギルドの中は一階が受け付けと依頼の掲示板、二階が酒場のようになっていた。
「お疲れ様でした。こちらの報告書にご記入お願いします」
「──これで」
「はい。では少々お待ち下さい」
ジェイは舐め回すように掲示板に貼り付けられた依頼書を読んでいく。
「何故読める……?」
そこに書かれていた文字は明らかに地球のものではなかったが、何故かスラスラと読めてしまった。更には文字を指でなぞると、まるでその言語を何十年も使っていたかのように勝手に手が動いて、正確な文章を書くことができた。
「随分と都合がいいんだな……」
死んだはずがこんな所にいる時点でもう諦めがついているジェイは、全てを割り切ることにした。
「お待たせしました。試験の件、残念でしたね。またの挑戦をお待ちしております。またジャイアントマンティスについても了承しました。後ほど職員が確認に伺います。……それで、モンスターを倒したというのが──」
「ああ。こちらの方だ」
フラフラと掲示板の前を歩き回ってお知らせを読んでいたジェイをオリビアが受付まで引っ張ってくる。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「ジェイだ」
「どちらからいらしたのでしょうか」
「……詳しくは言えないが、西の方だ」
「それではこちらのデータベースでお調べできません」
色々と聞かれるのはマズいとジェイは焦っていた。
そもそも別の世界から来たという事情を明かすべきか、隠すべきかも検討がついていない。
だがこの服装と装備をしている彼を物珍しそうに見てくる他の冒険者たちの様子から、余計なことを口走って面倒事に巻き込まれるのは避けたいと思っていた。
「そこの帳簿に名前はない。元々冒険者ではないからな」
「では登録された情報はないということですね?」
「ああ」
「ご登録されていかれますか?」
「できるのか?」
「はい、問題ありませんよ」
身分を証明するものも何もない。そんな人間でもギルドには登録できるらしい。
ギルドとしては討伐等級が第三級のモンスターを倒せる強者であれば誰でもいいのだろうか。
いずれにせよ好都合だと、ジェイは手続きを進めることにした。
「登録させてくれ。それと仕事の斡旋も頼みたい」
「はい。それではこちらにお名前とチーム名をどうぞ」
受付の女が質の悪い紙と羽根ペンを差し出す。
「チーム名……?」
「はい。いずれメンバーが増えるかもしれませんし、名前が被った時、○○というチームの××という風に呼び分けしますので」
庶民には苗字がない弊害のようなものだった。幸いにもジェイも自分の本名を書くつもりはなかったので、氏名欄にはそのままジェイと書いた。
そして彼が決めたチーム名、それは──
「……ヴァルカン、ですか」
「ああ。誰かが信仰する神の名だったりするか?」
「いえ、問題ありませんよ。ではヴァルカンのジェイさんとして登録しますね」
元の世界での会社名をそのまま使ったのは単に呼び慣れているからだけではなく、この名前が広まればいずれ死んだはずの部下たちと再会できる可能性があるのではと考えていたからというのもある。
だが彼の真意はもっと別のところにあった。
相も変わらず戦争の溢れる世界。戦禍によって生きる場所を追われる人々の姿。
そして彼自身が居場所を失い険しい世界で仕事を貰う、搾取される側に回ったという厳しい現実。
これらを全て踏み潰し、再び世界の表と裏を掌握する。それを成し遂げた民間軍事会社ヴァルカンの第二幕。その幕開けがここに告げられたのだった。
「登録完了しました。これからよろしくお願いしますね、ジェイさん」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
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次話2024/04/08 07:30頃更新予定!
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