第17話
「せい!」
ドゴーン!
じいの作った大型ゴーレムをワンパンで破壊した。
じいと父さんが話をしている。
「ひっひっひ、ゼロの紋章は想定通りの力を発揮しておるのう」
「あの紋章は設計思想がおかしい」
「ひっひっひ、じゃがライはおかしい設計思想で無限の可能性を成し遂げようとしておる」
「ライが学園に通っても大丈夫だろうか?」
「それはどっちの意味じゃ? 学園になじめるかどうか、そういう意味で言って言っておるのか、それともライの逆転勝利に無理があると言っておるのかどっちかの?」
「どっちもだ、逆転勝利は嘘に嘘を塗り固めている」
「嘘じゃないって! ロマンなんだって!」
「ライ、エムルに雷撃を使って気絶させた動画がネットで出回っている」
「知ってるけど?」
「一瞬で雷を発動させていたな? 高等技術だ」
「咄嗟だったからね」
「杖を使わず西のエムルを気絶させていたな? 西のエムルはしぶとい事でも有名だ」
「エムルの油断があったからね」
「電撃を使うと腕まで電撃を受ける設定のおかげで『あいつ怖いわあ』とコメントされている。相手からすれば腕を焼いてでも勝ちを取りに行く危険な奴だと思われるだろう。クラスメートをあまり怖がらせるなよ?」
「大丈夫、俺努力だけで弱いから」
「そういう設定だったな。だが追い詰められた人間ほど怖いものは無い、紋章を付けた者は多くの者がそれを知っているだろう。繰り返しになるがライは自分の腕を焼いてでも強力な電撃が飛ばしてくると思われている」
「く、俺の右腕が! の練習が必要だな。あ、俺の左腕がパターンも必要か、父さん、参考になったよ!」
「そういう意味ではない」
「無駄じゃ、ライはワシに似ておる」
俺はゴーレムとの訓練を再開した。
「……」
「今ライは逆転勝利に向けて策をめぐらせておる」
「次は何をするんだ?」
「ライが言っておったのはサンダース家の名家なのに勉強しか出来ないと喧嘩を売ってくる生徒を罠にハメるつもりのようじゃ」
「うまくいかないだろう、私の話を聞いていないのか? みんながライを怖がるだろう。喧嘩を売るのはいじめっ子より弱い相手だけだ」
「ひっひっひ、ゴーレムを2体倒したライに喧嘩は売らんわな。ワシもそう思うが、楽しそうじゃからのう。現実を見るまでは放置でええ、どうせ話を聴きはせんしのう」
「仮に話は聞いても意見を曲げない、じいに似た性格が心配だ」
「ひっひっひ、ワシは可愛くて仕方がないのう、そろそろ城に行く時間じゃな」
「息子が心配で仕事に身が入らない」
父さんは色々言って城に向かった。
「そろそろ食事じゃよ!」
「もうこんな時間か」
母さんの作った食事を食べると母さんはうきうきしたように恋バナを始めた。
プリズン先生のどこがいいか?
他にもいい子はいないの?
兵士になれば妻を何人も作れるのよ?
とか孫は2桁は欲しいとか、色々気が早すぎる。
父さんと母さんはたくさんの子に恵まれなかったから俺に夢を託している感じがする。
寮生活が始まれば何気ない日常とも、地下室でゴーレムを倒す日課ともしばらくお別れだ。
俺は制服に着替えた。
「荷物はちゃんと持った?」
「大丈夫だよ、じゃ、行ってくるね」
「お母さんが一番うれしいのは孫を作る事よ」
「機会があったら考えてみるよ」
「期待してるわね」
じいが特別に作ったバイクに乗って学園に向かう。
出てきたゴブリンをひき殺して学園に入ると新しい制服に身を包んだ新入生が学園に入って行く。
男性制服は軍服にも見えるデザインだが女性用の制服には特徴があった。
上と下のフレアスカートが一体型になっていてスカートの丈が短く太ももが見える。
みんなに憧れられるように制服のデザインは良く作られている。
兵士でも装備によって服を改造する事が多い為制服の改造は自由で上に羽織るローブも指定のものであれば何を着てもOKだ。
見た目だけでどの紋章を付けているか予想出来る。
剣の紋章(戦士)は制服の上にベルトを巻いて大きめの武器を装備している。
速の紋章(スカウト)は軽装の武器を装備している。
魔の紋章(魔法使い)と錬金の紋章(錬金術師)は大体制服の上にローブを羽織っており、回復が得意なら白、攻撃が得意なら黒ベースのローブを着ている事が多く錬金術師は地味、もしくは奇抜な服装をしている。
俺自身は制服の腰にベルトを巻いて剣とじい専用アイテムを装備している。
エムルが学園の入り口の前で笑顔を浮かべながら俺に手を振っている。
「こんにちわ」
最低限の挨拶をして速足で建物に入った。
「はあ、はあ、はあ、素晴らしいよ! ここで最低限の挨拶だけをする放置プレーとはね! 君には才能があるね!」
相手にしてはいけない。
だがエムルは一方的に話を進めて来て話が終わらない。
生徒が「うわあ! 西のエムルだあ!」と声をあげて道を譲っていく。
話を、逸らそう。
「エムル、ローブは着ないのか」
「僕の体が気になるようだね」
「違うわ! 話を逸らそうとした大人の対応だよ!」
「はあ、はあ、はあ、はあ」
俺が怒鳴るとエムルは嬉しそうにする。
反応するな俺、エムルの思うつぼだ。
ヒーティアが俺に手を振って話しかけてきた。
「ライ君、こんにちわ♡」
体をS字にくねらせて上目遣いになりながら俺の手を両手で包み込むように握った。
「ああ、こんにちわ。今年からよろしくな」
「僕にはよろしくしないのかい?」
「言い方!!」
「思春期真っただ中だね。僕はただ仲良くしないのかいとそういう意味で言ったんだよ」
「エムル黙れ! 黙れエムル!!」
俺はヒーティアの手を離して前に進んだ。
後ろから「あり得ない」と声が聞こえた気がしたけど気のせいだろう。
入学式が始まりヒーティアが親友製代表の挨拶をする。
ヒーティアのあいさつで男からどよめきが起こり、それを見たヒーティアが嬉しそうに笑顔を浮かべてウインクした。
人気だな。
「遠くのヒーティアよりも隣のエムル、だよ」
エムルが俺を挑発するようにウインクをした。
イラっとしたが反応してはいけない。
見た目が良くて様になっているのもイラっとする。
「ああ、立ちっぱなしで貧血になってしまったよ」
エムルが俺に寄りかかる。
「寝るなよ」
「僕が倒れてしまうと同時にライの息子が元気になてしまいそうだね」
俺は思わずエムルの腹に掌底を当てて雷の光が見えないように内部に電撃を流し込んだ。
バチバチバチバチ!
「あががががががががががががががががががががががが」
エムルが気絶すると俺は手をあげた。
「プリズン先生! エムルが貧血で倒れました!」
ひそひそと声が聞こえる。
「おい、今西のエムルが痙攣して倒れたぞ?」
「ああ、ライが何かやったな」
「ドM修行であり得ないタフさを得たエムルを一瞬で気絶させた!」
「エムルの演技かもしれないですけど倒れたので!」
ごまかしたが生徒は疑いの目で俺を見る。
プリズン先生にエムルを引き渡すとプリズン先生のいい匂いがした。
会場の視線がヒーティアから俺に集まる。
「お前、何かやった?」
「やってない」
「でも今、エムルがあがががががががって言ってたぞ。まさかお前雷魔法を使ったんじゃ!?」
「待て待て、さっきまでのやり取りを見ていただろ? エムルは貧血だった。俺にもたれかかって貧血だと言った。しかもあいつは俺に何度も喧嘩を売ってきてそれに耐えてきた俺に変な事は言わないでくれ」
「そ、そうだよな。西のエムルだもんな」
「そうだ、西のエムルだ」
「それとな、もし疑わしければそっちでエムルの世話をしてもいいんだぞ? 俺の真実を体で体感してくれ」
「無理無理無理無理無理無理無理無理! わ、悪かった。自分で出来ないのに人を責めるのは良くないよな」
「そ、その通りだよね、エムルはライに任せましょう」
「な、何も言わない方がいいわ。だってエムルはライが面倒を見るんだもの」
周りのみんなが一斉に危機管理モードに入った。
こいつらの多くがモンスターを倒し痛みに耐えてきたのか危険から素早く逃げようとする。
場が収まり前を見るとヒーティアの目が一瞬険しくなり俺を睨んでいるような気がした。
いや、笑顔だ。
気のせいだろう。
邪悪なるエムルの行いで俺の心まで穢れてはいけないよな。
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