誰でもいいから僕が選ばれた

涼野京子

第1話 ハルの訪れ(改稿)

玄関扉を開けると、真剣な顔をした母さんがいた。

 僕の家はごくごく普通の一般家庭だ。会社勤めの父さんに、近所のスーパー『あけぼの』でパートをしている母さん。それに柴犬のハチの四人家族。ハチ僕が生まれる前から飼っているらしい。赤ん坊の頃はハチが兄貴だったけれど、今はもう年老いた僕のおじいちゃんみたいだ。父さんは無口だが、休みの日にはよく遊びに連れて行ってくれる。母さんは怒ると怖いけれどいつも優しく僕のことを見守ってくれている。

「晴、大事な話があるの。リビングで待っているから着替えてからすぐに来て」

母さんは正座をして僕の帰りを待っていた。足をがくがくさせながらリビングへ向かう母さんを見ながら、鼓動が早くなるのを感じる。   こんな真面目な顔見たことがない。大事な話ってなんだろう、進路の話かな。まだ高校一年生になったばかりになったのに気が早いなと、自分の気持ちに気づかないふりをした。

グレーのパーカに緑のジャージズボン、いつもの部屋着に着替えて僕はリビングへ向かった。珍しく父さんも帰りが早かったのか、母さんとこちらを見ている。

「座りなさい、晴。父さんたちお前に話したいことがあってな。まぁ、そうおびえるな」

「晴、ごめんね。いいから聞いてほしいの。さぁこっちにいらっしゃい」

両親の言う通りに僕はダイニングチェアーに腰かけた。両親と僕が向い合せの状態だ。なんだか緊張する。

「率直に言うと、お前は父さんたちの本当の子どもじゃない。お前は養子なんだ」

なぜだろう、びっくりはしたのにどこか冷静な自分がいる。予想した通りの話じゃないはずなのに、なぜだろう。

「母さんたちねどうしても子どもが欲しかったんだけどなかなかできずにいてね。二五歳

で結婚したのに、気づいた時にはもう三五歳になっても子どもができずにいたの。それでお医者さんにかかったらもう妊娠できない身体になってしまっていたの。泣いたわ。毎日毎日泣いて、なんで私なんだろうってそう思っていたわ。でもね、父さんが特別養子縁組の話を持ち掛けてくれて、まだ子どもを抱くことができる方法があるんだって希望の光みたいに思えた。それで二人で勉強会にもたくさん行って、あっせん団体にも登録して、やっとあなたに出会えた、あーやっと母親になれたんだってあなたを抱いた時そう実感したの」

話が上手く飲み込めない。これは誰の話なんだ?子どもができなかった?養子?ぷつりと切れた単語だけが頭に響いた。

やっと落ち着いて口にした言葉は、

“どうして僕だったの?どうして僕を選んだの?“だった。真実を隠していたことの方が普通は許せないのかもしれない。でも僕はなぜ選ばれたのか、どうして僕だったのか。そのことだけが知りたくなった。

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