喫茶「夢心地」〜ここは誰もが心温かくなれる喫茶〜

赤坂英二

第1話 朝、喫茶までの道のり

 目覚まし時計より早起きをした朝。

 

 というよりも、最近は目覚ましに起こされるようなことがない。


 望まず、早起きである。


 あのころはいくら寝ても時間が足りなかったものだ。


 しかし今は寝ても寝ても時間が余る。




 眠い。




 布団から出たくないのは変わらないが、早々に布団を抜け出した。


 身支度もほどほどに電車に乗る。




 眠気を感じながらも起きるのは、日々の楽しみを感じるため。


 行き先は馴染みの喫茶へ。




 一度地下鉄に乗り換えてから急行列車で二駅。


 黒色に囲まれながら電車に揺られる。


 電車の席に座り、暖房の暖かさに寝ぼけていると、あっという間に到着する二駅。


 電車のドアが開く。


 冷気が足元から這い上がってくる。


 寒い。


 体中に力が入り、体が丸まる。


 暦の上では春だというのに、すごい寒さだ。


 毎年冬を過ごすのにこの寒さに慣れたためしがない。


 進む一歩が重い


 青い寒空の下。


 のそのそ進む。


 灰色の路地。


 古着屋通りのシャッター。


 白い息。


 吸えば鼻の奥にしみる冬の空気。


 痛い。


 寒さに震えながら、T字路を曲がる。


 裏路地を入ったところに、小さな看板が立っている。


 黒板になっていて、チョークで喫茶のとこが書かれている。


 黒板にはカラフルなチョークが用いられ、しっかりと手入れされている。今日の日付が入いっていることからも、毎日書き直されているのだろう。


 その喫茶自体は裏路地の奥まったところにあるというのに、この看板は「ここだよ、見つけてね!」といわんばかりの気合の入りようだ。


 クスッと笑ってしまう。


 到着だ。


 喫茶「夢心地」の扉に手をかけ、ゆっくりと引く。


 今日、ここで小さなドラマが生まれる。

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