第3話 交流

「い、今のは魔法……?」

「こんな静かな魔法は知らない……! 無詠唱で……しかもジャイアントマンティスを一瞬で倒すなんて……!」


「魔法……ではないからな……」


 男は銃にセーフティーを掛けてモンスターを観察する。

 モンスターの銃創からは緑色の体液が流れ出ており、それが機械で作られた映画のセットではないことを証明していた。


「あ、貴方は一体何者なのだ……?」


「俺か? 俺は……ジェイと呼んでくれ」


 それは男の本名ではなかった。だが、それがこの世界での男の本名であった。


「ジェイ……。聞いた事のない名前だ……。さぞ高位な冒険者なのだろう」


「冒険者ではない」


「では軍人か」


「……それが一番近いが……、今はただの放浪者だな」


「貴方も亡国の兵士ということか」


「こらこら、命の恩人に質問攻めとは失礼ですわよ。まずは自己紹介をしなければ」


 ジェイに詰め寄るオリビアをソフィアが引き剥がした。


「私たちはアイリス騎士団。冒険者をしていますわ」


「騎士団……? 何処かの王国の騎士なのか?」


「ええ……昨年滅びた隣国、リターリア王国で騎士をしていましたの」


 王国、滅亡、騎士……。ここまで来たら何でもアリだなと思いながら、ジェイは黙って彼女たちの話を聞くことにした。


「礼がまだだったな。先程は助かった。私はアイリス騎士団の団長、オリビア。こっちがソフィアで、向こうでちじこまっているのがミサキだ」


「ああ」


「貴方は放浪者と言ったな? 何故危険なコンフリクトの森に一人でいるのだ」


「コンフリクトの森……。聞いた事のない地名だ。やはり俺は迷ってしまったらしい」


「そうか、それは災難だったな。いや、それ程強ければこの森もなんてことはないか」


「ああいや、この魔法のようなものは何度も使えない。出来ればこの近くの街まで案内して欲しい」


「ですよね……。そうじゃないと私……もう魔法を極めるモチベーションが……」


 ミサキが木の影で震えていたのは、同じ遠距離攻撃、しかも超常的な攻撃方法という中で、彼女がジェイとの圧倒的な実力差にいち早く気がついたからだった。

 少なくともこの少女たちには負けることはないと、ジェイもまた理解していた。


「落ち着きなさいミサキ! アンタは王国随一の魔導師だったじゃない! ……失礼。命の恩人に恩返しが出来るならお易い御用だ。私たちも消耗してしまったからな。すぐ街まで戻ろう」


「そうですわね」


「助かる」


 それからジェイは三人の案内で街まで向かった。

 その道中、可能な限りの情報を彼女たちから聞き出す。


「───国が滅んだと言ったな?」


「ええ。私たちの国は極東諸国連合によって攻め滅ぼされたんですの。だからこのワッフェ共和国で冒険者として暮らすことにしましたわ」


「その騎士団とやらは君たち三人だけか?」


「ああ。国から逃げ延びる際にバラバラになってしまった。王は逃げるよう私たちに命じたが、最後まで戦い命を落としたものも多い。だが、もし他に生きている騎士がいるならいつか出会えるよう、この名前で活動しているんだ」


「へえ……」


 この間もジェイは警戒を緩めず、ライフルのグリップを強く握っていた。


「それにしても、女性三人でこの森は危険過ぎないか? 冒険者とはこうも無謀なのか?」


 軍事専門家の端くれとして、このような戦力差の中で戦っていた彼女らの実力にジェイは懐疑的だった。

 どうせ助けたのなら役に立つ人間がいいと思っていた。


「それを言われると苦しいが、私たちは昇級試験としてこの森に挑んだんだ。今アイリス騎士団は五級冒険者。四級への昇級条件が、この森の討伐等級が第四級であるワイルドベアの討伐なんだ」


「それで三級のあのカマキリが出てきたと」


「そうですわ。不運だったとしか言いようがありませんわね。でも貴方がいて助かりましたわ。三級かそれ以上の実力がおありのようで」


「ジェイさんは……どこから来たんですか……?」


「ん? まあ西の方だな」


 探りを入れてくるミサキの話を適当に誤魔化し、ジェイは情報収集を続ける。


「この国での仕事を探している。やはり冒険者が多いのか?」


「貴方ほどの強さなら軍人になっても将軍を目指せるだろうな」


「この国にも戦争が?」


「ああそりゃあもう。野生のモンスターは冒険者に任せ、軍人は国同士の戦いに専念するんだ。だから私たちも食いっぱぐれることはないな」


 冒険者というのだから旅人と同じ類いだとジェイは考えていたが、どうやらそうではないらしい。


「今のところ、どの国にも属するつもりはない」


「ではやはり冒険者がよろしいでしょうね。冒険者は世界各国が連携したギルドと呼ばれる独立組織に所属するんですわ。それならどこで働いても、どんな仕事をしてもいい、まさに世界で一番自由な生き方なんですの!」


「──さあ見えてきたぞジェイ殿! あれが私たちの住む街、エスタマイルだ!」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


お読み頂きありがとうございます!

次話2024/04/07 18:00頃、本日午後6時頃更新予定!

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