異世界フラワーショップ、開店です。

さざなみ

芽吹きの季節

第1話 花は枯れても。

 ひどく冷たい鉄階段の上で、私は脳裏に流れる26年分の記憶を眺めていた。 


 …


 私は、髪や皮膚の色素が薄くなる先天性の遺伝子的な突然変異を抱えていた。


 もっとも、アルビノのようになるのではなく、せいぜい髪が明るい茶色に、皮膚がほかの子よりも白くなるだけで、それ以外は普通の子供だった。


 だが両親は私を「自分の子供」として見てはくれなかった。私が生まれたからというもの、父は常に母の浮気を疑った。母はそんな父に辟易していて、私を見るたびに暴言を吐くようなった。私が保育園を卒業する直前、母の苛立ちが限界に達し、両親は離婚。私は他県の叔父と祖父の暮らす家に引き取られた。


 そして、引っ越してすぐ小学校に入学した私を待っていたのは、小さな子供特有の悪意のないいじめだった。私が標的になったのは、髪が茶色いから。肌が人より白いから。それだけだった。


 はじめはちょっかい程度だったが、段々とエスカレートしていき、2年生になるころには、叩く、髪を引っ張るなどの暴力に変わった。その時は肌の赤みから祖父がすぐに気づき、学校に突撃していじめの事を学校といじめっ子の保護者に報告したため一時はいじめがなくなった。だが、お説教が気に障ったのか、夏休み明けからは肉体ではなく心を狙った、確かに悪意のあるいじめが始まった。


 筆箱を隠す、靴を濡らす、クラスの輪からあからさまにはじき出す、真横で私の悪口を言う等々。誰かに言いつけたらもっとひどいことをすると脅しながら先生や大人の目がないところで毎日、程度の差はあれど何かしらのいじめを受けた。そして、4年時の担任は見て見ぬふりを貫いたため、いじめはますますエスカレートし、夏ごろ、ついに耐えられなくなって学校を飛び出した。


 私は上履きのままで公園の遊具の下に逃げ込み、声を殺して泣いていた。


 運命が変わったのは、その時だった。公園の遊具の中ですすり泣いていた私に、声をかけてくれたのは、きれいな新緑を思わせる鮮やかなの瞳をしたプラチナブロンドの髪のお姉さんだった。このお姉さんに、私は心を救われたのだ。


 お姉さんは、私の話を聞いて、一緒に泣いて、抱きしめて、慰めてくれた。そして、一緒に祖父、それから学校へ説明をしてくれた。よほど怒られたのか、そこからはぱたりといじめが止んだ。まるで、私に関する一切の関心が消えたみたいに。


 学校に説明した後、お姉さんが、頑張ったね。ともう一度抱きしめてくれた。誰かからの心からの愛を受けたと感じたのは、これが初めてかもしれない。接し方がわからないながらに大事にしてくれた祖父には悪いが。


 別れ際、お姉さんは花束をくれた。美しいという言葉では足りないような奇跡そのもののような花だった。


 そのオーロラのように儚くも、だがその中で太陽のように力強い輝きを放つ花に、そして私を助けてくれたお姉さんの私を見つめる力強い瞳に私は魅せられた。


 結局そのお姉さんは最後まで自分の名前も花の名前も教えてくれなかった。


その後、お姉さんからもらった美しい花の名前を調べていく中で静かだが力強い植物の世界に強く惹かれて。


 いつしか、自分だけの花屋を開き、自分も彼女のように誰かの心を照らすこと、そしていくら探しても見つからない、彼女があの時くれた花の名前を知ることが夢になっていた。


 だが、一から自分の店を持つというのは、子供だった自分が思ったより、はるかに大変なことだった。主に資金面で。


 それに気が付いたのは、高校2年生の夏。そこから、部活をやめて高校卒業までは花や商売に関することを学びながらバイト漬け、卒業後は、何とか受かったそこそこ大手のアパレルブランドで事務員(なぜかデザイナーもすることになった。)として働きながらお店を持つにあたって必要な知識の勉強をしながらあの花を探し、バイトをいくつか掛け持ちして周囲から仕事中毒者の烙印を押される程度には我武者羅に店のための資金を貯め続けた。


 そんな無理が祟ったのだろう。目標金額までいよいよあと数歩まで迫った給料日の今日、残業の休憩で夜風に当たろうとして裏口から出たら、ふと意識が遠のき、会社の外階段から滑り落ちた。


 徐々に視界が狭まり、頬に感じる無機質な冷たさに自身が近づいていることを感じながら、私は、最期に思った。


(お店も欲しかったけど、せめて、あの花の名前を知りたかったな、、、、)


「何か凄い音が…っ!? ゆっ、優花先輩!?」


 駆け寄ってくる足音と、教育担当になった新人の女の子の声を最後に私の意識は途絶えた。



 その時、右の胸ぽっけのあたりから泣きそうになるほど温かい何かが広がった気がして。


 次に目を覚ました私の目に飛び込んできたのは、あまりに眩しい花園と、それらに負けないほどの輝きを放つ二人の人物だった。






 ※あとがき


 初めまして。さざなみと申します。


 書いたものをネット上にあげるのは、この作品が初めてです。拙い文や未熟な表現などがあるかと思いますが、読んでくださるとうれしいです。


 おそらく加筆修正を繰り返しながらになるかと思いますが、よろしくお願いします。

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