第15話:レベル上げハイグリーンベヒモス:チバサナ視点

20XX年4月5日:伏見神社ダンジョン99階:千葉佐那21歳視点


 おじさんの言う通りでした、意外と簡単にハイグリーンベヒモスを狩れました。

 自分の動きが速すぎて狙いを外す回数が極端に減りました。


 最初の頃ほどレベルが上がるのが早くないので、ハイグリーンベヒモスを狩っている間に身体が慣れてくれます。


 ただ、ハイグリーンベヒモスのレベルがグリーンドラゴンよりもはるかに高い影響か、ドロップの確率が悪くなりました。


 ハイグリーンベヒモスがドロップするのは、鱗、血、爪、牙、皮、肉の6種です。

 なんちゃって賢者さんの話を信じるなら、ハイと表現されるモンスター素材の組み合わせによっては、長期のダンジョン病が治るかもしれません。


 おじさんと私のお母さんたちに試す前に、モンスターで人体実験しなければいけませんが、なんちゃって賢者さんの言う通りなら良いな。


「佐那、集中しろ、一瞬の油断が命取りになるぞ!

 自分が死んだらお母さんも死ぬと思え!」


「はい!」


 またおじさんに叱られてしまいました。

 お姉ちゃんがいると言いたいところですが、言えません。

 リョウに騙されて殺されかけたお姉ちゃんは、信じ切れません。


 お母さんと私がダンジョン病になって、追い込まれた状態であせったのでしょうが、あの程度の人に騙されるのはうかつ過ぎます。


 もう注意されないように、よけいな事を考えずに狩りに集中しました。

 僕が少しでも早くレベルを上げたら、その分素材を多く集められます。

 少なくとも僕独りでグリーンドラゴンを狩れるようにならないといけません!


 1万頭はハイグリーンベヒモスを狩ったと思います。

 それでドロップした素材が、鱗2、血2、爪1、牙1、皮1、肉2の6種9個ですから、どれほど貴重なのか分かってもらえると思います。


 階層ボスなのですから、斃したら必ずドロップすると思っていましたが、深層は浅層と全く違います。


 ほぼ半日休みなく狩り続けたので、おじさんに『終わり』と言われたとたんにくずれ落ちて気を失ってしまいました。


 目を覚ました時には、明らかに半日は眠っていました。

 余りの空腹とかわきに、ベッドサイドに置いてあった回復薬を、立て続けに10本も飲んでしました。


 浅層で高い確率で落ちる回復薬は、駆け出しのダンジョンアタッカーにはとても役に立つますが、栄養飲料やスポーツドリンクでも代用できます。


 普通のダンジョンアタッカーだと、栄養飲料やスポーツドリンクを飲んで、パーティーの回復役にヒールをかけてもらった方が安いのです。


 高い確率でドロップするとは言っても、回復役のヒールを必要としない、即効性のある回復薬は、それなりの値段、1個10万円はするのです。


 回復する能力は低いですが、それでも命には代えられません。

 緊急時には、125mlで200円の栄養飲料や500mlで150円のスポーツドリンクではなく、10万円の回復薬を使うダンジョンアタッカーもいます。


 ですが、金銭的にそんな余裕のあるダンジョンアタッカーは少数です。

 そんな無謀なダンジョンアタックはせずに、あるていどで引き揚げます。


 ほとんどのダンジョンアタッカーが、命の危険が少ない状態、栄養飲料やスポーツドリンクを使います。


 ところが、ダンジョンから出ない引きこもりのおじさんには、栄養飲料やスポーツドリンクの方が貴重でした。


 人の少ない時間や時期を見つけては、回復ドロップ薬が高確率で手に入る浅層に行き、モンスターを呼び集める香をたいて大量に手に入れているそうです。


 外に出るくらいなら、1本10万円の回復役を水代わりに飲む方が良いそうです。

 純粋に水分と栄養分を補給する為なので、味は二の次だそうです。


「目が覚めたようだな」


「はい」


 私が回復ドロップ薬を飲み終えるのを待っていたかのように、おじさんがやって来て声をかけてきました。


「レッドドラゴンの肉を焼いてある、しっかり食べろ」


「すみません、本当なら僕が料理しなければいけないのに」


「気にするな、よけいな事は考えずに、レベルを上げる事に専念しろ。

 無理をさせているのは分かっているが、俺のために強くなってもらう」


「おじさんにためですか、信じられません。

 僕を強くする本当の理由を聞いてもいいですか?」


「……時間がもったいないから食べながら聞け」


「はい、いただきます」


「深雪は自分の正義感をゆずる気がないようだ。

 最悪の場合は、その正義感に付け込まれて殺されてしまうかもしれない。

 そんな事のないように、どのような罠も危険も討ち破る力を持て」


「直接お姉ちゃんのレベルを上げない理由は、信用できないからですか?」


「そうだ、自分が強くなった分だけ理想をかなえようとする。

 その無理した分だけ命を失う可能性が高くなる。

 だが、弱いままなら、無理できる事にも限りがある」


「おじさんの力をあてにして、自分の理想をかなえようとしていますが、私が強くなったら同じ事をしてきませんか?」


「深雪は姉という自覚、保護欲が強いようだ。

 佐那が『それは無理、死んじゃうよ』と言えばあきらめるだろう。

 それでも何か言うようなら『私達が死んだらお母さんはどうなるの』と言え」


「分かりました、そう言ってお姉ちゃんを止めます」


「今日の獲物はハイシルバーフェンリルだ、強敵だが、まだ長期のダンジョン病を治す組み合わせを試した事のないドロップだ。

 確率が低くなるから2万頭は狩る、覚悟しておけ」


「はい、がんばります」


★★★★★★


 821:なんちゃって賢者

 わかった、わかった、わかった、俺が代表でいい。

 だけどお前達にも副代表をやってもらうからな!


 822:シッタカ

 分かったよ、他の連中と同列の副代表ならやるよ。


 823:銀仮面

 ホワイトナイトが派遣してくれた人も副代表にした方が良いんじゃないか?


 824:お天道様

 そういう考えもあるが、それでショウヘイに拒否されたらどうする?


 825:なんちゃって賢者

 ショウヘイが受けてくれると思うか?


 544:ホワイトナイト

If it's just you guys, I'm sure you'll believe and accept it.

If we are not in a position to help, people will not believe us.

(君たちだけなら信じて受けてくれるだろう。

 私達はあくまでも手助けする立場でないと信じてもらえないだろう)


 845:なんちゃって賢者

 ザマア好き、出て来い、返事をしろ、逃がさないぞ!


 846:ザマア好き

 分かったわよ、副代表は引き受けるわよ、だけど名前だけよ!


 847:なんちゃって賢者

 分かっている、名前だけだ、何か決める時は棄権でもいい。

 ただ、俺達がおかしなことをやりだした時に、反対できる人でいてくれ。

 間違った事をやったら、いつものように復讐よと叫んでくれ。


 848:ザマア好き

 ここで好き勝手言っているだけだったのに……責任が重すぎるわよ。

 引きこもり1号、引きこもり2号、人嫌い、観ているだけ、口下手。

 あんたらも逃がさないからね、観ているのは分かっているのよ、返事!


 849:引きこもり1号

 了解。


 850:引きこもり2号

 嫌だ。


 851:人嫌い

 知らん。


 852:観ているだけ

 観ているだけ。


 853:口下手

 ……


 854:ザマア好き

 あんたらも参加しないとショウヘイが認めてくれないかもしれないわ。

 嫌でも、知らんぷりでも、観ているだけでも、反応はして!

 賛成、反対、棄権のどれでもいいから、とにかく反応して!


 855:引きこもり1号

 了解。


 856:引きこもり2号

 嫌だ。


 857:人嫌い

 知らん。


 858:観ているだけ

 観ているだけ。


 859:口下手

 ……


 860:なんちゃって賢者

 5人の性格は分かっている、無理を言っているのも分かっている。

 ずっと観ているだけで反応しなかったお前らには、表に出て何かするのが厳しい事も分かっている。

 だが性に合わない無理をしているのは俺達も同じだ。


 861:シッタカ

 俺だってやりたくねぇよ、だけど、多くの命がかかっているんだ。


 862:銀仮面

 そんな事を言うとますます重荷になるぞ、やめろ!


 863:お天道様

 命に対する責任なんて考えなくていいぞ。

 お前達5人には、俺達を見張ってくれるだけでいい。

 お前達に観られていると思うだけで、悪い事ができなくなる。


 864:ザマア好き

 ……わかったわ、私も本当に嫌だし、あなた達に無理は言わない。

 私達を止めたいと思った時だけ、ショウヘイに通報してくれればいいわ。


 865:なんちゃって賢者

 そうだな、賛成、反対、棄権の反応もしなくていい、観ていてくれるだけでいい。


 855:引きこもり1号

 了解。


 856:引きこもり2号

 嫌だ。


 857:人嫌い

 知らん。


 858:観ているだけ

 観ているだけ。


 859:口下手

 ……


★★★★★★


もしよければフォローや☆☆☆をお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る