第二話 とある練り物工場

練り物工場がある。

ちなみにこのかまぼこ屋の創業は寛永2年。実に歴史ある老舗だ。


そして、そこまで続く歴史の秘密。

パートのおばちゃんが、バイトの俺にこっそり教えてくれた。


「ここの竹輪はかまぼこ、そしてさつま揚げには『人魚の肉』を使うとるんよ」

「は? アハハ……」


そう。

この時は俺は軽く流したかと思う。

ただの都市伝説。


「人魚の肉は旨いどころか、不老長寿の源じゃけん!」


 おばちゃんたちは、その皺だらけの顔をくしゃくしゃにしては、俺に笑い語り掛ける。


「ほえ? は? アハハ……」


俺としても、もう笑うしかない。

何故って?

だってさあ……おばちゃんたちはいつもこう続けるんだ。


「うちらは此処の練り物をいつも食べとるんよ? どれ、見て見てこのピチピチとして張りのある肌を!」


そう。そうなのだ。

俺は今度こそ顔面を凍らかせ。


「え、ええ? ほえ? は? アハハ……」


うん、俺から見たおばちゃんたちの面相はしわくちゃに出来モノのイボに、シミだらけの肌。そして荒れたサメ肌である。

顔も腕も、掌も、変わらず黒ずみ皺が刻まれ血管が浮き出ている。

そして、顔面では両眼が左右に異様に分かれていて。

JKなら良い香りでもするだろうが、おばちゃんズからは仄かな磯の香りがするのだ。


うん、どう本人が力説しようと……「素敵な面相」「万民が認める美しさ」には程遠いのである。


と、俺は今の今まで思っていた。

俺が違和感を覚えて頬を手でさする。

かさかさとした肌。

そして視野が横に開けた気がする。

うん、何事も余裕をもって、注意しつつ、人様の良い所だけを見つめていた俺に対する神様のギフトに違いない。


ああ。

俺は今日も練り物工場で働く。

旨そうな魚の香しい匂いに包まれながら。

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