第19話

【王視点】


「次の議題は学園です。西のエムルは何やら暗躍してはいるもののライ・サンダースと絡むようになってからは目立った動きを見せておりません」


 会議の内容を聞いて思わず顔がにやける。

 西のエムルにライの強さがバレた。


「ライ、エムルに気に入られたか。くくくくく」

「王よ、ここは笑うような場面ではありません」


 アルト(ライの父)が鋭い視線を送った。


「学園で一番の問題になると予想されているエムルは兵士と合同のモンスター討伐への参加が決定しております」


 ざわざわざわざわ!


 会議に出ていた多くの者が声をあげた。


「西のエムルの恐ろしさが皆には分からんのだ! 奴は人が嫌がる事をして周囲に喧嘩を売り続ける! 何度爆破したいと思った事か!」

「兵士はエムルの参加に納得しているのか!?」

「静粛にお願いします」


 それでも声が収まらない。


「エムルは危険だ! 奴は法の目をかいくぐる頭を持った悪魔そのものだ!」

「エムルは学園に封印しそこから出さぬようにするべきだろう」

「まだ話の途中です。意見は私の話を最後まで聞いた後でお願いします!」


「黙れ!!」


 シーン!


 俺の言葉で皆が黙った。

 そこにすかさずアルトが言った。


「仕方ありません。今回兵士を統べる天才魔法剣士、フェイス・ロッドセイバーに意見を聞きましょう」

「私もそう思う。フェイス、後は任せた」

「はい!」


 フェイスが無駄のない動きで椅子から立ち上がった。

 これだけでフェイスの強さが分かる。

 年は20才。

 フェイスは一言で言えば天才だ。


 見た目にも恵まれ動きに華がある。

 そして左手の甲には剣の紋章を張り付け、右手の甲には魔の紋章を張り付ける事に成功した『ダブル』でもある。


 ダブルとは2つの紋章を張り付けることに成功した者の事だ。

 ダブルになるには1つ目の紋章が規定の測定光度を超える、すなわち血のにじむような努力をしなければ2つ目の紋章を貼り付ける事すら出来ない。

 それを成し遂げたとしても2つ目の紋章を張り付ける行為は1つ目の紋章を遥かに超える苦痛を伴う。


 更にそれに耐え抜き、剣に頼らず魔法の腕を磨いた。

 普通は鍛えた慣れた戦いに頼るものだがフェイスは違った。

 慢心せず魔法の鍛錬も続け今では剣の腕も、魔法の腕も一級品だ。

 

 更にフェイスは統率能力が高く、練兵能力も高い。


 若くしてアルトと同じ地位まで上り詰めた。

 サンダース家と双璧を成す名家でもある。


「皆さんが心配されているエムル対策についてですが、エムルが疑わしいと思える行動、もしくは疑念が芽生えた時点で私が速やかに無力化します。エムルから直接同意も得ています」


 フェイス、うまいな。

 頭に血が上った皆に柔らかい言い方で具体的な解決策を端的に示した。

 無力化=攻撃して気絶させるという意味だが異を唱える者はいない。


「最後まで話を聞いた上で議論をしたいと思いましたので後はお任せします」


 うまい、人に注意をする方向ではなく、自分が話を聞きたいと言う事で対立を煽らずに会議の進行を促した。

 文官にとってはやりやすくなる。


「おほん、では続けます。続いて2人目はヒーティアです。なお、配信者である彼女からスマホは一時的に没収します、続いては」


 ぼやき声が聞こえた。


「問題を起こしそうなものが多いな」


 ヒーティア、今までは大きな問題を起こしているわけではないが男を誘惑し、配信をする点から事が大きくなる可能性はある。

 注意はしておくべきだろう。

 だがぼやかず話を最期まで聞いて欲しいものだ。


「そして最後のメンバーが」

「はあ、今回は3人だけか?」

「少し黙れ」


 俺は口を挟んだ男に真顔で語りかけた。

 その事で文官は話を進める。


「3人目はライ・サンダースです」

「ん?」


 珍しくアルトが声をあげた。


「アルト、どうした?」

「い、いえ、息子が立候補するとは思えなかったので、意外でした」

「補足します。エムル、ヒーティアは立候補しました。そして2人がライ・サンダースを推薦しました。推薦者には断る権利がありませんので強制参加となります」


 会議は進んだ。


「……引率として担任のプリズンに同行してもらいます。そして……」

 

 ……プリズンか、今回は、なにも起こさないだろう。

 プリズンが事を起こしたのは1回だけだ。


 アルクラ(ライのじいちゃん)も参加するようだ。


 エムルとヒーティアの推薦を考えて確信した、間違いない。

 エムルだけでなくヒーティアもライの何かに気づいている。

 ライ、お前うまくやっているつもりなんだろうが、追い詰められているんだよ。


 俺は何もばらしていない。

 

 ライ、お前の自爆だ。


 面白くなってきた。


「くっくくくくくくく」

「王! 今は会議中です!」

「……悪かった。進めてくれ」


 会議が終わるとフェイスに声をかけた。


「フェイス、3人の学園生についてだが、終わった後に感想が聞きたい」

「はい? 分かりました」

「深い意味は無い。性格に難はあっても天才錬金術師エムル、実力の高いヒーティア、そしてゼロの紋章の貼り付けにたった1人にしてアルトの息子、なにか国益になる話があればいいと期待していた。それだけだ」


 俺が話している横で息子をエムル達と同じカテゴリーに入れられてイラついているアルトがジト目で俺を見ていた。


 ライ、退屈させないやつだ。


 何かやらかしてくれ。

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