母さんが堰を切ったように涙を流す姿を見てようやく現実味を帯びてきた。

「晴、分かって。隠していたことは本当にごめんなさい。でもあなたが選ばれたわけなんてそんなこと、」

まで言ってから二階の寝室へ駆け込んだ。どうやら僕は母さんを泣かせたみたいだ。傷つけたかったわけではない。父さんはじっと黙ってこちらを見ているだけ。母さんを追いかけるわけでもなく、僕に弁明するわけでもない。父さんは肝心なところでいつも頼りない。良く言えば慎重な性格だ。まぁ僕には関係ないか。

“どうして僕が選ばれたの“

この一言であれほど泣かれるとは思わなかった。単純な疑問に過ぎなかったのに。ただ知りたくなっただけなのに。

ひとりで考えているうちに僕が選ばれた理由以外にもう一つ知りたいことが浮かんだ。

“僕はなぜ捨てられたのか”

今日はもう散々な日だ。夏が近づいているというのに、僕はパーカなんか着て季節のことなんて忘れるくらい動揺していたのか？

半袖のはずなのに話を聞いている間に汗で色が変わってしまった。

本当の子じゃないなんて言われて普通でいられるのか。ずっとこの二人の子どもだと信じて生きてきたのに。というか2人が本物の親かどうかなんて考えたことはない。

なぜ今日なんだ。今日は僕が一年で一番楽しみにしている日だったのに。

とぼとぼと部屋へ向かう。急に目の前が真っ暗になって何も見えない。でも足だけは不思議と部屋へ向かう。ドアを開けると真っ赤なリボンでくくられた最新のゲーム機があった。そう今日は僕の誕生日だったのに。今頃笑顔で食卓を囲んでショートケーキのろうそくの火を消していたのだろう。いつも母さんが手作りしてくれる最高においしいケーキを食べていたのだろう。でもそんな今日はもう戻ってこない。

あれだけ欲しかったゲーム機も霞んで見える。ベッドに寝転がって天井を見る。天井のシミがやけに怖く感じて、すぐに目を閉じた。　　　　　　目を覚ますといつも通りの朝が来て、昨日のことは夢だったんだと思いたい。

隣の寝室から母さんのすすり泣きがまだ聞こえてくる。それを聞くのが嫌になって、またリビングへ戻った。

父さんは風呂に入ったのか、電気が消えていた。モヤついた気持ちをどこにぶつければいいのか分からなくて、うちを出た。現実から目を背けるために、ただただ無我夢中で夜の闇へと走り出た。